第34話 テレビ取材



七月に入りすぐに期末試験が始まる予定の今日、俺たち五十嵐家一同はテレビの前に朝からくぎ付けになっていた。

何故なら、テレビの情報番組の取材を緊張しながら何とかこなした結果が放送される日だからだ。


「始まるぞ……」


時間になり、取材を受けた番組のチャンネルに変え、今か今かと見ているとレポーターの河内ななかが画面に現れた。


「始まった!」

「お父さん、しー!」


父の声が大きかったのか、妹の麗奈に黙るように注意された。



『ここからは、今話題の情報を取りあげるななかのこれ見て! のコーナー。

今日は、まずこちらの動画をご覧ください』


河内ななかがそう言うと、テレビ画面にファンタジーダンジョンパークの宣伝動画が流れ出す。

そして、ワイプに出ていた河内ななかが紹介し始めた。


『こちらは、今話題のファンタジーダンジョンパーク、略してFDPの宣伝動画です。

どうです? 増岡さんは、ご覧になったことは?』

『あるよ。うちの娘が見てて驚いてね、私や家内に見せに来たよ。

パパ、これ本物? CG? てね。

テレビの仕事しているから、こういうことに詳しいんじゃないかと思ってだろうけど……』


情報番組の司会をしている増岡智弘は、宣伝動画を家族で見たときの話をする。


『今増岡さんの娘さんの話でも聞いたように、この宣伝動画がCGか、本物かでSNSでも話題になっているんですよ。

まずは、こちらの街頭インタビューの意見をご覧ください』


河内ななかのフリで、画面はスタジオから街頭インタビューへと切り替わる。

インタビュー内容は、まず動画を見たか? から始まり、見た人にはCGか本物かとの質問をし、意見を聞く。

また、見てないと答えた人には宣伝動画を見てもらってから、同じ質問をして意見を聞いていた。


そして、再びスタジオに戻ると河内ななかがモニターに、質問のパーセンテージを円グラフで表示した。


『街頭で聞いたところでは、CGだという意見が約七十パーセント、本物だという意見が約十パーセントで、他分からないという意見がありました。

そこで、私どもはこの動画を制作したダンジョン企画という会社へ取材を申し込むと、快くオッケーをもらったので私自ら、行ってきました!

VTRご覧ください!』


河内ななかがそう言って、画面は取材の映像へ切り替わる。

でも、やっぱり実際体験しない限りCG派が多かったな……。


「まあ、まず信じられんだろうな」

「ですね。私もこの目で見るまで半信半疑でしたし……」

「私は、お兄ちゃんがついに中二病にって心配になったな~」


家族がそれぞれ感想を言ってくるが、麗奈が一番酷い気がする……。


『こちらが、今話題の動画で紹介されているファンタジーダンジョンパークの入り口です。まだ開園前ということで、私たち以外のお客はいませんが取材の許可は貰っていますので行きましょう』


ダンジョンパークの外観を映さずに、トンネルを出たところから始まっていた。

そして、一分ほど歩くとダンジョンパークに入るためのゲートが見える。

さらに、右側に広大な駐車場が見え、左側にはバスやトラックなどの大型車の駐車スペースなどがあった。


『さて、FDPの入り口ゲートに到着しました。

ここからは、こちらのパークの広報の方に案内をお願いしましょう。

エレノアさんです。初めまして、河内ななかです。今日はよろしくお願いします』

『こちらこそ、初めまして。エレノアと申します、よろしくお願いします』


テレビ画面に登場したエレノアは、どこかのCAのような制服を着て登場した。

また、エレノアの姿にワイプ内の男性陣がくぎ付けになっていた。

銀髪青眼のエレノアは、スタイルもなかなかのモノを持っているからな。くぎ付けになるのも分かるが、真のエレノアのすごさはそこではないんだよな……。


『えっと、まず聞いておきたいのですが、エレノアさんはどこの国のお生まれですか?』

『それは……』

『それは?』

『秘密です♪』


……絶対面白がってやっているな、エレノアの奴。

まあ、異世界のことはしゃべらないようにお願いはしたが……。


『……ま、まあ、そういうことにしておきましょう』


ああ、河内ななかも苦笑いだ。

でもさすが芸能人レポーター、何とか話を進めたよ。


『では、エレノアさん。

FDPの入り口ゲートに到着しましたが、これから何をすればいいのですか?』

『はい、まずは左側の受付カウンターで冒険者カードを作ってもらいます。

このパークでの、身分証明書とでもご理解ください』


ななかが冒険者カードを作っている間も、いろいろとエレノアに質問している。

エレノアも、答えられることは包み隠さず答えているようだ。

ただ、スリーサイズまで答えたのはサービスしすぎかな……。


冒険者登録書類に記入後、ギルドカードに血を一滴たらすのが早いのだが、ここは少し変えて魔道具を使用するようにした。

人差し指を、両掌で持てるぐらいの箱に入れてチャイムが鳴ると、血の採取が終わりギルドカードが出てくる仕組みだ。


箱の中では、針で指を刺す前に麻痺をかけて痛みが無いようにする。

そして、血を一滴採取し終えると回復魔法で治し、完了だ。


これは、陸斗たちの登録現場を見て考えていたことを形にしたのだ。

ダンジョンパークに人が来れば、今までの採取の方法では大勢を捌けないと思い至り、この魔道具で問題なく採取ができるはず。

血の採取現場が見えなければ、躊躇する人もいないだろうとの考えからだ。


『ななかさん、このギルドカードはななかさん専用のカードです。

ですから、他の人がななかさんのカードを使ってこの入り口ゲートを通過することはできません』

『この改札口のような読み取り機ですが、試してみてもいいですか?』

『ええ、構いませんよ』


そうエレノアの許可を取った河内ななかは、同行しているスタッフの一人に自分のカードを渡し、入り口ゲートを通ってもらった。

すると、ゲートは開かず通過することはできなかった。


『……通過できなくなるだけですね。警報とかはならないんですか?』

『警報? その必要はありませんよ、通れなくするだけです。

犯罪を犯したわけでもないんですから』

『……それもそうか』


そう納得すると、スタッフからカードを受け取り読み取り機にカードをかざし、すんなりゲートを通過した。

他の撮影スタッフも、同じようにカードをかざして通過していく。


『ゲートを通って、中へ入りましたが何ですか? あの立派な門は……』

『あれは、ダンジョンパークの最初の町の南門になっています。

これから皆さんは、本物のファンタジーの世界が体験できますよ』


エレノアは、満面の笑みで撮影スタッフを南門へと案内していく。

レポーターの河内ななかは、いろいろ気づいたことなんかを紹介しながら南門までたどり着いた。


そして、あるものを発見した。


『あ! 見てください! 南門の先に見える町を!!』

『エキストラ、か?』

『いえ、本物に見えます』


取材スタッフの声が入ってしまっていたが、そんなことも気にならないぐらいスタジオ内でも、取材VTRを見ながらワイプの中で議論しているようだ。

ワイプに映る人映る人、何か言っている。

さらに、横を向いたりしているから議論が白熱している?


『エレノアさん、早く、早く行きましょう!』


そう言うと、河内ななかをはじめ、撮影スタッフは走って南門を通り、中へ入っていった。

見た目で分かる獣人に、背中に小さな羽の生えた天使族、蝙蝠の羽の生えた魔族などが、自然な雰囲気で歩いていたのだ。


カメラが、本物のファンタジーをテレビを通じて流した瞬間だった。






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