第19話「幸せに向けての大きな一歩」
京四郎の18歳の誕生日の日。
この日は京四郎と未夏の結婚式で、教会に人が集まっていた。
「あいつ、本当の意味で大人になったな…」
「同感だな。ったく、いつもみんなの先を歩いてて、やっと追いついたと思ったら、いつの間にかまた遥か先に行ってしまって…」
誠一と啓太が一緒の席で話していた。
「京は、これから新たな道を歩むのね…」
「なんか悔しいなぁ…本当なら私が、って思ってたのに…」
灯と千香が、誠一たちとは別の席で話していた。
「初恋の人を、友達に取られるなんて…」
「いいじゃない。彼に負けないぐらい素敵な彼氏がいるんだから」
晴香と凛が、誠一や灯たちと別の席で話していた。
「まさか、矢坂君が18歳で結婚とは…私の知らないところで、大人になってたんだなぁ…」
未夏の勤め先の課長が、どこか遠くを見るような顔をして言った。
「これで3回目になるのか…」
「そうね。でもまだ夏海が残ってるわよ?」
「私は、まだいいかな…仕事に慣れて、いろいろ落ち着いたらって思ってるから」
憲治、睦美、夏海が同じ席で話していた。
この場に龍司と和佳奈がいたが、和葉と陽介の姿はなかった。
和葉は半月ほど前に男の子を出産して入院中だからである。
(子供は
そしてこの場には、スミの姿もなかった。
スミは和葉の入院先で、しかも一緒の病室にいる。
顔色がおかしいことを睦美が心配して無理やり病院に連れていった結果、病気が見つかって入院することになったのだった。
その治療のために入院し、和葉と一緒に式場の様子を設置されたモニターから見ている。
司会者の挨拶と説明で式が始まり、タキシード姿の京四郎が祭壇と入口の間辺りに立ち、シスターがパイプオルガンでウェディングマーチを遅めのテンポで演奏し、瑠璃とウェディングドレス姿の未夏が入ってきた。
瑠璃と未夏はゆっくりと進み、京四郎の近くまで行くと、未夏は瑠璃から離れて京四郎の横に立ち、二人はしっかりと手をつないで祭壇に向かって歩き出した。
ゆっくりと祭壇に向かう二人を、参加者全員が静かに見守るように迎え、二人は神父の前で立ち止まり、演奏も終わった。
「去年のクリスマスの夜に二人でここに入ってきたこと、私は昨日のことのように覚えています。その時から、二人は夫婦であるかのように固くしっかりした絆で結ばれており、それは今も変わってないように見えます。“夫婦というのは、共に苦労し、そして共に苦労を乗り越えていくもの”だと私は思います。これから先、いろいろな困難がやってくるかもしれませんが、二人で力を合わせて乗り越えてください」
神父の話が終わり、指輪の交換が始まった。
ここまでの間、京四郎は少し硬い表情をしており、未夏は優しく微笑んでいた。
そして誓いの口づけになったが、京四郎が少し背が低いこともあり、未夏が少しかがんで高さを合わせた。
それを見た京四郎は、未夏のヴェールをカーテンを開けるように広げて未夏の肩にそっと触れ、未夏は目を閉じて顔を寄せ、京四郎も目を閉じて未夏の唇に自分の唇を当てた。
しばらくして唇は離れ、未夏はシスターが持ってきたブーケを手に取り、それを見た女性陣が集まった。
未夏はみんなに背を向けてブーケを後ろに向けて投げようとしたが、昨夜寝違えたせいか、肩を痛めてしまっていた。
そのため、京四郎が代わりに後ろ向きで高く放り投げた。
ブーケは花びらを散らしながら高く舞い上がり、それを取ろうとした女性陣が手を伸ばした。
しかし、ブーケはバサッという音を立て、京四郎の頭に落ちるというとんでもないオチがついたのだった・・・。
一瞬、完全に静まり返ったが、その直後にみんな大笑いになった。
「あ、あいつ、なんつーオチを!」
「らしくないけど、傑作もいいところだ!」
誠一と啓太が腹を抱えて笑いながら言った。
「京ったら! なにやってんのよもう!」
「京ちゃん…ぷぷぷぷぷぷ」
灯と千香も同じように腹を抱えて笑っていた。
客席の人たちはもちろん、神父やシスターも腹を抱えて笑っていた。
モニター越しに見ていた和葉、陽介、スミや付き添った看護師も笑っていた。
「京四郎ったら…お笑い芸人顔負けなことを…」
陽太もきゃっきゃと笑っていた。
未夏も笑っていたが、京四郎は少しの間、何があったのかわからずにいたみたいだった。
しばらくしてみんな落ち着き、気を取り直して式を終え、食事会になった。
改めて投げられたブーケは、灯が取った。
龍司が予約した居酒屋に集合し、みんなが席に着いたところで、憲治が乾杯の指揮を執った。
「京四郎と未夏さんの末永い幸せを願うと同時に、これからの若い世代の明るい未来を願って、乾杯!!」
みんなでグラスを合わせ、成人を過ぎている人たちはビールを飲み、未成年の人たちはウーロン茶を飲んだ。
それから30分もしないうちに酔っ払いが出るようになり、そこに誠一たちも交じってどんちゃん騒ぎになった。
※誠一たちは未成年で、未夏は運転することもあり、この後も酒は一口も飲まなかった。
飲んだり歌ったりとにぎやかだったのだが・・・。
「飲むのはいいけど、誰が車を運転するんだ? 俺バイクしか運転できないぞ?」
京四郎が聞くと、一瞬で凍り付いたかのように静まってしまったのは余談だ。
この後で店の人から運転の代行があることを聞いて、凍り付くほど静まり返ったのが、一瞬で氷が解けたかのようにのようにはしゃぎだした。
夜になって食事会が終わり、運転の代行を呼んだりしてみんなは帰った。
未夏の部屋に二人で帰り、しばらく静かだったが、未夏が京四郎を呼んだ。
「ねぇ…」
「ん?…あ」
京四郎は呼ばれて振り向くと、目の前が真っ暗になり、一瞬何があったかわからなかったが、温かさを感じて抱きしめられたのだとわかった。
「これから、よろしくね」
未夏はそう言って、京四郎の頭をそっと撫でた。
「こちらこそ…」
京四郎はそう言って、未夏の背中に自分の両腕を回した。
「誓いのキス、私からしたかった…」
未夏は京四郎の耳元で囁くように言い、京四郎の唇に本心からの深い愛を込めた熱い口づけをした。
「…愛してる…あなた…もう、二度と離さないから…」
数秒後に唇を離し、京四郎の耳元で囁くように言い、しばらくは京四郎を離さなかった。
「俺も…未夏さんのことは、誰にも渡さないから…」
翌朝、未夏は目覚めたときに自分の腕の中に京四郎がいたことに驚き、京四郎も自分が未夏の腕の中にいたことに驚き、お互いに黄色い悲鳴を上たのは余談だ。
本当なら新婚旅行に行くはずだが、未だに行き先を決めないままだった。
というのも・・・。
「なかなか決まらないね…」
「いいところだとは思うんだけど、なんかピンと来ないなぁ…」
挙式の数日前から、いろいろな旅行先が載ったカタログを二人で見ていたが、決められないでいた。
その原因というのが・・・。
「この前一緒に行ったからなぁ…さすがに2回もどうかと思うし」
「私も。この前行った旅行が、新婚旅行みたいな感じだったから…」
お互いにこんなことを独り言のように言い、しかも無意識にお互いの手に触れていた。
結局、式の翌日からの1週間は、二人でのんびり過ごすことになったのだった。
婚姻届けは未夏の誕生日に提出し、
しかも婚姻届けを出した翌日がお盆休みだったこともあり、二人は2泊3日の旅行に行ったのだった。
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