開園と問題の章

第32話 新しいこととテスト



さて、ここまで来て時系列が分からない人も多いだろうから説明しておこう。

俺が異世界に召喚されたのが、高二の始業式から少し経った四月の終わり頃で、陸斗と凛に異世界帰りだったことを告白したのが四月最終日。


ダンジョンをファンタジーダンジョンパークとして開園することを決めたのが、告白したその日に決まったのだ。


そこからなんやかんやあって、『ダンジョン企画』という会社を起業したのが五月後半ごろということになる。

俺たちでは心もとないということで親に丸投げの形で起業したことになるが、いろいろと対応しなくてはならない問題が多いからな。仕方ないさ~。


で、開園地の『高坂山』を購入したのが6月初めになる。

購入が決まれば、すぐにダンジョンを設置してあの問題が浮上するわけだ……。

地球へダンジョンの魔素が流れ込む、という問題が。


この解決策は、今のところ思いつかない。

後々問題になるかもだが、それは何十年か何百年か先の未来の話だろう。


そして、完成した宣伝動画は試写を終えて、その日のうちに動画サイトへアップされた……。




▽    ▽    ▽




朝、教室で凛たちと雑談をしていると陸斗が勢いよく入ってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


そして、俺たちを見つけると駆け寄ってきて自分の携帯の画面を見せてきた。

そこには、昨日あげた宣伝動画が流れている。


「颯太、凛! これ見たか?!」

「陸斗、それって昨日の試写会で見た動画じゃないか?」

「もう、無料動画サイトにあげたんだ……」


宣伝動画は、昨日、関係者と担任の麻衣子先生と見ただろう?

何を慌てる必要があるのか……。


「そこじゃねぇよ! 再生数を見ろって!!」

「再生数………マジか?」

「マジもマジ、大マジだ! たった一晩で再生数一万越えだぞ!!」


俺は動画サイトの事情に詳しくないからわからないのだが、一晩で再生回数一万越えはすごいことなのだろうか?

……いや、すごいことなのだろう。陸斗と祐樹がここまで大騒ぎするのだから。


「すげぇ! 最初の動画で一万超えるのかよ!」

「なっ?! これでダンジョンパークも安泰だ!」


陸斗と悟が一緒に喜んでいるけど、俺はこのテンションについていけなかった。

凛たちも、少し引いている感じだ。


「それだけ再生されているなら、来てくれる人も多いだろうな……」


俺は、行列ができるだろうことを予想したが、陸斗は少し違うらしい。


「何を言ってるんだ、颯太。来園数なんかを気にしている場合か?

それに俺は、再生数でテンションが上がっているわけではない!」

「そうなのか? 再生数より陸斗のテンションを上げることって?」


最初に見せてきたから、再生数でテンションが上がっているかと思ったら違ったようだ。それじゃあ、何でここまでテンションが高いんだ?


「聞いて驚け! 再生数のことで父さんに連絡すると、取材依頼が来たことが分かったんだよ!」

「おいおい陸斗、取材ってテレビか? 雑誌か?」

「テレビだ、悟。しかも、あのアイドル河内ななかがレポーターをしているアノ情報番組からだ!」

「マジかよ~、俺、河内ななかのファンなんだよな~」

「俺は、清水あいかのファンだ」


河内ななかは、話題のアイドルグループ『セブンシーズ』のメンバーの一人で、歌や踊りでのアイドル活動の他に情報番組のレポーターもやっている。

陸斗曰く、リポート姿が良いとか……。


また、清水あいかも『セブンシーズ』のメンバーの一人で、こちらはドラマに出ていて演技が上手いらしい。

俺は、残念ながら彼女の出る恋愛ドラマは見ないので上手いかどうかは知らないのだが……。


「それで、いつ取材があるの? 陸斗」

「開園が七月の二十日だから、その前に取材をお願いしたいって」

「どっちにしろ、来月になってからね。

それよりも今は、明日からのテストを気にしたら?」


「「「うげっ!」」」


陸斗たちのテンションが一気に急降下したようだ。

苦虫を噛み潰したかのような表情をしている。

しかし、今年は中間試験の時期が遅いな。本当なら、先月に終わらせるはずなのに……。


「なあ凛、中間って先月にあるはずじゃなかったっけ?」

「何か問題が、事前に漏れていたそうよ。それで作り直して明日からになったらしいわ」


試験問題が漏洩したからか?

うちの高校って進学校だっけ? 問題漏洩で、一カ月もずれ込むなんてな……。

しかし、テレビの取材か。


「……なあ陸斗、取材の申し込みってダンジョン企画に来たんだよな?」

「当たり前だろ? ダンジョンパークの管理・運営は、そこがすることになっているんだから」

「いや、よく連絡先が分かったなと思ってな。

動画サイトにも、ダンジョン企画の名前しか載ってないのに……」


「おいおい颯太、もしかして見てないのか?」

「見てないって、何を?」


陸斗が、久々に驚いた顔をして俺を見ている。

ダンジョン企画はできたばかりの会社だ。そんなに有名でもなければ、事務所もできたばかりだったと思うけど……。


「ダンジョン企画のホームページだよ。

すでに立ちあがって、いろいろやっているんだぞ?」

「ホントに!? 知らなかった……」

「父さんたち、あんなに頑張っているじゃねぇか。ちゃんと見てやれよ……。

毎日、疲れ切って帰ってくるぜ」


私の家も、と凛が陸斗に賛同していた。

そういえば、うちの父親もかなり疲れた表情していたな。

……そうか、そんなに頑張ってくれていたんだな。


「そうか、知らなかった。

今度、回復ポーションでも差し入れするか」

「そういえば、今度人を雇うとかで面接をするって聞いてたな。

でも颯太、俺たちに面接なんて無理だし父さんたちに任せていいよな?」


「ああ、お願いしておいてくれ」

「了解、そう連絡しておく」


どうやら、会社も忙しく順調のようだ。

人が増えれば、少しは父さんたちも楽になるんだろうか?


そう考えていると、担任の先生が教室に入ってきた。


「はいみんな、席について~」

「「「は~い」」」


あ~、明日からの試験どうしよう。勉強してないな……。

こんな時こそ、異世界チートだのダンジョンマスターチートだのが活躍するんだろうが、俺にはそういうのは無い。


だから、一夜漬けで乗り切るしかないか……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る