第33話 運搬とテスト



Side トルグ


運搬ギルドのギルドマスター、魔族のトルグ・コルニングは大量の書類確認に追われていた。あの商人ギルドの大会議室から一カ月以上経つ頃、運搬ギルドの依頼はほぼパンク状態だった。


「マスター、こちらの依頼の期限が迫っています。

すぐに人を送られては?」

「ニグ、今のギルド所属の運搬人で、手の空いているものがいるのか?」

「……いませんね」

「とにかく、期限ギリギリまで待ってもらうしかない!

手が空き次第、人を送る!」

「分かりました」


ギルドマスターの執務室には、大量の書類を期限ごとに仕分けている者が五人いて仕事をしていた。

だが、それでも追いつかないほど次から次へと運搬の依頼が舞い込む。

そのほとんどが、引っ越しの依頼なのだ。


「マスター、受付からの要請です!

運搬用のマジックバックが品数不足とのことです。すぐに追加をお願いします!」

「分かった、ちょっと待て」


そう言うと、トルグは懐から通信の魔道具を取り出しどこかに連絡をとっている。

その姿はまるで、携帯電話で通話しているようだった。


「トルグです。運搬用のマジックバックが足りなくなりました。

すぐに五十ほど追加をお願いします。

………はい、はい………分かりました、よろしくお願いします」


そう言って魔道具を懐にしまい、通話の結果を知らせてくる。


「一時間後に追加が届くそうだ。受付に知らせておけ」

「分かりました!」


そう返事をして、執務室を出ていった。

このように、運搬ギルドでは冒険者ギルドと同じように、所属運搬人へギルドからマジックバックを貸し出し、依頼を受けてもらうようにしている。


そのため、パーティーを組むこともあるが基本運搬人は一人で依頼を受けて行動する。


「マスター、よく魔道具が足りなくなるとどこへ連絡されているのですか?」

「ん? 気になるのか、スーベン」

「あ、俺も気になってました! あと、連絡取るときのギルドマスターの口調が丁寧なのも気になります」


こいつらは、よく見ているな。

だが、丁寧になるのは仕方ないことだ。


「まあ隠すことじゃないからいいだろう。

俺が連絡しているのは、ダンジョンマスターの秘書であるミア様だ」

「ダンジョンマスター!」

「ミア様って、ダンジョンにあるすべてのギルドの総括をしている方だろう?」

「すごい方と、連絡していたんだな……」


今、俺たちはダンジョンの中の都市で生きている。

初めは、ここまで繁栄するとは思ってなかったし、地上と変わらない生活ができるとも思ってなかった。


ダンジョンといえば、魔物がうろつく危険な場所という認識だった。だがその分、宝物などの質が良く高く売れるものや伝説級の物が出てくる場所だった。

そんな危険な場所に町を作ると聞いて、何をバカなことを最初聞いたときは呆れたものだ。


ところがいざ来てみると、魔物がいない階層に町があり地上と変わらない住みやすさ。

そのため、数多くの種族がこのダンジョンに住みだし、その引っ越しのたびに運搬ギルドは活躍したが、今が一番忙しい。


「ギルドマスター、大変です! 大口依頼が来ました!」


現実逃避に昔を思い出していると、先ほど受付に連絡しに行ったギルド員の男が戻ってきた。


「大口だと?」

「はい! ナナハ商会が店舗を残して中央の町への引っ越しを依頼してきました!」


ナナハ商会といえば、最初の町の最大商会。

その規模はかなりのものだ。その商会の引っ越しとなると、運搬人が十人は必要になる。

だが、今その人数を確保するのは難しい……。


「すぐに手の空きそうな運搬人はいるか?!」

「二人ほどいますが、商会の引っ越しとなると……」

「……マジックバックが届き次第、非番のギルド員を招集して運搬人として仕事をしてもらえ!

商会を待たせると、独自の専属運搬人を用意してしまって依頼が来なくなるぞ!」

「は、はい! すぐに非番のギルド員に召集を掛けます!」


運搬ギルドでは、専属を作らないように料金を決めたりして努力している。

専属を作られると、依頼の多い商会が頼まなくなるのだ。

また、護衛をする冒険者などへの依頼もこちらでまとめてできるようなサービスもしているのだ。


ダンジョンが地上と繋がっていた時は、盛況だったのだが、今はダンジョンのみとなった。そのため護衛は雇わなくなって良くなったが、思いつくサービスが減ってしまい不安感が拭えない。


だが今は、他にもある引っ越し依頼をどうにかしなければ……。




▽    ▽    ▽




あれから勉強を一夜漬けして、中間試験に臨んだがそんなに難しい問題は出なかった。

そのため、かなりの空白を埋めることはできた。

中間試験は、今日一日で済むため終わればみんなで遊びに行く約束をしていた。


終了のチャイムが鳴り、すべての試験が終わるとみんな一息つく。


「お、終わった……。

俺、こんなに勉強したの初めてかもしれない……」

「陸斗、普段から授業をしっかり聞いていれば、そんなに難しい問題はなかったと思うぞ?」

「それは、悟ができる奴だからだろ?

俺や祐樹や颯太は、凡人だからな……」


陸斗が、自身の学力と俺たちの学力が同じぐらいだと思っている。

まあ、ダンジョンマスターになっても天才になるわけでも、頭の回転が速くなるわけでもないため、学力はドッコイドッコイだ。


「凛はどうだった?」

「ヤマを張ったところが問題に出ていたから、今回は結構出来たわよ。

高得点は取れたと思う」

「私も凛ちゃんのヤマにかけてたから、かなり出来たわね」


凛と佐々原かな恵が、嬉しそうに言ってくる。

対策はしっかりしていたということか。


「今日はもう、勉強のことは考えたくない!

颯太、遊びに行く約束おぼえているか?」

「ああ、覚えているけどどこに行くんだ?」

「それはもちろん、勉強の無いところだ」


勉強の無いところって、金を使うところしかないんじゃないか?


「遊びに行くより、何か食べに行かないか?」

「祐樹が奢ってくれるならいいぞ」

「そんな金ねぇよ。陸斗こそ、奢ってくれよ」


お金が無いからって、人に奢らせようとするなよ。

あと、こっちを見るな! 俺も今日はお金無いって!


「期待しているところ悪いが、俺も持ってない」

「そうか~」

「なら、お金のかからないことをするか~」


陸斗と祐樹はダメだな、すぐに解散して終わりそうだ。

俺は、ダンジョンで何かするかな……。


「凛は、友達とどこか行かないのか?」

「私たちは、スイーツバイキングに行く予定。

前々から、試験明けに行こうって約束してたからね」

「へぇ~」


頭を使うと、甘いものが欲しくなるからな。

スイーツバイキングは、ちょうどいいのかも。


「俺も参加していいか?」

「俺も!」

「……どうする?」


凛たちのスイーツバイキングに、陸斗たちが参加を要望。

だが、凛たちの表情は渋い。


「奢らないけどいいの?」

「一口くれるだけで……」

「「「却下!!」」」


やっぱりフラれたか。







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