第10話 相談相手



「……魔法の光が出ないな」

「はい、この世界には魔素がないので魔法が発動しないのです」


エレノアの言う通り、地球では魔法が使えないらしい。

ということは、現在この地球で魔法が使えるのは俺だけ。その中で使えそうな魔法も、おそらくアイテムボックスぐらいのものだろう。


「ん~、エレノアたちがこっちで魔法使うにはどうすれば……」

「マスター、こちらの世界にも魔素があれば私たちも魔法が使えます。

でも、それはダンジョンに住む人たちが、こちらに解放された時も同じです。魔法が使えるダンジョンの人々と、こちらの人々の間で争いがないとは言えないですから……」


ソフィアの指摘は間違いじゃないだろう。

今は、地球に魔素が無いから魔法は使えない。ダンジョンから解放されても、魔法の使えない地球で生きて行こうとは思わないだろうし、揉め事もそんなに酷いことにはならないだろう。


しかし、地球に魔素が満たされた場合、ちょっとした魔法が戦争につながることもありえる……。


「ますます、ダンジョンの解放はありえないな」

「ですが、そのうちダンジョンからの解放を求めてくると思います。

その時、マスターはどんな決断をされるのか……」


ダンジョンに籠り続けることなんて、できないよな……。

だとするならこの先、このダンジョンをどうするのがいいのかしっかり考えないと……。


「ご安心ください、マスター。

私たちは、どのような決断をされようともマスターの味方です」

「はい、困ったときは頼ってください!」


俺が不安な顔をしていたのだろう、エレノアとソフィアが俺を励ましてくれる。

青い扉の向こうで、ミアも打ち合わせをしながら俺に笑顔を向けてくれる。

俺は、三人の優しさに不安が少し和らいだ気がした。



その時、俺の部屋のドアがノックされた。


『お兄ちゃん? お父さん帰ってきたから、夕飯にしようって』

「分かった、すぐ行くよ」

『もう、用意できてるから急いでね』


机の上の携帯の画面を見ると、学校から帰ってきてからかなりの時間が経っていた。とりあえず俺は、エレノアとソフィアを青い扉の中へ戻ってもらうと送還する。


ダンジョンのことは、誰かに相談するにしても家族に事を相談してもいいものかどうか考えてみることにした。


よく、異世界帰りがやらかすラノベや漫画を見るが、俺自身がそんな存在になるとは思いもよらなかった。

でも、極端に強くなったわけでも、様々な魔法が使えるわけでもない。


便利になったと言えば、重い荷物に苦労しなくなったことぐらいだ。

だが、アイテムボックスをおいそれと世間の目にさらすこともできない。そんなことをすれば、俺は研究対象だろうし裏社会の人たちから見れば、便利な運び屋になるだろう。


家族を人質にされて、とか考えると怖くなってくる。


……とりあえず、今は黙っておくべきだろう。

俺のダンジョンをどうしていけばいいのか、もう少し考えよう……。




▽    ▽    ▽




次の日、いつもより早く学校の教室に来てみたが、何にも思いつかない。

自分の席で腕を組んで目を瞑りながら考えていると、後ろから誰かに叩かれた。


「何、辛気臭い顔で考えているのよ!

それに、今日は早いじゃない! 何かあったの?」


中学の時からの友達の、大内凛だ。

異性でありながら、気軽に話し合える親友といってもいい。そして、今日はもう一人、凛の後ろから話しかけてきた奴がいた。


「お~っす、凛、颯太。

この時間にお前らがいるなんて、今日、何かあったか?」


俺のもう一人の友達で幼馴染の、渡辺陸斗だ。

高校一年の時に同じクラスになってから、初めてできた友達だ。その頃からの付き合いだが、すでに幼馴染のような間柄になっている。


お互いの家にも遊びに行ったこともある。


「何もないでしょ? 颯太がいつより早く来たぐらい、かな」

「颯太、何かあったのか? お前が早く学校に来るときは、何か悩みがある時だろう?

テストの時とか、告白の時とか」

「告白!? 颯太、誰に告白したんだ?!」


陸斗が俺をからかい、凛が何故か焦った様子で俺に質問してくる。

誓っていいが、俺は高校で告白したことはない!


「落ち着け、凛。

俺は、高校で告白したことはない。陸斗が揶揄っているだけだ……」

「そ、そうなのか……」

「あれれ~、凛、もしかして?」

「うっさいっ!」


そう言いながら、ホッとしたことを揶揄われた凛は陸斗に蹴りを入れる。

……いいところに入ったな。鐘の音が聞こえた気がしたぞ……。


蹲る陸斗は無視して、凛は真面目な顔で俺に向き直ると…。


「真面目な話、何でも相談してくれ。

どんなことでも、必ず相談にのるから……」


俺は、凛の真面目な顔に頼もしさを感じた。

だからだろうか、この異世界からの力を相談してみることにした。家族にも話せなかったことだが、俺のことを心配してくれる気心知れた友達なら何かいい使い道が見つかるかもしれない。


「……そんなに言うなら今日の放課後、相談にのってくれるか?」

「! ああ、私に任せろ! どんなことでも力になるぞ!」

「お、俺も、いいか?」


いい笑顔で、凛が承知してくれた。

そして、蹲ったままの陸斗も力になってくれそうだったので、了承し放課後に話をすることにした。


気やすい友達だからこそ、話せることもあるのかもな。

俺は、少し気が楽になったような感じで学校生活を終えた……。




放課後の教室。

ホームルーム後の挨拶を終えて、俺は凛と陸斗を連れ立って帰ることにする。

放課後の教室で話せる内容でもないし、何より、実際に見てもらった方が早いからな。だから、俺の家に来てもらうことにした。


「そ、颯太の家に行くの、初めてなんだけど……」

「お、凛は初めてなのか? 俺は何度か行ったことがあるけど、男子高校生の部屋って感じだったぜ」

「そうなの? でも、男子高校生の部屋ってドラマとかでしか見たことないからな……」


俺の家に向かう帰り道、後ろで凛と陸斗が俺の家について話していた。

凛が、他の男子高校生の部屋を知らないことに少し安堵するが、確か彼氏がいた記憶があるんだが、その時部屋に行ってなかったのか?


「凛って、彼氏がいなかったか?」

「それって、中学の時の話じゃない。高校に入ってからは、いないよ。

告白もされてないし……」

「んじゃあ、男子中学生の部屋に入ったことあるの?」


陸斗が、俺と凛の彼氏の確認から部屋に行ったのかの確認を聞く。

確かに、彼氏なら行ってもおかしくない、のか?


「ん? ないないない、そんな深い関係でもなかったし」

「深い関係? 中学生の深い関係って何ですか~?」

「……また、蹲りたいのかしら~?」

「いえ! 蹲りたくありません!」

「ならば、余計な詮索はしないように!」

「ラジャッ!?」


キッと睨む凛に、ビシッと敬礼をする陸斗。

よほど、今朝の凛の蹴りが痛かったのだろう。俺も気をつけようと心の中で誓いながら、自分の家に向けて歩いていく。


でも、中学生の深い関係とは何だろう。

男女の関係というには、浅はかすぎるよな……たぶん。



いつもは乗ることもない電車で、俺の最寄りの駅に着くと、そこから俺の家に向かって歩く。三人で雑談をしながら歩いていると、移動時間なんてすぐに過ぎていった。


そして、俺の家の前まで来た……。







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