第38話 本物なのか
『コホン、失礼しました』
一旦スタジオに戻ると、顔を赤くした河合ななかが謝っていた。
そして微妙な雰囲気の中、コメンテーターの一人の小楠三太郎が質問してくる。
『まあ泣いたのはええけど、あの魔法は本物なん?』
『はい、私が杖を構えて撃ったものです。だからこそ、泣いてしまうほど感激しちゃって……』
『ほんまか! 音とか光で誤魔化してんのとちごうて、ホンマに魔法で、か?』
『はい、間違いありません』
すると、スタジオは大騒ぎとなった。
出演者たちで話し合いが行われる中、ななかは収拾がつかないとVTRの続きをお願いする。
『VTR! VTRの続きをどうぞ!』
映像はすぐに変わり、エレノアが映し出された。
だが、そこは魔道具屋ではなく別の店の前だ。
『こちらが、薬屋です。
薬といっても、飲み薬とか病気に効く薬とかではなくファンタジーでお馴染みの「ポーション」などを販売しているお店です』
『ポーションというと、傷などをすぐに治療してくれる?』
『はい、かけて良し飲んで良しのポーションですね』
そう言うと、撮影スタッフと一緒に店の中へ入っていく。
扉を開けると、ドアの上に付いた小さなベルが鳴り店内に響いた。
『いらっしゃいませ~』
対応に出てきたのは、耳の長いエルフだ。
金髪碧眼の美しい女性で、肩までの長さの髪を後ろで青いリボンを使ってまとめ、白いエプロンを付けていた。
『こんにちは、商品を見せてもらうわね?』
『はい、ごゆっくりどうぞ』
『ありがとう。それじゃあななかさん、まずはこちらへどうぞ』
エレノアは、ななかと撮影スタッフを案内し青い液体の入ったガラスの小瓶の並ぶ棚へ移動する。
『ここが、よく使われる傷を治すポーションです。
右から、下級ポーション、中級ポーション、上級ポーション、特級ポーションと別れていて回復力がそれぞれ違います。
また、回復力に応じて値段も違うから、自分の持ち金と相談して考えて』
ななかは、エレノアの説明を聞きながら下級ポーションの瓶を一つ手に取って観察している。
時々光にかざしながら、感心していた。
『下級ポーションと中級ポーションって、中身の色が違うのね』
『色の違いは、魔力がどれだけ含まれているかで変わるわよ。
特に特級となれば、ほら、少し光っているでしょ?
これを使うと、欠損した部位も再生することができるわよ』
その説明に、ななかたち取材隊が驚いた。
欠損した肉体を復活再生させることができるとなれば、どれだけ需要があるか。
このポーションは、日本だけではなく世界で需要があるポーションだ。
だが、問題は値段だ。
この棚に並んでいる特級ポーションも、並んでいたのは一本だけ。
しかも、見本品で中の液体が偽物の特級ポーションだった。
『えっと、特級ポーションを購入する場合は、受付のあるカウンターで注文してください。後日、店の者が責任もってお届けにあがります?
え? これ見本品なの? 』
『そうですよ。ここにあるのは見本品で、ポーションを購入するなら受付で注文して購入するという流れになります』
また、下級ポーションの購入も受付での受注購入となるらしい。
すぐに使いたいときは、ギルドで提携販売しているのでギルドでの購入を勧められる。
すすめられる。
『じゃあ、すぐほしいときはギルドで購入するのか……』
『ななかさん、購入したいの?』
『はい、ここの取材をしたというお土産が欲しかったので……』
河内ななかは、FDPに来たことのお土産を考えていたらしい。
しかし、ポーションをお土産とは考えたな。
ファンタジー世界のお土産といえば、第一位はポーションだが、この店で受注できるのは魔力を持ったダンジョン内の人々用のポーションだった。
『お土産として、ポーションが欲しいならギルドで購入した方がいいわ。
ただし、FDPを出ていくと効力が無くなるわよ?』
『え?! なぜですか?』
『それは、地球に魔力が無いから。だから、魔力を使った魔法薬は効力を失うし魔法は使えなくなるの。それは、魔道具も同じ』
『ええぇ~……』
河内ななかは落胆するが、あることに気づき復活する。
『それじゃあ、FDPで使えるのはここに魔力があるから? 何で??』
『ここに来るとき、トンネルを通ったでしょ?
ななかさんたちは気づいていなかったかもしれないけど、このFDPは地上ではなく洞窟内にあるのよ?
ほら、ファンタジーダンジョンパークって言ってるでしょ?』
『あ! ああぁ~!!』
ここで、スタジオの映像に切り替わる。
司会者、出演者全員が驚いた表情をしていた。
『ちょ、ちょい待ち! ななかはん、FDPって何なんや?』
『おそらく、現代世界に表れたダンジョン、とか?』
『はぁ?! んなわけあるか! 今までのVTRかて、CGやら特殊メイクやらつこうたファンタジー映像やないんか?!』
『違います! 私の芸能界生命かけても今までの映像に、CGや特殊メイクやらの映像はありません!』
困惑するコメンテーターの小楠。司会の増岡もまた、困惑の表情をしている。
FDPは本物のファンタジーか、それとも……。
『この真相は、今月二十日の開園を待ちましょうか。
そして、みなさんの目で確かめてください。ではななかさん、ありがとうございました』
『ありがとうございました』
『では続いては、今日のお天気です。小原さん、お願いします!』
『はい、今日は……』
河内ななかのコーナーは、こうして謎を残したまま終わった。
すべては、今月の二十日のFDPの開園を待って自分自身で確かめるしかない。
「ねぇお兄ちゃん、謎だらけで逆にお客さん減らないかな?」
「大丈夫だろ? それより父さん、開園の式典でテープカットとか本当にやるの?」
「ああ、運営のダンジョン企画で準備しているから頼むな」
今月の二十日のFDP開園の日、トンネル前で開園式典をするんだとか。
花火とか風船を上げたいから、空が見えるところで行うみたい。
そのときのテープカットを、俺にも参加するようにお願いされたのだ。
ななかのコーナーに出ていたエレノアも参加してほしいそうで、俺に許可を求めてきていた。
一応エレノアに打診してみると、ぜひ参加させてほしいと乗り気だった。
エレノアの許可が取れたことを父さんに教えると、ものすごくほっとしていた。
どうやら、ダンジョン企画が打診した方々が、エレノアが参加するかどうかで考えているらしい。
父さんたちも大変だな。
FDPの開園まで、もうすぐだ。それまで、がんばろう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます