第17話「永遠の誓い」
顔合わせもかねての食事を終え、京四郎は未夏とデートをしていた。
未夏はずっと上機嫌で、京四郎の腕に自分の両腕を絡ませて、笑顔で鼻歌を歌っていた。
その途中で映画館が視界に入り、注目の作品が上映中だったこともあって二人で入った。
ジャンルはアクション映画で、シーンの一つ一つが息をのむほど過激なものだった。
「あんな素早く正確な動き、普通は無理だろ…」
「あんなに穴が開くほどじっくり見たこと、今までなかったです…」
京四郎と未夏は、内容のすごさのあまりに、半分放心状態で映画館を後にした。
しばらく散歩気分でいろんなところを歩き回り、夕方になって弁当二人分を買って帰った。
帰るにはまだ早いのでは?と思う人もいるかもしれないが、ちゃんと理由がある。それは・・・。
「…久しぶりに見るけど、こんなに面白かったか…?」
「お母さんとよく見てましたけど、一緒に笑い転げてました♪」
あるバラエティ番組を、大笑いしたいのを我慢しながら寄り添って見ていた。
二人とも偶然、この番組が好きだったことを知って驚いた。
テレビを見終わって夕飯になった。
帰ってくる時に買った弁当を食べようということになったが・・・。
「う…それ、いつの間に…」
未夏が口と鼻を手で覆いながら聞いた。
「さっきの買い物の時です。この納豆が、何かありました?」
京四郎は何事もなく、納豆に醤油をかけて箸でかき回していた。
「私、納豆が苦手で…」
未夏が言いにくそうに言うと、京四郎はまずいことをしたような表情になった。
「あ、なら止めたほうがいいか…」
そう言って、納豆が入っているパックのふたを閉めようとした。
「私のことは気にしないでください。でも、よく食べますね?」
「俺も最初のころは、ねばっこくて食べにくい上に、強烈な臭いで鼻が曲がりそうになりました。でも、醬油である程度マシになりますし、粘っこいのも慣れてしまうとこんなものかと思えますから」
言いながら、納豆を弁当の白米に乗せて食べた。
「うんまい。(やっぱり俺は、これを食わないと元気出ないな)」
京四郎は実家にいた頃、納豆を毎朝食べていた。
それが今はないため、いつもより元気が出なかったのだろう。
(よく平気で…私も、食べれるようになったほうがいいのかな…?)
未夏は京四郎が納豆を頬張っている姿を見て、こんなことを思った。
数日後のクリスマス。
二人は夜の繁華街を腕を組んで歩いたのだが・・・。
「あら?」
「どうしました?」
未夏があることに気付いて足を止め、京四郎が聞いた。
「京四郎さん、背が伸びました?」
「あれ?そういえば…」
知り合ったばかりのころは、未夏の肩に京四郎の額が当たるほどだったのだが、今は京四郎の目の高さに未夏の鼻があるぐらいになった。
「知り合ったばかりのころは、守ってあげたい感じでしたが、今は“小さな巨人”を思わせるぐらい、逞しくなりましたね」
「未夏さんのおかげです。出会わなかったら、今頃どうなってたか…」
繁華街から少し外れたところに、小さな教会を見つけた。
誰かいるのか、ほんのりと明かりがついている。
少し寒くなってきたこともあって、その教会に二人で入った。
中は少し暖かく、近くの椅子に座って一息ついた。
明かりはついているが、祭壇の神父以外一人もいない。
その神父が、二人に歩み寄ってきて聞いた。
「教会に、何か御用ですか?」
「あ、いえ…外が少し寒かったので…用もないのにすいません」
声を掛けられ、京四郎が気まずいと思いながらも正直に言い、出ようとしたが・・・。
「お気になさらず。今日は何もありませんので、ごゆっくりどうぞ」
神父は出ようとした二人をやんわりと抑えるようなしぐさをしながら言った。
「よければ、祭壇の近くまで来られますか? 出入り口に近いここよりは暖かいと思いますよ?」
促されるように聞かれ、一度どうしようかと思ったが、一緒に行こうということになり、祭壇の近くまで行った。
その間、二人は手をつないでいた。
京四郎は未夏を守るように。そして未夏も、京四郎を守るように、お互いにしっかりとつないでいた。
「お二人は、これ以上ないというぐらい固くしっかりした絆で結ばれているみたいですね?」
「来年、彼と結婚する予定ですので…」
神父が微笑んで聞き、未夏が答えた。
「それはおめでとうございます。今ここで、永遠の誓いを交わすこともできますが、どうしますか?」
この質問に、二人は少し頬を赤くしたが、少ししてお互いに見つめて同時に頷いた。
「その誓いを交わすまでに、やっておくことがあります」
未夏は京四郎の手を引き、一緒に祭壇の前に立った。
「お互いに、敬語で話すのを今日でやめましょう。私と京四郎さんはもう、職場の先輩後輩ではありません」
「俺も、いつかは普通に話そうと思ってましたけど、その区切りの付け所がなくて…今が、その区切りの付け所かと思います」
お互いに言いながら向き合う。
未夏は京四郎をそっと抱き寄せ、京四郎は未夏の腰の周りに自分の両腕を回した。
「お互いに敬語で話すのは、これが最後です」
そう言って、京四郎の唇を自分の唇で熱く塞ぎ、お互いに目を閉じた。
・・・・・・。
しばらくして唇は離れ、未夏は京四郎の耳元で囁いた。
「…改めて、よろしくね」
「…こちらこそ…改めてよろしくな」
お互いに見つめ合い、少しして離れた。
「二人の永遠の誓い。私はしっかりと見届けました。二人の結婚式、まだ予約してなければ、ここでしますか?」
神父に聞かれ、二人は少し笑って、この教会で行うことにして、来年の京四郎の誕生日に予約を入れたのだった。
しばらくして、二人は教会を後にした。
お互いに呼び方は変わらなかったが、敬語をやめたことで、遠慮していた部分がなくなったみたいだった。
後日。式場の予約をしたことをお互いの親に知らせた。
まだやることはいろいろあるが、二人にとっては一区切りついたみたいだった。
大みそかになり、夜になってスミの家に憲治たちはもちろんのことだが、瑠璃と未夏もいた。
和葉の再婚相手と龍司の婚約者もそこにいた。
スミは京四郎と未夏の結婚が決まったことを知って驚き、同時に喜んだ。
「やっとくっつきおったか。それに京四郎、やっと笑うようになったみたいじゃな」
言いながら、年越しそばを運んできた。
「それに憲治も、何があったかは知らんが、やっと父親の顔になったみたいじゃしな」
「おかげさまで」
憲治は言いながら頭をかいた。
しかし、睦美はどこか違和感を感じたみたいだった。
この後、全員でそばを食べたのだが、龍司と京四郎が早食い競争をして派手な音を立てて食べており、憲治たちは聞き慣れてたこともあって特に気にしなかったが、瑠璃たちは唖然としていた。
翌日の元旦になり、みんなで神社にお参りに行った。
睦美が感じた違和感の正体は不明のままだったが、みんなでお参りをして解散した。
「年越しそば、龍司さんとすごい勢いで食べてたけど、いつもやってるの?」
未夏と京四郎は、一度部屋に帰ってゆっくりしていた。
「年越しそばの早食い競争は、毎年やってたんだ。全部引き分けで終わってるけど」
言いながらベッドに座った。
「京四郎さんの過去を知って離れたって聞いたことあったけど、本当は仲が良かったんじゃないの?」
聞きながら、京四郎の横に座った。
「それはどうやら、俺の誤解だったみたいだ。ただ、和葉姉の結婚や兄貴の下宿とかが重なっただけだったんだ」
言いながら、一息ついて仰向けになった。
「知らない間に、和解してたのね…よかったわ」
未夏も言いながら仰向けになった。
「何が?」
「私は安心して、あなたのもとに嫁げるから」
どうやら未夏は、京四郎の家族間にあった
しかし、先月の顔わせの時に普通に会話しており、しかも憲治が歩み寄ろうとしているのを見て、軋轢はなくなったのだと安心したみたいだ。
「改めてよろしくね。あなた…」
「こちらこそ」
京四郎の返事を聞いた未夏は、京志郎の唇を自分の唇で熱く塞いで目を閉じた。
翌日。
特にやることはなかったが、今までやったことがないことをしようということになり、一緒に出掛けた。
行き先はカラオケボックスで、未夏は歌うのが好きなのか、カラオケに行こうということになった時から活き活きしていた。
「久しぶりだから興奮するわ」
「俺は、音楽の授業ぐらいしか歌ったことなかったから…」
二人で飲み物を注文し、未夏は早速歌い始めた。
気づけば あなたに夢中になっていた
あなたに出会った瞬間 私は恋に落ちた
そして私は愛に目覚めた
今ではあなたを深く愛してる
If I can be by your side that I love
(愛するあなたのそばにいられるのなら)
I'm not afraid of getting hurt
(私は傷つくことを恐れない)
ただ私は あなたの声を信じたい
I will never let go of you who I love
(絶対に、愛するあなたを離さない)
まるで、未夏の気持ちを表しているような歌詞だった。
未夏が歌い終わり、京四郎の番になった。
君に会えて本当に良かったと いつも思っている
こんなに大切にしたいと思ったことは 今までなかった
I will always be by your side and protect only you who is dear to me.
(ずっとそばで 大切な君だけを守り続けるから)
この気持ち いつまでも忘れない
京四郎も、自分の気持ちを表すような歌詞が入った歌を歌った。
この後も、お互いに自分の気持ちを表すような歌詞が入った歌を探して歌った。
1時間の予約だったため、あっという間に時間が過ぎて、二人はカラオケボックスを後にした。
「ちょっと、恥ずかしかったかな…でも、自分の気持ちを伝えるいい機会だと思ってたから…」
誰もいない公園のベンチに隣同士で座り、未夏は頬を少し赤くして言う。
「実は俺も…あの歌詞は俺の気持ちをそのまま表してるから…」
京四郎もうつむき加減で言った。
「なんか嬉しい。京四郎さんの本心が聞けたから」
言いながら、後ろから抱き着いた。
「俺も。未夏さんの気持ちを改めて知ることができたから」
今のラブソングは、どうしてこうも的を得たものがあるのか・・・。
「でもあれが、俺の本心だから。未夏さんのことは、俺が何としてでも守るから」
京四郎は真剣な顔で言いながら未夏の腕に触れ、未夏は応えるように言った。
「私も、ずっとあなたのそばにいるから。愛してるあなたのこと、誰にも渡さないから」
お互いの想いを確かめ合って、部屋に帰った。
それから1週間ほど過ぎ、未夏はもちろんだが、京四郎も仕事に行った。
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