第9話 階層の確認と
「次は、第八階層か……」
「森林階層の第八階層は、エルフ達の集落が点在しています。
放牧の町と漁業の町の間に位置する、『森林の村』から森林階層へ行けるように、マスターが転移の街道を設置しましたね」
あれは確か、エルフ達からの要望だったよな。
このダンジョンに定住するにあたっての条件みたいなものだったけど、森林の村では納得できなかったみたいで、第八階層に森林エリアを作って移住を決めてくれたんだったな。
ドワーフに鉱山を与えているのだからとか、人間たちを優遇しすぎとか、旧聖王国に迷惑を掛けられたのだとか、いろいろ五月蠅かった印象だ。
「エルフ達の移住の条件だったからね。
それがどうかしたの?」
「……こちらをご覧ください」
エレノアが、第八階層を移したモニターの画面を見せる。
空中に浮遊しているモニター画面だから、移動が自由自在だ。
「なっ! 何じゃこりゃあ?!」
そこには、俺の知っている第八階層の姿はなく、階層の中心の森にバカでかい木が一本そそり立っている。
あきらかに、周りの木に比べて大きすぎて驚くばかりだ。
「……もしかして、あの大木って」
「はい、マスターの推測通り、『精霊の木』です。
今、あの木の周りには、たくさんの精霊や妖精が住み着いています。
さらに、第九階層の影響もあって、ますます賑わっているようですよ」
精霊の木って、確か別名『世界樹』だろう?
世界に一つだけの、エルフ達が信仰しているかのように大事にしているという……。
しかも、精霊の木の影響か森も広がってないか?
「あれだと、エルフ達にとっては天国のような場所になっているな」
「はい、そのため第八階層へ続く街道を幻惑魔法で隠し、森林の村を封鎖したほどです」
「……そこまでするか」
しかし、こうなると第九階層がどうなっているのか気になるな。
確かあの階層は、ダンジョン内の魔素枯渇対策の階層に使ったはずだ。その対策のおかげで、ダンジョン内の魔力の潤滑は問題ないレベルになったはず。
「エルフ達の階層に影響を及ぼしている、第九階層を見せてくれ……」
「……マスター、見て驚かないでください」
「……」
すごい気になる、そんなにまずいことになっているのか?
俺は、恐る恐るエレノアが呼んだモニター画面を見た。俺から一番遠い空中にあったモニターの画面が、エレノアの手の動きで俺の目の前に移動する。
……チラッと見るが、俺の魔素枯渇対策の施された映像が映し出されている。
何も問題は無いと分かると、じっくり画面を見た。
二、三分ほど、画面を見ているとおかしなことに気づいた。
モニターの画面が、同じ映像ばかりを映しているのだ。
「ん? エレノア? さっきから同じ映像しか映ってないが……」
「マスター、同じではありません。
ちゃんと、第九階層の中心から周りが見れるように、ぐるりと映しだしていますよ」
周りを映している?
この第九階層は、ダンジョンにいろいろな人が住み始め、旧聖王国からの無理難題を解決するためにいろいろやった結果、ダンジョン内の魔素量が枯渇した。
最初は、DPを消費して魔素を補充していたが、一時しのぎにしかならず対策をミアたちと協議した結果、魔素を生み出す『トレント系』の魔物をダンジョンに植えることにしたのだ。
そのために解放したのが、この第九階層。
だから、この階層には『トレント系』の魔物がいるはずなのだが、モニターの画面には森林しか見えない。
それも、映像が変わったかどうかも分からないほどに、森林の映像が続いている。
「……エレノア、もしかして」
「はい、第九階層はトレント系の魔物に、占拠されました」
「マジか……」
……待てよ。確か、第九階層へ続く道は、さらに下の階層の第十階層からしか行けないようになっていたよな。
第九階層で生み出された魔素は、ダンジョンに吸収され各階層へ循環される。
階層一つをトレントたちが埋め尽くしたとしても、基本魔物は階層を移動できないようになっているから、十階層に影響はない。
……あれ? 問題ないんじゃないか?
「エレノア、九階層に、何か大切なものがあったか?」
「えっと、確か何もなかったと思います。
第九階層はもともと、魔素枯渇の対策のための階層とするとマスターが決められていましたから……」
それなら、問題ないな!
階層一つ、占領されたと聞いて焦ったけど、今のところ問題ないならすぐのすぐ解決しなくてもよし。
「うん、とりあえず、今は放置で。
後々考えて、対処することにしよう」
「分かりました。
では、最後の第十階層ですが、ここはダンジョンコアの神殿と私たちの住居があるだけで、広大な空き地が広がっています」
第十階層は、階層の中心にダンジョンコアを安置するための神殿があるのだが、今は、ダミーコアがその代わりに安置されている。
何故なら、オリジナルのダンジョンコアは俺の体内に埋め込まれているからだ。
聖王国に召喚された俺は、魔力なしの普通の異世界人だった。
それを、宮廷魔術師の連中に手術され、ダンジョンコアを体内に埋め込み魔法が使えるようにされたのだ。
そう、俺は改造人間だったのだ……。
まるでどこかのバッタ人間みたいだな。
しかも、敵である旧聖王国の王族との隷属契約があって、ダンジョン作っていろいろな問題解決させられて……、考えてみれば俺って大変な目にあっていたんだな……。
「あのマスター、どうされたんですか?
何故、泣いておられるのですか?」
「いや、ダンジョンコアのことを考えていたら、ちょっとね……」
この十年のことを考えて涙を流した俺を、ソフィアが気遣ってくれた。
その隣で、エレノアもあたふたしている。
ダンジョンコアを埋め込まれて、一番良かったのはミア、エレノア、ソフィアの三人と出会えたことかなと考えて、俺は袖で涙を拭く。
「とにかく、全階層の状況は確認した。
今すぐに対処しなければならないことはあまりないと判断する。
そこで、これからどうするか、だが……」
「マスター、ダンジョンを外と繋げることはできませんか?」
ソフィアから提案してくるが、ここは俺たちが召喚された異世界ではない。俺の生まれ育った地球の日本だ。
ダンジョンを繋げたら……。
「いや、今のところダンジョンを解放することはできない」
「……そうですよね。外の世界には、魔素が無いようですから魔法も使えないし……」
ん? エレノアが今、気になることを言ったな。
「……エレノア、今なんて……」
「え? えっと、魔素が無いから魔法も使えない、と……」
「魔素が、無い?」
いや、確か俺は外で魔法を使ったぞ?
ステータス表示も魔法のはずだ。それに、ダンジョンに入るための青い扉の召喚も魔法のはず……。
俺は椅子から立ち上がると、急いで青い扉を開けて自分の部屋に入った。
そして、何か魔法を使おうとして、ステータス魔法しか使えないことに気づく。
ああ、どうして異世界にいる間に、魔法の勉強をしなかったのだろうか……。
「とにかく、【ステータス表示】」
そう言うと、俺の目の前にステータス画面が出現した。
……使えるじゃないか? 魔法が。
そう確認して、頷くと開いた青い扉のドア枠の側に居たエレノアを呼び寄せる。
「エレノア、大丈夫だ。ちゃんと魔法が使えるぞ?」
「……マスター、それはマスターの使われた魔素がダンジョンコアから供給されているからです。
その証拠に、私が外に出て魔法を使うと……」
エレノアが、外に出てきて、俺の側で魔法を使おうとする。
エレノアの手のひらが俺に向けられると…。
「【ヒール】」
ヒール、回復魔法だが、何も起こらなかった。
普段なら、ヒールと唱えれば対象が淡く緑に光るはずなんだが……。
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