第6話 送還後の異世界



「ところでミア、王都から避難してきた人たちは何人ぐらいたんだ?

それと、聖王国の王妃様たちはどこに滞在することに……」


俺が、いなくなった後のことを聞こうとしてミアに質問したんだが、ミアたち三人は驚いたような顔をしている。

俺、何か変な質問したか?


「……どうかしたか?」

「い、いえ。 王都から避難してきた人々は、総勢三万人ほど。それと王妃様たちは、最初の町の北側にある貴族用の屋敷に住まわれています。

ただ、第一王妃のソルフィーナ様は、五年前にお亡くなりになられています…」

「何っ?!」


ちょっと待って!

第一王妃のソルフィーナ様が亡くなった? 五年前??

俺が向こうの世界から送還されて、一日ほどしかたっていないはずだ。それに、今日は俺が異世界に召喚された日だぞ?!


俺はすぐに自分の携帯を鞄から取り出すと、電源を入れて表示画面を確認する。

そこには、確かに俺が召喚されたはずの今日の日時が表示されていた。

自分の認識が正確だったことにほっと安心するも、ミアたちが俺に抱き着いてきたことと何かが繋がった気がした俺は、ミアにある質問をした。


「ミア、俺が送還されてから、何日が過ぎたか分かるか?」

「え~と、日数計算が難しいので、大体でよろしいですか?」

「ああ、それで頼む」


ミアが考えこむように、日数を計算している。

俺はその様子に、ゴクリと唾を飲みこんだ。


「マスターが送還されてから、約三十年の時間が経過しています」

「……さ、三十年」


時間の経過の早さに眩暈がする。どうやら、地球と異世界の時間の流れがかなり違うことが分かった。

でもこの時間の流れの違いでも、何故時間が戻ってしまったのかが分からない。

召喚される時間の何時間も前に戻されたのだ。


……考えすぎて、頭が痛くなってきた。



「そうだ、聖王国は? レストゥール聖王国はどうなった?」

「マスター、その報告は私から……」


そう言って、エレノアが声をかけてくる。

そういえば、王都で情報収集をしていたのはエレノアだったな。ここは、潜入していたものから報告を聞こう。


「エレノア、聞かせてくれ」

「はい! マスターが送還されてから、レストゥール聖王国の王都は陥落しました。

国王は最後まで抵抗したようですが、帝国の騎士の手によって殺されました。

ですが、王太子たちが王都から逃げ延びていたため、同盟軍は王族全員の行方を追って、王都を中心に聖王国全土への捜索を開始しました」


ここからが凄惨な戦いの始まりで、召喚された異世界人たちがコブラン宮廷魔術師が死んで送還されたため、王国側の戦力が激減し各地で劣勢となった。

貴族たちは、次々と降伏か殲滅となり、どんどん国土が荒れていく。


南の端の領地で、第一王女と第三王女が捕まり、そのままその地で処刑された。

また、西の貴族の領地で王太子が新国王へ即位となるも、同盟軍の進撃は止まらず、さらに第二王子から王太子になったその弟の裏切りによって、若き新国王は弟の手によって殺され、王太子は帝国によって暗殺された。


これにより、残るはこのダンジョンにいる第三王子だけ。

だが、ダンジョン攻略など時間の無駄と、帝国の宰相が進言して聖王国の領土をすべて占領したところでレストゥール聖王国は滅亡したと認識される。


「それじゃあ、ダンジョン内にいた第三王子たちは?」

「聖王国滅亡後、帝国の使者が来て命を助ける代わりに平民になれと契約書を交わしたそうです」


……そうして、完全に聖王国の王族はいなくなったわけか。


「聖王国の貴族たちは……」

「貴族たちも、一定の財産を残し同盟国に接収され、平民の身分に落ちたそうです。何人かは、このダンジョンへ移住しています。

あと、王城にあった財宝を同盟国で分配された後、同盟軍は解散しました」


大陸統一という覇道を打ちだした聖王国が無くなれば、同盟を結んでいることも無いというわけか。

同盟軍の中心になったグラスドール帝国は、かなり嫌われているな。


「あ、王城にあった召喚陣は、どうなったんだ?」

「帝国によって、管理されることになったようです。

宮廷魔術師の召喚陣に関する研究資料なども接収され、帝国の魔術師たちの手によって、再び研究が開始されました」


だが、宮廷魔術師の残していた資料は、肝心要の部分が抜けていて研究はなかなか進まなかったらしい。

だが、それからしばらくして、召喚に関する噂や情報が入ってこなくなった。


「そこで、私は帝国に潜入して情報収集をすることにしました」

「忍者のスキルを持つエレノアなら、潜入調査も情報収集も簡単だったんじゃないか?」

「いいえ、とんでもない。 『帝国、侮りがたし』でした」



エレノアが帝国に潜入して十五年の月日がたったころ、帝国の城に見慣れない一人の女性が現れた。

服装は戦闘魔術師といった感じの動きやすい魔術師風の武装で、腰に黒い異形な杖を差していたとか。


また、その女性が現れた頃から大陸各地のダンジョンが踏破されるという噂が流れてきた。それも、ソロで踏破している戦闘魔術師の服装をした女だとか。


「まさか、帝国の城で見た?」

「はい、そのまさかです。

しかも、後で分かったことなのですが、その女の名はナナカ。ナナカ、レンジョウというニホンジンだとか……」


……間違いないな、帝国は勇者召喚か異世界人召喚を成功させている。

しかも、ソロでダンジョン踏破をやり遂げるんだから勇者召喚の可能性が高い。

さらに、腰の黒い杖というのは、もしかすると……。


「それで、そのナナカはこのダンジョンに?」

「いえ、このダンジョンに来る前に帝国に呼び戻されました」


そうか、助かったと言えば助かったのか?

俺のダンジョンは、聖王国の問題を解決するためにだったり、ダンジョン内で人が生活できるようにしたから十階層しかないんだよな。

もしナナカが来たら、すぐに踏破されてしまうところだ……。


「帝国内で、難関なダンジョンでもできたのか?」

「いいえ、マスター。帝国の新皇帝即位のためです」


帝国の新皇帝? 即位式にわざわざ呼び戻したのか?


「新皇帝の即位式が終わると、大陸統一を掲げて侵攻を開始しました。

しかも、同盟国だった者たちへ降伏勧告をしてから進軍を開始したそうです」


……今度は、帝国が戦争を始めたのか。


「え、もしかして?」


俺がミア、エレノア、ソフィアと順番に顔を向けると、彼女たちはそれぞれ頷いて答えた。このダンジョンへ、再び人々が避難してきたのだ。


「マスター、帝国の統一宣言が去年のことです。

戦争から逃れるために、このダンジョンに避難し始めた最初の人が来たのが、先週の話です」

「……ん? 避難してきた人を受け入れ始めたんだよな?」


ソフィアが、時系列を説明してくれると、ナナカによるダンジョン攻略が十年以上たっていることに気づいた。

それで、避難民の受け入れが先週……。


「受け入れは始めたのですが、すぐにダンジョンの出入り口が閉じてしまったんです」

「ダンジョンの出入り口が、閉じた?」

「そうです。出入り口の下から壁が出現して完全に……」


ダンジョンの外に繋がる出入り口は一カ所のみ。

そこが閉じられると、ダンジョンの外には出られなくなる。また、外では、ダンジョンの出入り口が閉じられたことによって、ダンジョンの形跡が消えるらしい。


聖王国の廃村の跡地に造った俺のダンジョンだが、出入り口が消えたため元の廃村に戻ったということだろう。

その後の帝国が、異世界がどうなったかは知る手立てがないな……。







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