第39話 FDPオープン日



七月二十日、天気は快晴。

今日、俺のダンジョンが『ファンタジーダンジョンパーク』として開園する。

その記念式典が今現在、俺の目の前で行われていた。


場所は、当初予定していた入り口のトンネル前ではなく、入り口ゲートの目の前で行われることになった。

冒険者登録をするためのカウンターがある、入り口ゲートの目の前だ。

それも、この客の人数を考えれば仕方ないだろう。


右側の駐車場は、式典が始まった午前十時現在、満車に近い状態で空いている場所を探すのが困難になっていた。

一応、運営のダンジョン企画が誘導員を五人雇ったのだが足りなかったようだ。



「え~、本物のファンタジーが体験できる、ファンタジーダンジョンパークですが……」


今、入り口ゲート前に設置された仮設の壇上で挨拶をしているのが俺の父親だ。

三家族の親同士での話し合いの結果、俺の父親がダンジョン企画の代表となったらしい。みんな遠慮したのかやりたくなかったのか、会社の代表をじゃんけんで決めていたのはどうかと思う。


また、ダンジョンの運営は俺やミアたちに任せてくれるということになっているが、何か客側からの要望があれば改善してほしいそうだ。

もちろん、できることとできないことがあると忠告はしてあるので、その辺は運営の方で対処するそうだ。



「それでは、ファンタジーダンジョンパーク代表のミア様よりお言葉をいただきたいと思います。ミア様、お願いいたします」


司会の女性からそう言われ、壇上へ向かうミア。

そして、壇上へ上がると大勢の客側から盛大な拍手がおこった。


「皆様、初めまして。ファンタジーダンジョンパークの代表を務めます、ミアと申します。

宣伝動画でもお知らせいたしましたが、このダンジョンパークでは本物のファンタジーが体験でき……」


ミアの挨拶を、司会者の後ろの影で聞いていると凛が話しかけてきた。


「ねぇ、颯太」

「ん~?」

「ミアさんって、美人よね?」

「そうだな、美人だな」

「エレノアさんも、ソフィアさんも美人だったし……」


何かやたらと、ミアたちが美人だということを強調する凛。

どうしたんだ?


「どうしたんだ? 凛」

「……颯太がダンジョンマスターの時、ミアさんたちの手を借りて生き抜いてきたのは分かってる」

「そうだな、向こうでは聖王国からかなり無茶な命令とかあったが、ミアたちの手を借りて何とかやってきたな」

「感謝、してるんでしょ?」

「それはもちろんだ。返しきれないほどの恩があると思う」


俺のすぐ隣に立つ凛を見ると、下を向いてしゃべっている。

何か悩みでもあるのか?


「そ、颯太はさ、ミアさんたちのこと、す、好き、なのかな……」

「好きって、ラブの方か? それともライクの方か?」

「ラ、ラブの、方……」


……あれ? 凛は何を聞きたいんだ?

もしかして、俺がミアたちに惚れているかどうか聞きたいのか?


「そりゃあ、好きだよ。ラブでもライクでも。

十年もの間、ダンジョンマスターの俺を支えてくれたんだからね」

「……え? じゅ、十年?」

「あれ? 話さなかったか? 向こうの世界で、俺たち召喚者たちは年を取らなかったんだ。もちろん、見た目が老いることもなかった。

だが精神は成長するから、十年たった頃なんて見た目は高校生、頭脳はおじさんだったな」


俺たち召喚者は、向こうでは戦力としてしか見られてなかったから、浮いた話はなかった。王族からも貴族からも、そして平民からも、まるで戦闘するだけのゴーレムのように見られていたな。


だから、俺たちに手を出そうって貴族はいなかった。

そこは、召喚者の女性たちからすれば感謝をしているかもな。


「じゃ、じゃあ、恋人ってわけではないの?」

「恋人というより、長年連れ添った老夫婦のような? そんな感じかな……」

「……け、結婚とかは」

「ないない。召喚された異世界人と添い遂げたいなんて変人、いなかったよ。

向こうは、王族や貴族、もしくは金のある商人ぐらいが一夫多妻だったり多夫一妻だったりしたけど、そんな連中でも異世界人には手を出さなかった。

だから俺たちは、結婚はしてなかったな」


まあ、このダンジョン内は一夫一妻でなければならないわけではないから、力があるならハーレムでも作ればいい。

奴隷制度も存在するしな……。


「ねぇ、颯太」

「ん?」


その時、会場から大きな拍手が響きわたった。

ミアの一言が終わったのだろう。壇上で一礼して、こちらに移動してきた。


「…………なの。ど、どうかな?」

「え? 何? 拍手で聞こえなかった」

「~~~~~~」

「凛?」


顔を真っ赤にした凛が、ミアが歩いてくる方向とは反対の方向へ走って行ってしまった。何か、大事なことを言われた気がしたのだが、本当に拍手の音で聞こえなかった。

凛の声が、小さかったことも原因であるが……。


「マスター? どうかされましたか?」

「いや、凛がどこかへ行ってしまった……」

「凛様が? ……ソフィアに任せれば大丈夫でしょう。それにここはダンジョンです。

それより、テープカットが始まりますよ?」


こういう式典ではよくある、テープカットをしてオープンしたとする儀式だ。

今回、テープにハサミを入れるのは、俺の父親とミアとエレノア。そして、俺も指名されていた。

そのために、ここで待機していたのだが……。


「ソフィア、凛のことを頼む」

「はい、お任せください、マスター」


ソフィアは、すぐに凛の後を追いかけて走って行った。

大丈夫だと思うが、式典中は人が多いし危ない人もいるようだ。ダンジョンマスターとして、入り口ゲートを通らずに侵入を試みている者たちを確認していた。


「凛のことはソフィアに任せて、行こうか?」

「はい、マスター」


俺とエレノア、そしてミアは歩いて壇上へ上がって行く。

すでにテープの前には、俺の父親が立っていてスタッフの女性からハサミを渡されていた。


「五十嵐宗太様、こちらの位置で、このハサミでここの場所をまっすぐ切ってください」

「えっと、ここ、ですね?」

「そうです。司会の合図で、一斉にお願いします」


そう説明され、俺はハサミを準備して待つ。

周りを見れば、右にミアがいて左にエレノアがスタンバイしている。


「それでは、ファンタジーダンジョンパーク! オープンです!!」


司会の女性がそう大きな声で言うと、父親がハサミを入れてテープを切ったので、俺も同じようにテープを切った。

また、ミアやエレノアも俺と同じタイミングでテープを切り、会場は拍手の音の嵐になった。


これで、ようやくオープンした。

今日からは夏休みだ。しばらくは、ダンジョンで様子を見ながら夏休みを過ごしていくか……。







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