第5話 ステータス表示
「ただいま~」
放課後、一人になれる場所を校内で探すもほとんどが部活などで使用されていて諦めることになった。さらに、学校からの帰り道でも一人になれそうな場所はなく結局、家の自分の部屋まで帰ることに。
玄関で靴を脱いでいると、家の中から母の声が聞こえた。
「おかえり~」
俺は、キッチンからの母の声を聞いて自分の部屋へ向かった。
確か今の時間だと、父は自分の店にいて、妹の麗奈は友達と学校で勉強だろう。友達と一緒の高校に進むため、一緒に勉強をしているって母と話していたことがあったからな。
俺は、玄関からそのまままっすぐ自分の部屋に入ると、鞄を机に置いてまずは着替える。脱いだ制服をいつもの場所の壁にかけ、ベッドの下の引き出しから部屋着のトレーナーの上下を出して着る。そして、ベッドに座ると周り見て誰もいないことを確認する。
やはり、この言葉は気軽に言えるものではないのだ。
異世界でも、この言葉は初めの時だけだったし、普段生活をしていると言うことはなかったからな……。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……」
深呼吸を繰り返して、気分を落ち着ける。
俺が異世界へ召喚されたのは、夢ではなく現実だったのだと確認するために。
「【ステータス表示】」
軽く目を瞑り、その言葉を言い終わるとそっと目を開けた。
すると、俺の目の前にステータスを表示した青白い画面が出現したのだ。まるで、授業で使っているタブレット端末の画面みたいなものが、目の前の空中に出現している。
「! で、出たっ!!
やっぱりあの十年は、夢なんかじゃなかったんだ……」
異世界に行ったことが現実だったと分かると、俺は涙があふれて止まらなくなってしまった。
向こうでの十年間の、苦労や悲しみなどたくさんの思い出がよみがえってきたからだろうか……。
いつの間にか俺は、両手で顔を覆って号泣していた……。
時間にして二、三十分ほどだったが、泣いたことで気持ちを落ち着かせることができた俺は、改めて自分のステータスを確認する。
「……それにしても、こっちでも自分の『ステータス』が確認できるということは、地球にも魔力があるのか?」
最初の疑問はそこだった。
魔力は、向こうの世界では当たり前に空気中に存在していて、このステータス表示という魔法や他の魔法を含め、向こうの世界で使われていた魔法は空気中にある魔力を使うものが多かったからだ。
だからもし、地球に魔力がなければこのステータスは表示されないはずなのだ。
「そうだよな、ステータス表示されているんだから、あるのだろう……。
しかし、改めてゲームとは全く違う表示の仕方だよな……」
俺の目の前に現れている表示画面には、現在の俺のステータスが表示されている。
名前 五十嵐 颯太 (いがらし そうた)
年齢 17歳
職業 彩桜大付属高校二年/ダンジョンマスター
称号 異世界帰還者
能力 異世界言語理解 アイテムボックス ダンジョン創造
「……異世界といえば、レベルシステムが存在しているかと思っていたけど、俺たちが召喚された異世界には存在していなかったな……」
もしかしたら、見えないレベルがあるのかとも思いいろいろやってみたけど、結局地球と同じで、力をつけるには筋トレするしかないし、剣や魔法を使うには修業するしかなかった。
スキル表示に表示されるからといって、簡単に使えなかったな……。
ただ、魔法は面白かったな。
地球だと使える人いなかったし、攻撃、防御、支援、回復、付与といろんな魔法が存在していた。
でも、残りの魔力表示が無いから、あとどれだけ使っていいか分からず何度も何度も魔法の使い過ぎで気絶したのは苦い思い出だ。
俺も何度か気絶を経験してから何とか魔力残量が分かるようにならないものかと、四苦八苦したよな……。
「で、開発したのがこの魔力残量メーター」
俺は何もない空間に手を突っ込んで、片手で持てる長方形の物を取り出す。
光る青色のメーター表示がある、USBメモリーのような魔力残量メーター。
「これを腕時計のように付けて、身に着けるだけで自分の残量魔力が表示される。これのおかげで、魔力の使い過ぎで気絶する人が減ったとかで各ギルドで感謝されたっけ」
ホント、異世界って面白いけど便利ではないんだよな。
「って! 今俺、自然にアイテムボックスを使ってなかったか?
こう、自然に手を何もない空間へ……!!」
恐る恐るアイテムボックスのこと考えながら、空中に右手を出すと波紋が出て俺の右手が呑み込まれた。
驚いた俺は、何度も何度も手を出し入れしてしまう。
「……もしかして、ステータス表示よりもこのアイテムボックスの確認をすればよかったのかも……」
異世界の存在の確認といえばステータス表示という、ラノベや漫画からの固定観念に頭を抱えながら少しだけ反省した。
そんな恥ずかしい失敗をしながらも、俺は改めてダンジョンマスターの力を使うべく、ステータスに表示されている【ダンジョン創造】と声に出した。
すると、向こうの世界で天の声と呼ばれていた女性の声が頭上から聞こえる。
『現在、ダンジョンを新しく造ることはできません。
既存のダンジョンを消去してから、創造してください』
「……ん? 既存の、ダンジョン?」
天の声にそう言われ、もしかしてと向こうの世界に残してきたと思っていたダンジョンへ続く扉を出現させる。
「【ダンジョンの扉召喚】」
そう唱えると、部屋の床に魔法陣が出現し、その魔法陣から青い扉が出現した。
俺の創造したダンジョンは向こうの異世界でも異質だったらしく、通常のダンジョンは出現した場所に固定されるものだったのだが、俺のダンジョンは入り口が固定されず、今のように召喚した扉などに付与させることができたのだ。
つまり、好きな場所にダンジョンの出入り口を設定することができるのだ。
おそらく、俺の体にダンジョンコアを埋め込んでしまったための弊害だろうという結論だったが、出現させた入り口を、何度も移動させて聖王国の人たちを混乱させてしまったのはいい思い出だ。
俺は腰かけていたベッドから立ち上がると、出現した魔法陣の上の青い扉のノブに手を掛ける。そして、ノブを回しゆっくり扉を手前に引いて開ける。
すると、開けた扉の先に三人の人影が……。
「「「マスター!!」」」
三人は、俺の姿を確認すると『マスター』と俺を呼び、勢いよく抱き着いてきた。
右側に抱き着いたのが、ダンジョンで秘書をしていたホムンクルスのミアだ。
左側から抱き着いてきたのは、情報収集を担当していたホムンクルスのエレノア。
そして、正面から抱き着いたのが、ダンジョン内の町でケーキ屋を営みながら情報収集をしていたホムンクルスのソフィアだ。
それぞれ、異世界でダンジョンを創造したときに生み出されてからの付き合いだから、十年以上になるのか……。
三人が勢いをつけて抱き着いてきたため、三人の女性としての柔らかさよりも衝突の衝撃の方が強く、激痛しかなかった。
さらに俺に衝突した後、三人でギュッと俺に抱き着いため息ができなくなる……。
「さ、三人とも、息、が……」
「マ、マスター! す、すみません…」
そう言って、最初に離れてくれたのがミアで、その後ソフィア、エレノアの順番で離れてくれた。三人が離れてくれたので、ようやく息ができるようになった……。
何度も深呼吸する俺を見ながら、ゆっくりと近づいてくる三人。
「あ、あの……」
そう遠慮しながら、最初にソフィアが俺のトレーナーを正面から指で掴んでくる。
それを見たミアとエレノアも、それぞれ左右からトレーナーの袖の端を指で掴んだ。
……なんだか、恥ずかしい。
「と、ところでミア、ここは俺が創造したダンジョンで間違いないか?」
「は、はい、マスターが創造したダンジョンで間違いありません。
マスターが送還された後も、言われたとおり避難民を受け入れてきました」
ミアたちは、俺を扉の中の部屋に招き入れるといつも座っていた椅子へと案内する。
俺が地球に戻ってきて、一日しかたっていないはずなのにミアたちの態度がおかしいな……。何だか、何年もいなくなっていたような感じだ。
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