第35話 テレビ取材の続き



『カメラ越しに見えてます? あの子の猫耳が!』

『レンズ越しでも見えている。それに、動いているしこっちに来るぞ……』


取材ということを忘れているかのように、レポーターの河内ななかとスタッフが話しながらカメラで撮っていると、カメラで撮っていた獣人の女の子が走って来た。

その可愛い姿に、ほっこりした……。


『かわいい……』

『ななかさん、レポート!』

『あ、す、すみません。エレノアさん、あの女の子は…』

『エレノア様~』


猫獣人の女の子は、エレノアに向かって走り寄り抱き着いた。

エレノアは、抱き着いてきた猫獣人の女の子をしゃがんで抱き寄せると、頭を撫でてやる。


『サラちゃん、今日はどうしたの?』

『エレノア様が、南門から出ていかれるのを見たから待ってたの!』

『待っててくれてありがとう、サラちゃん』

『うん!』


可愛い猫獣人の幼女が、美人の銀髪青眼の女性に抱き着いて身振り手振りで話をする光景は、かなり絵になっていた。

すると、取材班に気づいたエレノアがななかに猫獣人の女の子ことを教えた。


『ななかさん、この子が宣伝動画に出ていた猫獣人の女の子サラちゃんですよ』

『宣伝動画……あ! 確か、女子高生と手を繋いでいた女の子!』


猫獣人の女の子の正体に気づいた河内ななかに、サラちゃんは視線を向ける。


『初めまして、お姉さん。サラです!』


そう自己紹介すると、河内ななかはサラの前にしゃがみ込んで頭を撫でながら自分も自己紹介する。


『初めまして、サラちゃん。河内ななかといいます。

ななかお姉さんですよ~』

『はい! ななかお姉さん!』

『かわいい~!!』


どうやら、ななかは猫好きの様だ。蕩けたような表情をして、サラちゃんを撫でまくっていた。

そしてそこで、本来人間にあるはずの耳の位置に何も無いことに気づいた。


『あれ? サラちゃんのお耳はどこですか?』

『ななかお姉さん、サラのお耳はここです!』


と頭の上の猫耳を触り、ピン、ピン、と弾いてアピールする。

その時、河内ななかを始め視聴者の全員が分かったのではないだろうか。

特殊メイクでも何でもない、この女の子は本物の猫の獣人なのだと……。


『エレノアさん!』

『は、はい、何でしょう?』


サラを撫でていたななかは、真剣な表情に戻して南門から少し離れた場所で話し込んでいる背中に小さな白い翼を持った女性を指さし、エレノアに質問した。


『あの女性は、何故翼が?』

『あの方は、天使族という種族の女性です。背中の小さな白い翼は、本来は空を飛べるほど大きいのですが生活に支障があるのであのサイズまで小さくしているのです。

ついでに、隣の方は魔族という種族の女性です。

背中の翼は、魔族の方の大半が持っているそうですよ』


『魔族?! 大丈夫なんですか?』

『……ああ、魔族は敵ではありません。昔、魔族から魔王が生まれて、人々を苦しめたとか伝説でありますが、それはかつての人々のデマです。

魔族は、魔法に長けた種族というだけで他の種族と何ら変わりありません。

ですから、恐れることも敵対することも無いのですよ』

『そうなんですね……』


ななかは、そう納得すると立ち上がり、サラちゃんを抱き上げた。


『ではエレノアさん、町の案内をお願いします』

『はい、ではまずはせっかくギルドカードもあることですから冒険者ギルドから訪ねてみましょう』

『はい!』

『でもその前にななかさん、サラちゃんを解放してもらえますか?』

『え、抱いたままは……』


『ダメです。あちらのサラちゃんのお母さんが心配しているでしょ?』

『ママ!』

『あ、ああ~』


エレノアが、道の端で心配そうな表情で立っている猫獣人の女性がいた。

サラちゃんも母親を見つけると、すぐにななかの手を離れて走って行った。

ななかは、サラちゃんが離れていったことに少し寂しく声を上げてしまう。


『さ、次は冒険者ギルドです』

『は~い』


そう力無く返事をしたななかに、サラちゃんが手を振り別れを言った。

サラちゃんの母親も、一礼して見送る。


『ななかお姉さん! またね!』

『またね! サラちゃん!』


そこでVTRが終わり、スタジオへ戻ってくる。

消化不良のような内容だが、スタジオの司会が進行を始めた。


『ななかちゃん、これで終わり?』

『小楠さん、ここまでが前半です。続きは明日の私のコーナーで紹介しますが、どうでした? CGか特殊メイクか分かりましたか?』

『いや、分からへんなぁ~。でもこれで、CGの線は消えたな』


『確かにCGは無いですね。でも特殊メイクも、今のところ違うようだし……。

一体このテーマパーク! 何なの!!』

『私、絶対行きます! あんな可愛い子、私も抱っこしてみたい!』


スタジオ内の出演者のコメンテーターやゲストが、次々にファンタジーダンジョンパークへ行くことを公言していく。

そこへ、司会者が少し冷静に場を鎮める。


『まあまあ、行くにしてもいつ開園かは分かっているんだよね?』

『はい、今月の二十日開園とのことです』

『あと十日か~、待ち遠しいな~』


『明日のななかのこれ見て! は、今日のFDPの後半です。

エレノアさんの案内で、最初の町のいろいろな場所を訪ねてみました。

そこでお会いした、エルフやドワーフといった種族の方やポーションなどの薬に魔法や魔道具といったアイテムまで! どうぞお楽しみに!』

『では次は、お天気です。小原さん?! お願いします!』

『はい! 明日の……』


ここで、紹介コーナーは終わった。

しかし、明日は町の様子やアイテムなどを紹介するようだ。


「……前半は、ファンタジーダンジョンパークの入り方と猫獣人の女の子で終わってしまったな」

「サラちゃん、可愛かったわね~」

「お兄ちゃん、私も、サラちゃん抱っこしてみたい!」


別に猫獣人の女の子は、サラちゃんだけじゃないんだがな。

それに、後半こそぜひ見てもらいたい内容だ。

気づいているのかな? 予告でさらっと爆弾を投下したのを……。


ファンタジーや異世界物には定番の、ポーション類の薬。さらに魔法や魔道具だ。

地球には魔素が無いので、魔法を使うことができない。

また、地球人には魔素を溜める器官が体内に無いので魔法を使うことができない。

それを補うための魔道具なのだ。


実は、テレビの取材陣にはポーションをお土産として渡している。

ただし、渡したポーションに傷を治したり体力を回復したりする力はない。

というより、ポーションから魔素が抜けてただのドリンクになってしまっているのだ。飲みやすい味にしているので、ただのジュースと思ってくれるだろう。


だが、ダンジョンパーク内であれば傷を治したり体力を回復したりする。

たとえ魔素を溜める器官の無い地球人でも、だ。


もし、このことの重要性に気づいた人が出てくれば……。

まあともかく、この放送後、ダンジョン企画は大変な忙しさとなるだろうな。






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