第37話 テレビで映し出される魔法



『続いては、こちらのコーナーです!』

『ここからは、ななかのこれ見て! のコーナーです!

今日は、昨日のFDPの後半をお届けします!』


次の日の朝、昨日と同じ情報番組を家族と一緒に見ていた。

番組が始まってからも、出演者たちのコメントでこのコーナーを楽しみにしていた人が大半の様だった。


初めてじゃないか? 朝の情報番組の一コーナーが、こんなに注目を集めるなんて……。



『番組開始から、コメンテーターの皆様が楽しみにしてくれたようなので、早速VTRどうぞ!』


河内ななかが、すぐに指示を出し画面はVTRに変わる。

そこには、エレノアが大きな屋敷を紹介していた。


『ななかさん、こちらが最初の町の冒険者ギルドです。

いろいろな人の出入りがあるでしょ? 町の依頼を一手に引き受けているので、仕事に困らないのです。

では、中へ入ってみましょうか』

『はい!』


河内ななかも、少し興奮しているのか返事の声が大きくなってしまった。

だが、エレノアは気にせず笑顔で開け放たれたままの出入り口を入っていく。


ななかたちが中へ入ると、そこは大きなロビーとなっていた。


『あの奥にあるのが受付です。

ギルドの職員の女性が、銀行の受付のように仕事をしているでしょ?』

『確かに。ではあそこで本来は、冒険者登録とか依頼の受注とかをおこなうのですね?』

『そうです。受けた依頼は、右側の掲示板に冒険者たちが選択しやすいように貼り出します。

冒険者は選んだ依頼を、掲示板からはがして受付へ提示すれば受けられます』


カメラが、掲示板を映すとちょうど冒険者と思われる人が依頼書を掲示板からはがしていた。


『あの様に受けて、依頼をこなせば報酬を受け取ることができます』

『報酬ですか? それは日本円で?』

『いえ、FDPで流通しているお金で、です。

あちらをご覧ください。各ギルドには、あのような換金所を設けております』


エレノアが、掲示板とは逆の左側にある休憩所の奥のカウンターを指さすと、そこに換金所と看板を掲げた受付があった。

さらにその受付には、換金レートの表示もあった。


『えっと、銅貨一枚が十円。銀貨一枚が千円。金貨一枚が十万円。

すごい金額ですけど、あれ反対もできるんですか?』

『反対というと、硬貨から日本円へ、ですか? もちろんできますよ』

『……それって、仕事として成り立ってるってことですよ?』

『はい、この最初の町をはじめ、他の町でも人々は生きて生活していますから』


結構重要な爆弾を投下したはずなのだが、番組的にはスルーをした。

ワイプ内では、かなり議論があったようだが映像は次に切り替わる。


『次はここ、魔法屋です』

『ここで、魔法が売っているんですか~』


三角すいの屋根の家の前で、エレノアが店の紹介をしている。

店の入り口の扉の上に看板があり、『魔法屋ベリーダ』と掲げられていた。


『では中へどうぞ』

『失礼しま~す』


そう言って、ななかたち撮影隊は店の中へ入っていった。

魔法屋の中は、六畳ほどの広さに両側の壁に三メートルほどの棚が天井まであり、仕切られた棚の中には巻物状のスクロールと呼ばれる物が並べられていた。


さらに、棚の下の方は魔導書と呼ばれる本が並べられている。厚さもそれぞれで違い、取りやすい低さで並べられているところは選びやすさを考えてのことだろう。


『すごい、これスクロールというやつですよね? お土産に買えないかな……』

『ごめんなさい、お土産用のスクロールは無いのよ。

今度、お土産用のスクロールができないか企画を出してみるわね』

『あ、ありがとうございます。でも、これを使えば私も魔法が使えないかな~』


そう言うと、エレノアが困った表情でななかに告げる。


『ななかたちには難しいと思うわ。ななかたちには、魔力が無いから……』

『え? 私たちには、魔力が無いんですか? そういう設定?』

『いえ、設定じゃなくて本当に魔法は使えないわ』

『そ、そんな~……』


ななかが膝から崩れ落ち、ガックリと落ち込んでしまった。

しかし、エレノアの言葉ですぐに復活する。


『でも、魔道具を使えば魔法を使うことができるわよ』

『魔道具?!』

『魔道具屋に行ってみる? そこで、魔法を使うための魔道具があるわよ』

『行きます! エレノアさん、すぐに行きましょう!』


ななかは、テンションを上げてエレノアを魔道具屋へと急がせる。

そんなななかに、エレノアは笑顔で対応し魔法屋を出て魔道具屋へと案内する。

そして、すぐに場面が変わり魔道具屋の前へ到着する。


『ここが「魔道具屋コルノー」よ。 それじゃあ、入りましょう』

『お邪魔しま~す』


魔道具屋は、二階建ての大きな建物で出入り口も魔法屋より人ひとり分広かった。

中は、十二畳ほどの広さで天井が三メートルほどと高く全体的に明るく、魔法屋の少し暗さとは違う感じだった。


それに、壁には杖などが飾ってあり魔法使いの装備品も並べられていた。

また、棚には箱に入ったタクトや量産品の杖が箱に大量に差し込まれて売られていたりと、興味深い並べられ方だ。


『こ、この杖に付いているタグに書かれているのって……』

『呪文ですね。詠唱いらずで、その呪文を唱えれば杖を構えて撃てる魔道具です。

ななかさん、魔法を撃ってみますか?』

『良いんですかっ!! ぜひお願いします!!』

『では、こちらから試し撃ちの中庭へどうぞ』


エレノアが開けたカウンター横の扉の先には、広い中庭が見えていた。

そして、ななかはタグを見ながら杖を選び中庭へ移動する。


『エレノアさん、どうすれば魔法が使えるんですか?』

『まずは、落ち着いてななかさん。

向こうに設置している的が見えますね? あの的に向かって杖を構えてください』

『は、はい!』


杖の先端を、ななかは的に向かって構えた。

すると、エレノアが近づき杖を半回転させた。


『逆です、ななかさん。それでは、後ろの撮影の人たちに撃ってしまいますよ』

『ご、ごめんなさい』

『深呼吸をして……、落ち着いたら、杖を構えてタグの魔法を唱えてみて』

『はい。スゥ~ハァ~、スゥ~ハァ~、いきます! 【ファイアーボール】!』


河内ななかが呪文を唱えると、杖の先端から赤い魔法陣が出現し、サッカーボール大の火の玉が的に向かって勢いよく射出される。

そして、撃ったななかや撮影隊のスタッフが驚きの表情の中、的に当たった火の玉が爆発し爆風がななかたちを襲う。


『……』


無言の時間が流れ、放送事故かと思えるほど静かになった。

そして、三十秒ほどでななかたちが声を上げる。


『……出た。エレノアさん、出ました』

『ええ、見事な魔法でしたね』

『すごい! ここホントにすごい!! 本物の魔法ですよ!!

見ました? 私、本当に魔法を撃ちました!!』


手品じゃない、トリックじゃない、本物の魔法。

これは、撃った本人じゃないと味わえない感動だった。

河内ななかは、レポートを忘れて泣き出してしまった。


『うええぇ~ん』

『な、ななかさん?』


エレノアをはじめ、撮影隊のスタッフもいきなり泣き始めたななかに驚いてしまう。

VTRの中で泣き出すレポーターに、ワイプの出演者も驚いた顔をしていた。






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