二話、出会い

 暗闇くらやみの中で、一人ひとりと数頭が音を立てていた。

 

 場所は《エルライン王国》より東北にある大きな森。名を《ドレスト》。

 浅い所であれば「銀級」から「銅級」。深くもぐれば「金級」以上の魔物まものが生息し、冒険者ぼうけんしゃになり立ての初心者から年月をかけた玄人くろうとまでが愛用する王国付近では一番の狩場かりばだった。


 「――っ。はぁ……はぁ……」


 息を切らして一人ひとり冒険者ぼうけんしゃは走る。


 『――』


 その背後には暗闇くらやみでもなお目を引く赤いを持ったおおかみが数頭。

 まるで群れでりをしている最中かのように、おおかみたちは空気を切り冒険者ぼうけんしゃ目掛めがけて接近する。


 「ッ!? っく……!」


 接近に気付いた冒険者ぼうけんしゃは走る足をゆるめ、その勢いを殺さずに背後をかえ一閃いっせん

 

 その右手にはお世辞にも真面まともとはがたいぼろぼろのつるぎがあった。

 は欠け、所々にいたみがついているのが分かる。明らかに限界をむかえる寸前かの様に劣化れっかしている。

 

 しかしそれも仕方がない。

 

 『――』

 「ほんと……。どうして『群れ狼フロックウルフ』がこんな浅い所にいるのかな……っ」


 悪態をつくように冒険者ぼうけんしゃは心の内を吐露とろする。

 

 「群れ狼フロックウルフ」。驚異きょうい度は「銀級」から「金級」。常に群れを成し単独で行動をするのはまれ

 そのおそろしさは何といっても団結力。単体であればすばしっこくあろうとも「銀級」一人ひとりで対処できる。しかしそれが複数になれば一気に危険度はがり、冒険者ぼうけんしゃが何名もいてようやくまともに戦える存在だ。

 

 何よりも今まさに追いつめられている冒険者ぼうけんしゃは「銅級」であり、この場所は森の中でも浅い場所。つまり群れ狼フロックウルフ遭遇そうぐうする可能性など皆無かいむに近いのだ。本来なら。


 「――」

 『――』


 おたがすきを見せないようににらい、間合いをはかる。

 

 まだ日が出ていたころ、手入れを欠かしていなかったこともあり日の光を反射していた冒険者ぼうけんしゃの愛けんはもはやこわれかけ。

 対して群れ狼フロックウルフは一頭も欠けていない。傷がつき血が流れているが、それでもかがやきは消えていない。

 

 どう考えても分が悪かった。


 (それに……)


 ちらりと、冒険者ぼうけんしゃは意識を背後に向ける。

 

 群れ狼フロックウルフ俊敏しゅんびんであり、敵に対して獰猛どうもうである。ただしげる方法がないとも限らない。

 その一つとして、暗闇くらやみに特化したそのは光に弱いため、大きく目くらましをすればどうにかげることも可能だ。それを冒険者ぼうけんしゃかれは数分前から理解しながらも、行動に移せずにいた。

 

 理由は簡単で、しかしこの場では致命的ちめいてき


 『――!』

 「ふっ!」


 びかかって来る一頭との間にけんを走らせ、迎撃げいげきする。

 ついでおそかる群れ狼フロックウルフたちをあくまでも近寄せない形でけん牽制けんせい


 背後を気にする冒険者ぼうけんしゃ。正確にはその背に体重を預ける一人ひとりの少女の事。

 一人ひとりであれば迷わずに逃走とうそう選択せんたくしているし、まずもって武器を失いかけるほどの危険をおかしていない。

 意識を失っている見知らぬ少女の事が、冒険者ぼうけんしゃであるかれの行動を阻害そがいしていた。


 (突破口とっぱこうを見つけないと)


 少女を背負うために左手はふうじられている。

 予期せぬ負担をかかえたために足にも徐々じょじょ疲労ひろう蓄積ちくせきされ、武器は本当に寿命じゅみょうむかえそうだ。

 絶望的と言っていい。


 何故なぜこうなっているのか。それは少し前、空が茜色あかねいろに染まり始めたころからになる。

 

   ⚔


 ドレストの中でも入口から入って少しの場所。

 そこで一人ひとりの男が茶色のうさぎから依頼いらいに必要な部位をっていた。

 

 小兎スモールラビット。「銅級」であり初心者が最初にぶつかる難関である。茶色の体毛に赤い目。間違まちがってはいけないのが決して生まれたての子供ではない事。成熟した個体は冒険者ぼうけんしゃと戦いげおおせた経験のある厄介やっかいな存在だ。そして厄介やっかいなのは見た目だけでは明確な判断がつかない事。

 個体による強さのはばちがうため、たかが小さいうさぎめてかかれば骨を折る事だってある。毎年成り立ての冒険者ぼうけんしゃから被害ひがいが出ているほどだ。


 さいわいこの個体は成熟して日も立っていなかったため、男は手こずる事なくたおすことが出来できていた。


 「えーっと……後はー」


 男はった部位をにおいが広がらないように専門のふくろに入れ、携帯けいたいしていたかばんに収納する。

 かたにかける形のかばんには冒険者ぼうけんしゃ依頼いらいを受けるために必要な各種道具、そして戦利品が入っていた。その中から小さな紙を取り出し、書かれている文字に目を走らせる。


 「あー……ちょっと足りないかな。もうちょっと時間がかかりそう」


 内容を確認かくにんした男は紙をもどし、かたわらにいつの間にか落ちていた小さな石を拾い上げこれもかばんに入れる。

 そして森の中を歩きだした。

 

 「んー、暗くなるまでには終わりそうだけどなー」


 男の想定ではすで依頼いらいを片付け森を後にしていた。

 決しておごっているわけでも、ましてや慢心まんしんしているわけでもない。男は同じ内容の依頼いらいを何度か受けている。その経験から出された推測だった。


 「まさかこんなにも魔物まものがいないとは。……確かにこの時期は冒険者ぼうけんしゃが増えるけど、くすほどに元気があるのは同業として喜んでいいのかな」


 こよみとしては新しい門出かどでを祝う時期になって少し。心機一転と張り切る人は多数いる。

 そして冒険者ぼうけんしゃの看板をたたく若き新人たちもその中の一人ひとり。すぐに依頼いらいを受けようと闘志とうしを燃やす様を男は想起そうきした。そして小さな笑いをこぼす。


 「なつかしい。ぼくもそんな時期があったのかなー? ……なんて」


 男が冒険者ぼうけんしゃになってから二年と少し。

 残念ながらやる気に満ちあふれた溌溂はつらつさは最初からなかった。思い返すように空を見上げても、過去ではなくただ一面の緑があるだけ。


 「っと。早く目的を終わらせないと」


 森にわずかばかりにんでいた日の光は届かなくなってきている。

 いくら場所が外に近かろうとも、進む先は中であり後少しで明かりは必須ひっす暗闇くらやみでの戦闘せんとうはなるべくけるのが無難だ。

 何より帰れなくなる。


 ――そして。

 茜色あかねいろとおし、視界が悪くなってきたその中で、男はその短い人生でも類を見ない現場に遭遇そうぐうしていた。


 『――』


 太い木にかくれながらも目をらせば、その先には群れ狼フロックウルフの群れ。

 この時点で男の脳裏のうりには撤退てったいの文字がかんでいるはずだが、動く様子を見せない。動けないと言わんばかりに、あせほほを流れていく。

 男は一点に視点を向けていた。


 (なんで女の子が……っ)


 男から見て群れ狼フロックウルフはさんだ少しおくに、おそらく少女らしき人がたおれていた。

 一体どんな姿なのか、どうして囲まれているのか、その一切いっさいが不明。今分かる情報は、何もしなければ意識を失った少女が間もなく群れ狼フロックウルフおそわれるという可能性。そして事態はそれだけではないという事だ。


 (どうする。どうすればいい。どうして『銀級』がこんなところに!)


 この場所は森の中でも比較的ひかくてき浅い場所。確かにもう少し進めば危なくなるが、少なくとも「銀級」が出てくる事態はあまり聞いたことがない。

 いや、それよりも。「銀級」が群れ狼フロックウルフだけではないことが問題なのだ。


 (暴れ牛ランページカウ角突き兎ホーンラビット……! どう考えてもこんな場所で見かける魔物まものじゃない!)


 男は先ほどちがう場所で遠目に見た魔物まものを思い出し、身震みぶるいする。


 男が依頼いらいを達成してから、もう長くない時間がって居る。それでも森をけれていない。

 その理由は一つ。けれる状況じょうきょうにない。それだけだ。


 あせるように男の息があらくなっていく。しかしそれを責めることは難しい。

 例え「銀級」や「金級」の冒険者ぼうけんしゃがこの場にいたとしても、異常を察知する。何かが森に起きていると疑う。生息域を大幅おおはば逸脱いつだつした魔物まものの行動は、何が起きるのか分からない危険性を秘めている。客観的に見れば、運が悪い。即刻そっこく森を出てはなれるべきだ。そして冒険者ぼうけんしゃ協会に異常を報告する。


 ――それが出来できていれば苦労しない。

 男は異常に気付いた時から極力戦闘せんとうけ、神経をめぐらせて魔物まもの回避かいひしてきた。場合によっては出口に向かう道の方に魔物まものがいたこともあり、道を変更へんこうし続け結果的に動けない所にまでめられているのだ。


 (それよりも、助けないと……!)


 男の頭にかぶのは少女をほうっておけないという意思。

 どちらにしろ状況じょうきょうは悪化の一途いっと辿たどる。こうしてかくれていようと時間がつごとに視界はせばまり、魔物まものの数が増えていく可能性すらある。徐々じょじょに追いつめられているのだ。

 それでも助けに入ることは難しい。


 相手は男よりも格上の魔物まもの。ましてやけたとしてほかにも魔物まものはいる。

 その状態で他を気にしながら群れ狼フロックウルフを相手どれるほどの余裕よゆうは持ち合わせていない。一か八かの分が悪いけになる。

 だからこそ男はかくれて迷い続けているのだ。

 ――だが状況は待ってくれない。


 『――』


 群れ狼フロックウルフが、そのするどく少女の皮膚ひふをいとも容易たやす貫通かんつうするであろうきばき出しにする。

 暗闇くらやみに光るひとみは赤く、男に遠目からでも恐怖きょうふあたえる。

 その距離きょりはより縮まり始めていた。


 (っ)


 数秒先には悲惨ひさんな光景。それは確実にやって来る。

 ふるえる手のひらで口元をおさえ、なるべく男は冷静をよそおおうとした。ここが最後の選択せんたくだ。

 助けるか、見捨てるか。

 

 「……っ…………ぁ……」


 小さく、動いたのは――少女だった。

 まだ息がある。生きている。小さく声にならない吐息といき、それを男はかすかに聞いた。


 (何をしている。何で動かない。ぼくが――)


 小さく目を見開き、そして男は口元から手をどけた。

 一瞬いっしゅん強く目をつぶり、開いた。何かをもどすように。


 (ええいッ、やってやる!)


 男はようやく意思を固めたのか、かばんから一つの小さなびんを取り出した。そしてかばんを地面に置く。

 どのみちかばんを持って帰れるのかは分からない。少女の事を考えると、なるべく荷物は少ない方が良い。命には代えられない。

 ふるえる手をさえつけ、男は腰元こしもとからけんった。


 「――くらえッ」


 左手に収まっていたびん群れ狼フロックウルフの群れに投擲とうてきし、勢いよく走り出す。

 恐怖きょうふころすためか固く口を閉じ、目をつぶった男と同時、まばゆい光が一面を白く染めた。

 暗い森の中が一瞬いっしゅん明るさをもどす。


 『――!?』


 夜行性ゆえか、暗闇くらやみに慣れた瞳孔どうこう突然とつぜんの光は混乱を生む。

 視界をうばわれ、混乱に足がくずたおれる群れ狼フロックウルフの合間を一目散にはしけ、記憶きおくにある少女の場所へと男は疾走しっそうする。

 

 手の届かぬ距離きょり一瞬いっしゅんめ、男はたおれる少女の元へ近づくことに成功した。


 「これは……っ」


 目を開けた男の視界に映るのはぼろぼろな少女。

 背はおそらく男の半分になるかどうか。長いかみは土とほこりよごれ、着ていた衣服は所々が破れている。魔物まものからの攻撃を受けたのかうでと足からは少なくない血が流れ、一刻も早く治療ちりょうを要する状態だった。

 

 この異常が発生している森の中で、生きていることが不思議なぐらいに消耗しょうもうし切っている。

 月明かりがかすかに視界を広げてくれるが、これなら見ない方がましだったのかもしれない。


 「っ!」

 『――!』


 背後からせまる一頭をけんで受け止め、流す。しかし完全にはいかない。

 衝撃しょうげきうでを通して男に伝わり、何よりたった一撃いちげきけんわずかに欠けた。けんの一部だったはずの鉄が飛び散る。


 (そりゃあ全部はまるわけじゃないよね……!)


 群れ狼フロックウルフの視界を数頭くらませようと、れ出る個体はいる。

 戦力差を実感し、男はげの選択肢せんたくしを取る。

 

 本当ならば少女の状態を気遣きづかうべきだが、そうもいっていられない。なるべく早く場を離脱りだつするため、片手で少女をかかえ、後ろへと走り出す。

 その先は森の深く。出口とは真逆まぎゃくだが、まともに戦えないのなら迂回うかいするしかない。


 『――』

 『――』


 目がしばらく使えない状態にありながら、発達した嗅覚きゅうかくを持って当たりをつけ、群れ狼フロックウルフするどびたつめりかざしせまる。

 それを片手で何とか近づかないように牽制けんせいし、後は全力で走る。

 背を向けるのは自殺行為こういに近いが、それ以外にはなれる方法がない。


 (――早く出口を探さないと!)


   ⚔


 状況じょうきょうは変わらない。森をける目的はいまだ果たされず、むしろ徐々じょじょおくへとはいんでしまっている。

 このままでは助けるどころか二人ふたりまとめて死体行きだ。

 かすかに上下する身体と、わずかにれ出る息から背中の少女がまだ生きていることを男は把握はあくしている。しかしれる衝撃しょうげきなどが事態を悪化させないとも限らない。


 (このままじゃ……ッ)


 予期せぬ危機との遭遇そうぐう。今まで軽いとはいえ少女一人ひとりを背負いながら、舗装ほそうされていない森を走り続けた疲労ひろう

 それはゆるやかに、男の首をめるように確実に消耗しょうもうさせていく。


 (――明かり……ッ!?)


 男の視界の先、もはや黒以外の色がないのではと思われる木々の先に、わずかな光が現れた。


 (魔物まものじゃ、ない。ならっ)


 魔物まものが放つ独特な目の色じゃない。けれどここらにいる冒険者ぼうけんしゃが明かりを付けている訳でもないだろう。

 冒険者ぼうけんしゃであれば僥倖ぎょうこう。しかしこの森の異常を知りながらとどまる冒険者ぼうけんしゃがどれだけいるか。

 魔物まものであれば終わり。経験をえる未知であればどうしようもない。


 それを考えていない訳でもでもないだろう。しかし男はわらをもつかまなければいけないほどに追いつめられている。

 それに、ほかの可能性だってあるのだ。


 全力をしぼるように、大地をめて男は光に向かっていく。

 木々をけた先、確かに魔物まものではなかった。

 

 ――がけだ。


 「そういう、ことか……っ……」


 男ののど干上ひあがるように、小さな音を鳴らす。

 森の中に生まれた亀裂きれつ。自然に生まれた物なのか、それとも冒険者ぼうけんしゃ魔物まもののどちらかが作り出したのか。

 その真偽しんぎを確かめる時間などない。


 走って数秒、たったそれだけでがけへと落ちる。その先は見えない。

 無理矢理足を止め、背後に警戒けいかいするためかえる。

 見えていた光は、木々がないがゆえに降り注いでいた月の光だった。好転したとはいえない。


 「追いつめられたっていう訳だ。判断を間違まちがえたかな……」

 『――』


 つかずはなれずの様に、いまだ男と少女をねらつづけていた魔物まものが退路をふさぐ。

 その目は爛々らんらんかがやき、同じく月に照らされる姿はおそろしい。月明かりを反射するするどつめが、いつ男たちにおそかるのか。

 恐怖きょうふまぎらわす様に男は口を動かす。袋小路ふくろこうじだ。


 「いや、それなら最初からそうだった」


 今日きょうこの日、この森にたことがそもそもの間違まちがい。

 加えて一人ひとり撤退てったいすればいいものを、少女をかかえてしまっている。


 群れ狼フロックウルフと男の間合いが徐々じょじょせばまる。

 それと比例して、場の緊張きんちょうは上がっていく。

 二頭がおそかった。


 『――ッ』

 「ふっ! っ!?」

 『――っ? !!』


 男がけれたのはまぐれだ。

 応戦しようとるったけんが、折れた。

 限界をむかえた様に、いや、とうに限界はむかえていたのだろう。ちょっとした衝撃しょうげきでも折れていた。

 

 二つになりあらぬ方向に飛んだが、偶然ぐうぜんにもほか群れ狼フロックウルフさる。

 いくつかの破片はへんがばらけ、男のうでなどをかすめた。服が切れ、赤くにじはじめる。

 男は武器を失った。けんの長さが半分になる。


 選択せんたくせまられる。分の悪い、どころではないだろう。

 どちらにしろ、助かる可能性を見つけられない。

 

 「――なら、最後まで足掻あがくだけ」


 折れたけんを選別とばかりに群れ狼フロックウルフに投げつけ、男は覚悟かくごを決める。

 長く続く命の危機が、男を普段ふだんはしないような危険なけにてた。おおよそ正気ではない。


 走りだす。森の中ではなく、がけの方へ。

 群れ狼フロックウルフがいる。ほかにも危険な魔物まものがいる。同じことのかえし。勿論もちろんそれもあるだろう。

 だが、それだとしても。がけ暗闇くらやみに、一縷いちるの望みをかけるなど馬鹿ばかだと言っていい。


 「ごめん、助けられなかった!」


 それは、少女への言葉か。


 文字通り身を投げるように、男は底の見えぬ暗闇くらやみんだ。

 捨てたけんで空いた右手を動かし、なるべく少女だけでも助かるようにときしめる。


 重力が無くなったように、臓腑ぞうふおそう不快な感触かんしょくえる。

 耳をたたく風の音が、耳の機能をうばっていく。今すぐにでも閉じたくなるまぶたを開き、暗闇くらやみに目をらす。そして無理矢理口を動かせるようにする。

 右腕みぎうでに力をめ少女をはなさぬようにして、少しのあいだだと左手の手のひらをおそらく着地点になるだろう地面へと向ける。

 

 深さがどれほどのものか。

 ふかければ二人ふたりまとめて無残に血をらす事になるだろう。浅くても衝撃しょうげきがどれほどのものか。最低でも骨のいくつかが持っていかれる。


 それでも男は希望を捨てない。

 最後まで生きる方にける。


 男はさけぶ。


 「【大風よ!】」


 左の手のひらが小さくみどりの光に包まれる。

 体中に残るすべてを使って、切り札を切る。

 そして、常軌じょうきいっする現象を生み出した。


 生み出される暴風とまで呼んでもいい風のあらし

 それを見届けることなく、男の意識は一足先に暗闇くらやみへと落ちた。


 これまた小さく、男と少女を光が包んだ。

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