第36話 教室で知る影響
「五十嵐君! 今朝のななか見た?!」
「う、うん。見たよ」
「あのFDPって、かなちゃんたちが撮ったっていう動画だよね?
五十嵐君は、ダンジョン企画の人なの? それとも関係者?」
朝の情報番組の影響は、教室に入ってきた俺にも及んでいた。
宣伝動画をSNSの動画サイトにあげてから、私も出たいとか、CGだろ? とか、感想を言ってくることはあったが少数だった。
だが、全国区の朝の情報番組での特集は、教室中を騒がすだけではなく学校中を騒がしているらしい。
教室に入るまで、あちこちでその話題を耳にしたのだ。
で、教室に入り、動画に出ていた出演者はもちろん撮影者の俺にまで注目が集まっていた。
「ダンジョン企画は、俺と陸斗、それに凛の親たちが集まって運営しているんだ」
「へぇ~」
「な、なら、今朝出てたエレノアさんって、知り合いだろ?」
「ああ、会ったことあるよ」
「すっげぇ美人だけど、彼氏いるの?」
「いるよ」
「いるのかよ……」
クラスメイトの女子の一人が、ダンジョン企画のことを聞けば、二人の男子が、エレノアのことを聞いてくる。
そして、彼氏がいるってことで落ち込んでいるが、会ったこともないのにチャンスは無いと思うぞ。
「……でもよ、FDPにはエレノアさんの他にも、エロフがいるんじゃないか?」
「それだ! くっころの女騎士もいるかもしれないしな」
「隼人、お主も想像が激しいのう~」
「いえいえ、浩二殿には及びませんよ」
そう言いあって、二人で笑っている。
エロフって、風俗街にいるかもしれないけど最初の町には無いからいないだろうね。ダンジョンパーク化にともない、上客の冒険者の大半が第六階層の迷宮都市へ移ったから、中央の町へ引っ越したんだよね。
それと、クッ殺の女騎士ってオークがいない最初の町にいるわけないって。
これも、迷宮都市に行けばいるかもしれないかな……。
ただ、女騎士ってそうそう弱い人いないんだよ。だから、そんな場面に出くわすことも無いと思う。
「颯太、今朝の見た?」
「例の取材の放送だろ? 見たよ、家族で見た」
「私も。でも、こんな騒ぎになるなんて考えもしなかった」
「凛も今朝から質問攻めに?」
「教室に来るなり、すごかった」
凛も、ダンジョン企画の関係者だからな。
教室を見渡せば、宣伝動画に出演している悟や祐樹、佐々原さんや長田さんに星野さんもみんなからいろんなことを聞かれているみたい。
特に、猫獣人のサラちゃんに関してのものが多いようだ。
紹介してほしいや、私も抱っこしたいとかナデナデしたいなど願望丸出しでお願いしている。
「陸斗! FDPってどうなってんだ? 獣人とかエルフとかおかしいだろ?」
陸斗が教室に入ってくると、趣味友の一ノ瀬恭太郎に絡まれた。
ファンタジー物の趣味で意気投合して、よく話しているのを見たがここのところは忙しかったのか、一緒にいるところを見なかった。
「恭太郎、教室に入るなり何だよ。別におかしくないだろ?
俺たちの夢、獣人やエルフがそこにいるんだぜ?」
「でも、現実的に……」
「いいか、恭太郎」
陸斗は、恭太郎の肩を抱き耳元で話始める。
同じ趣味を持った者同士だからこそ、分かりあうこともあるのだろうか?
そして、何を話したか分からなかったが、恭太郎の表情は晴れやかになり笑顔だ。
「そうか! そうだよな! その可能性があったか!」
「だろ?」
「でも、そうだとして、もしかして陸斗は……」
わなわなと震える恭太郎に、陸斗はサムズアップで答えた。
そして、お互い頷き合い別れる。
一体何の時間だったのか、傍から見ているとさっぱり分からない。
そこへ、担任が入ってきた。
「は~い、みんな席について~」
「へ~い」
ホームルームの時間だ。朝の連絡事項を聞いて、今月の期末試験の日にちが知らされる。
中間試験の問題漏洩があって、時間がずれたことで中間と期末の試験時期が近かったこともあり範囲は中間と変わらないぐらいだったのは助かったかも。
▽ ▽ ▽
学校が終わり、家に戻るとリビングのソファで座っていた父親に呼ばれる。
そのため、一旦自分の部屋に行き、荷物や着替えを済ませてリビングへ行く。
「何? 父さん。何かあったの?」
「これを渡しておく」
「これは?」
父親から、ファイルにまとめられた書類を渡され、パラパラと中を見て驚いた。
そこには、宣伝動画をSNSの動画サイトにアップしてから、問い合わせのあった企業の名前がずらっと並んでいた。
しかもそこには、政府の省庁からの問い合わせもあった。
「父さん、これマジ?」
「ああ、大マジだ! 今のところお会いしたいって内容がほとんどだが、省庁の問い合わせは出頭命令みたいな内容だったぞ」
「出頭命令って、そんな権利無いでしょ……」
「だが、一応何かあったらいけないから、弁護士の知り合いに問い合わせて、危なそうなものには書類を提出しておいた」
「すごいわね~、有名企業から無名企業までの問い合わせが」
「それで颯太、最初の町にだけ許可出しをしていいんだったよな?」
日本の企業やお店が出店したりするための許可は、最初の町のみに許可することにしている。
何故なら、FDPの最初の町だけに公共の電波が届いているようになっているためだ。
独自に電波をどうにかしたり、他の町や村に出店しようものならダンジョンの力を使って強制的につぶすつもりだ。
今のところ、ダンジョンに住んでいる人たちに地球のテクノロジーは必要なものとは思えないのだ。
食に関しては、受け入れてもいいかもしれないが……。
「うん、最初の町だけに出店するなら許可を出してもいいと思う。
ただ、流通をどうするかは考えておかないと……」
「そうか、店ですべて作っているってわけでもなかったな」
特にコンビニなどは、店内に置く商品は事前に確認しないと無用のものとなりかねない物が多いのだ。
「でも、明日のななかちゃんのコーナーを見たら、もっと増えそうね~」
「確か明日は、ギルドや商品を紹介するって言ってたな……」
「父さん、がんばれ……」
肩を落とす父さんを見て、応援しかできなかった。
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