第24話 宣伝動画



放課後の教室で、ファンタジーダンジョンパークの宣伝動画制作の話で陸斗たちと盛りあがっていると、委員会の会議から帰ってきた佐々原かな恵が話しかけてきた。


「凛ちゃん、まだ残っていたんだね」

「あ、かなちゃん。うん、颯太たちと話が盛り上がってね」


佐々原かな恵は、自分の席で帰りの支度をしながら話しかけてくる。

すると、陸斗が声をかけた。


「ね、佐々原さん。女優に興味ない?」

「……は?」

「陸斗? かなちゃんに何言ってんの?」


もしかして陸斗の奴、クラスメイトを使って宣伝動画を撮影しようと考えたのか?


「ついでに、悟も一緒に俳優してみないか?」

「……ついでに? 陸斗、何言ってんだ?」

「実はさ、今度ある施設の宣伝動画を撮ることになってさ~」


おいおい陸斗の奴、話してしまうつもりか?


「凛ちゃん、渡辺の話って何?」

「ん~」


凛は困った表情で俺を見てくるが、こんな状況になってしまっては話さないわけにはいかないな、と凛も理由を話し始めた。


「実はね、さっき陸斗が言ってたようにある施設の宣伝動画を撮ることになってね?

で、その動画に出てくれる人を探しているの」

「……それで、私に出てみないかって?」

「たぶん、そういうことだと思う」


陸斗の方を見れば、佐々原と同じ委員会の会議から帰ってきた大塚悟にも声をかけているが何人も出てもらってもな……。


「まあ出るか出ないかは置いておいて、その動画のプロットはどんなんだよ」

「プロット?」

「……プロットっていうのは、宣伝動画なら宣伝動画をどんなものにするかとか、動画の流れや登場人物の設定やらをまとめたものだ。

出るにしても、それが無いとどんな役で出ていいのか分からないだろ?」


まだ、どんな動画にするかも決まってないのにプロットがあるわけもない。

どうやら陸斗の奴、出れるかどうかだけで声をかけたな……。


「颯太、プロットってできたか?」

「それをこれから決めるんだろ?」

「……そうでした」


悟とかな恵は、二人そろってため息を吐く。


「どんな動画になるか、決まってから声をかけてくれ。

そのとき暇だったら、出てやるよ……」

「私も。それじゃあ凛ちゃん、また明日ね」

「またね~」


佐々原かな恵は、自分の鞄を持つと教室から出ていった。

その後、佐々原かな恵と同じように大塚悟も教室を出ていった。


「……それじゃあ、どんな動画にするか決めますか」

「そうだな」

「そうね」



まずは、ファンタジーダンジョンパークの魅力を考えて、そこを出して宣伝すればいいと思う。

となると、フィールドダンジョンの景色を動画で流したらいいだろう。


「ダンジョンの景色を映すのはいいとして、どう流すかだな」

「それは、ファンタジー要素の入った音楽に合わせて流せばいいんじゃないの?」

「なるほど、それなら最後まで見てくれそうだな」


動画サイトを探せば、ファンタジーって感じの音楽はありそうだ。

そこで調べて、使えるように許可を申請しないとな。


「風の吹き抜ける草原………そこを走るは狼獣人の子供たち。

いや、猫獣人の子供たちだな」

「……ま、まあ、頼めばできると思うけど……」


陸斗は、目を瞑りながら想像している。いや、妄想している、か。


「エルフ数人と森の情景……ドワーフは大きなハンマーを肩に担ぎ……。

城壁の上に座る天使族の女性、洞窟の中で腕を組みたたずむ魔族の女性。

こちらが声を掛ければ、笑顔を向けてくれる……」


なんか変な方向へ向かっているようだが、陸斗の奴大丈夫か?

俺の隣に座っている凛も、何か心配な表情しているぞ。


「そしてギルドで騒ぐ、いろいろな種族の冒険者たち。

楽しそうに乾杯をしている……そして、パーティーでの探索……」


そこで、カッと目を見開き陸斗は言う。


「宣伝文句は、『本物のファンタジーはここにある! 体験せよ!!』だ!」


そう言って、俺と凛を見てくる。感想を聞きたいのだろうか?

まあ、宣伝文句はそれでいいと思うが動画はこれからだろう。


「……決まったの? 陸斗」

「ああ、決まった。明日までにプロット…を書いてくるよ」


とりあえず撮影をしてみて、宣伝動画になるかどうか決めよう。

ダンジョン内の撮影のため、乗り物を用意して、たぶん泊りがけになると思うから、宿の手配……はいらないか。


扉を出入りすれば、戻ってこられるし。

猫獣人の子供たちとかは、ミアにお願いすれば大丈夫だろう。ダンジョン内は、魔物による危険はあまりないし。


「そういえば、颯太が前悩んでいた『異世界言語理解』のスキルはどうするんか決まった?」

「ああ、とりあえずダンジョン入り口で全員に付与したり消したりできるようにしたよ。考えてもきりがなかったからね。

それなら、全員に付与して消せばいいかと吹っ切れてね……」


面倒くさく考える必要はなかったんだよ、シンプルに考えれば解決だ。

後は、問題が出てくるたびに解決していけば大丈夫だろう。


「それじゃあ、撮影は今度の日曜に。颯太、よろしくな」

「ん、ああ、分かった。今度の日曜だな」

「じゃあ、日曜日に」


撮影日も決まった、後は陸斗がクラスメイトに出てもらえるか交渉をするだろう。

一応、俺と凛も誘ってみるか……。








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