第3話 送還され、日本へ
聖王国の王都での戦いが始まったと知らせを受けてからしばらくすると、俺のダンジョンに避難してきた人たちが現れ始めた。
最初は、いくつもの馬車を引き連れた商人たちだったが、やがて着の身着のままの人たちが増えていく。
そんな中を、一台の馬車が歩いてダンジョンに向かってくる人々を押しのけて爆走してくる。
「何だ、あの馬車は?!」
「……マスター、あの馬車に乗っているのは、王国の王妃たちだそうです」
「分かるのか? ミア」
「いえ、御者の男が、そう叫びながら走らせているので他の避難してくる人たちが避けています」
爆走する馬車の御者の叫びが、モニターの中から聞こえてくる。
『道を空けろー!! ひき殺されるぞ!!
聖王国、第一王妃様たちが乗っておられるのだ! そこをどけーっ!!』
「……確かに、王妃様が乗っているらしい。 それも複数、か?」
「はい」
「……颯太さん、優先した方がいいのかな?」
相沢美咲さんが、王族の扱いについて確認してくる。
しかし、ここは俺の作ったダンジョンだ。俺が法律だ……と、言えれば良かったんだが、俺たち異世界人には、契約の呪いの影響で王族には逆らえないようになっている。
「本当に王妃様が乗っているなら、断ることはできない。相沢さん、他の異世界人の中で手の空いている人と一緒に、迎えに行ってもらえるかな?」
「わ、分かったわ」
そう返事をすると相沢さんは、この部屋を出ていった。
「マスター、王妃様たちの滞在場所はどこに……」
「最初の町に、王都にある貴族の屋敷みたいな大きな家があっただろ?
アレを仮の滞在場所にして、後でDP(ダンジョンポイント)を使って、ふさわしい屋敷を建てるしかないだろう」
「では、建てる場所を調べておきます」
「よろしく頼むよ、ミア」
ダンジョンができてから貯めに貯めたDPを、こんなことで使うのは心苦しいが、しょうがないよな。
それに、避難してきた人たちからDPを吸収することができるだろうし……。
ダンジョンポイントとは、生きとし生ける者たちが持つ生命力だ。
この生命力を吸収してダンジョンの魔力とし、様々な物やダンジョンの階層構築に変換することができる。
また、変換できるものは、ダンジョンマスターの知識に依存するので人がダンジョンマスターになると、攻略難易度が上がるらしい。
俺はこのDPを使って、王国の様々な案件を解決してきた。ほとんど強制だったがな……。
ダンジョンのいろいろな場所を映していたモニターの一つに、王妃様たちが映る。
その様子を、ダンジョンに避難してきた人々が遠巻きに見ていた。特別な扱いをしていると思われたかな……。
その時、モニターの中の相沢さんの足元に魔法陣が出現した。驚いた俺は、他のモニターに映る異世界人たちを見ると、相沢さんと同じように足元に魔法陣が現れていた。
「マ、マスター?!」
「!! 俺もかっ!!」
俺はこの現象に、すぐに俺たちを召喚したあの男が死んだんだと思った。
何故なら俺は、ダンジョンのことを調べるために王城にある研究書などを読んでいたからだ。
その中に、勇者召喚陣に関する研究書もあった。
……その後、あの宮廷魔術筆頭の男に取り上げられたが……。
俺は、送還陣のことについて知りたかったのだが、見られたら困ることでもあったのだろう。その一つが、召喚をした者が死ぬと召喚された者は元の場所に戻るというもの。
その昔、召喚した勇者が魔王討伐旅の途中で消えたという事件があった。
このことは、ともに旅をしていた者たちが帰国してすぐにした報告から分かり、すぐに原因を調べると勇者召喚をした魔術師が殺されていたことが発覚。
のちに、新たに召喚された勇者のおかげで魔王は無事討伐されたが、このようなことが再び起きないように、召喚した者の保護や送還の謎も研究対象にされたらしい。
そして今、俺たちは送還されている……。
「ハッ! ミア、俺が消えるとこのダンジョンがどうなるか分からない!
だが、もしダンジョンが残っていたら避難してきた人たちのことは頼むぞ! なるべく全員助けるんだ!」
「マ、マスター!」
そう言い残すと、ミアが俺を呼びながら手を出してくる。
俺はそのミアの手を握ると、魔法陣の輝きとともに送還された。
そして、魔法陣の輝きが消えると、そこには誰もいなくなっていた……。
▽ ▽ ▽
―――ピピピッ!
今日も、朝から目覚ましの音が五月蠅い。
だが、この時間に起きないと学校に間に合わないと分かっているのだが……。
そこまで寝起きの頭で考えて、俺は跳ね起きた!
驚愕の表情で、周りを確認する。
先ほどまで俺は、異世界のしかもダンジョンにいたはずだ。だが目の前の部屋は、十年前、異世界に召喚されるまで使っていた実家の俺の部屋。
懐かしさに、涙があふれてくる……。
壁に掛けてある高校の制服、本棚の漫画に教科書、机の上の携帯に鞄。
鳴っている目覚ましを止めると、ふと頭に疑問が浮かぶ。
その答えを確認するために、机の上の携帯を取り画面を見た。
「………、召喚された日の朝?」
どうなっているのか、訳が分からない。俺は召喚されたあの電車の中ではなく、電車に乗る前のそれも朝起きた時点まで戻っていたのだ。
……いや、これから召喚される、のか?
ぐるぐると分からないことで悩んでいると、ドアの向こうから声が聞こえた。
「お兄ちゃん! いい加減起きなよ!? 遅刻するよ?!」
「!!」
俺の妹の声だ。懐かしいな……。
また涙があふれてくるが、ここはグッと我慢して着替えないと。召喚されていない人たちにとっては、普通の何でもない日常なんだ。
それにもし、泣きながら妹や親に抱き着いたら、おかしくなったと思われてしまう!
俺は、ベッドから起きるとすぐに着替えて部屋を出る。すると、ドアの前には妹が待っていたのだが、ついジッと見つめてしまった。
「……何?」
「な、何でもない……グスッ」
妹のジト目に、懐かしさを感じて涙が出るがごまかそうと手で顔を覆う。
すると妹は、俺の顔を覗き込んできた。
「……泣いてるの?」
「ちょっと、欠伸をしただけだよ」
「……お兄ちゃん、キモイよ?」
そう言うと、妹は先に行ってしまう。
俺は、妹にキモイといわれるよりも、再び会えた感動の方が大きく、あまりショックを受けなかった。
……いきなり抱き着いたら、キモイどころじゃないな……。
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