第9話 「強く固い絆」

 未夏の元父親の騒ぎから数日が過ぎた。

 未夏と京四郎の関係は、騒ぎが起きる前よりも深くなったみたいだ。

 たまに喧嘩はするものの、ほんの数秒であっさりと仲直りしてしまい、周りが見ると拍子抜けしてしまうほどだった。

 夏にはいろいろあって出かけることはできなかったが、その分、秋には二人でいろんなところに出かけていた。

 主に未夏の運転だが、そのうちに京四郎も、自分で車を運転できたらと思うようになるのだった。

「18歳まで我慢してください♪」

「しょうがないか」

 満面の笑みで言う未夏に、京四郎が苦笑したのは余談だ。


 10月も中旬になったころの日曜日。

 未夏は京四郎と一緒に、レースゲーム好きな友人の家に電話して遊びに行った。

「凛、来たわよ?」

 未夏は着いたマンションの部屋のインターホンを鳴らし、マイクに言った。

「いらっしゃい。今開けるわね」

 マイクから女性の声がして、部屋の入口の扉が開いた。

「未夏、久しぶりね。元気だった?」

「おかげさまでね」

 中から出てきた女性に、未夏は笑顔で答えた。

「横にいるのは、電話で聞いた彼氏ね?初めまして、真島まじま りんです」

「こちらこそ、初めまして。矢坂京四郎です」

 京四郎が自己紹介すると、凛はふと思って聞いた。

「矢坂…?ってもしかして、矢坂夏海って…」

「姉です。知ってるのですか?」

「高校が一緒だったの。いい先輩だったわ」

 京四郎が聞くと、凛は一瞬優しい表情になった。

(そっか…凛が尊敬してた先輩って、京四郎さんのお姉さんだったんだ)

 この後、3人で部屋に入ったが、その部屋の広さに、未夏と京四郎は驚いた。

「これだけ広いと、家賃とかすごいんじゃない?」

「まぁね。でも親が持ち主だから、家賃はタダで住んでるの。水道光熱費や食費は自分で払ってるけどね」

 凛は笑顔で言うが、二人は唖然としていた。

「早速だけど、ゲームしよっか?」

 そう言って二人を自分の部屋に案内した。

 凛の部屋には、最新のゲーム機と50インチの高画質テレビ。そしてレースカーのコックピットを可能な限り再現した運転席があった。

「なんという本格的な…」

「高校の時より、レベルアップしてる…」

 驚く二人をよそに、凛はゲーム機とテレビの電源を入れ、レースゲームを起動させた。

「『リアルドライバー』でいいよね?未夏は教習所のシミュレーションもそうだけど、このゲームの経験も活かして、自動車教習所を1か月で卒業しちゃったし」

「そんなことがあったんだ…」

 京四郎は感心しながら呟いた。

「おかげで、フィラディアXに乗ってるし♪」

「そうね。未夏はあの車に一目惚れしちゃったもんね?」

 最初に凛が運転席に座り、いろいろ設定して軽くプレイした。

 フィラディアXと同じぐらいの年式のスポーツカー、サーベラでバーチャルスピードウェイを走行したが、その運転は、まるで自分の手足のような扱いだった。

「重量級の車をあんなに完璧に乗りこなす人、初めて見ました」

「凛は高校の時から、将来はサーベラに乗るって意気込んでましたから」

 凛が運転席から降り、次は未夏が座った。当然(?)ながら、選んだ車はフィラディアXである。

「このゲームを知るまでは、私は車には興味ありませんでした。そんな私の気を引いたのが、フィラディアXだったのです」

 言いながらプレイしたが、凛ほどではないしても、上手に乗りこなしていた。

「よくまぁ、排気量3000ccでツインターボの車を、しかもMTで普通に乗りこなすなぁと思います」

「このゲーム、いい練習になりました♪」

 未夏が走行を終えて、運転席から降りた。

 今度は京四郎が運転席に座り、中学の時から気になっていた車を選んだ。それは・・・

「ボルダのエネクス…よくこんな車を知ってたわね?」

「有名な車だと思いますよ?何といっても、「神速の王子」と言われたプロレーサーが開発にかかわった車ですから」

 凛が驚きながら聞き、京四郎は普通に話した。

「それは初めて聞いたわ。でもよく知ってたわね?」

「車好きな友人から教わったことを、そのまま言ってるだけですけどね」

 言い終えると、画面の中で車が走り出した。


 その腕前に、凛も未夏も何も言えなかった。

「京四郎君も凄いじゃない!ミッドシップの車って、本当に扱いが難しいのよ!?」

「車好きな友人の家で、違うレースゲームでしたけど、そのゲームで気に入った車が、このエネクスだったのです」

 それから、たまにだが遊びに行き、扱い方を教えてもらいながら操作しているうちに、乗りこなせてしまったそうだ。

「ねぇ、その車好きな友達と、今も連絡とってるの?」

「未夏さんと一緒に住むようになるまで、たまにですけど会ったりしてました」

「その友達、今から呼べない?会ってみたいわ」

 京四郎がゲームを終えて運転席から降りながら言うと、凛は目を輝かせて頼んだ。

 凛は電話を貸し、京四郎は友人に電話した。そのやりとりが・・・


「矢坂です。啓太君いますか?」

 この後、京四郎は電話をなぜかスピーカーモードにした。しばらくして、

『みぃたぁなぁ~?』

 電話のスピーカーから、不気味な声が聞こえ、凛と未夏は一瞬ゾッとした。が・・・

「みられたなぁ~?」

 京四郎が不気味な声で返事すると、未夏と凛は笑いたいのを必死に我慢した。

『いいだろう』

 スピーカーモードを解除し、この後は適当に雑談を交わしていたが、

『そろそろ本題に入れ。用もなく電話したわけじゃないだろ?』

「そうだな。彼女の友達が、無類のレースゲーム好きでな。お前の話をしたら会ってみたいって言うんだ」

 京四郎が言うと、電話の向こうでピーン!!という音が聞こえた気がした。

「車マニアなお前と、気が合うんじゃないかと思ってな」

『是非、会わせてくれ!で、どこに行けばいい!?』

「中学時代、お前が住んでた家の隣にあるマンションだ」

『ああ、引っ越す直前に完成した、あのどでかいマンションか。わかった、すぐ行くぜ!』

 そう言って電話が切られた。

 京四郎は友人を迎えに行くために部屋を出た。

 そのあと、未夏と凛は腹を抱えて大笑いしてたのは余談だ。

「ぷぷぷぷ…何なの、あのやり取りは?」

「合言葉に、ホラーって…ぶぶぶぶぶぶ」


 その数分後・・・。

「連れてきました」

 京四郎が帰ってきて、二人の前に友人を連れてきた。

「初めまして。田辺たなべ 啓太けいたです…って、真島先輩!?」

「あら、啓ちゃんじゃない」

 二人のやり取りに、京四郎と未夏は驚いた。

「何だ?お互い知ってたのか?」

「2年ぐらい前に、ゲーセンでレースゲームやってたら声をかけられてな。しかも高校が一緒だったし」

「そっか、啓ちゃんだったんだ。しかも京四郎君の友達だったなんて…」

 この後は4人でゲームしたり、雑談を交わしたりしていた。

「そう言えばお前の親父さん、車変えたのか?」

「ああ。マグザのエンジンが好きなこともあって、アルス8にしたんだ。前の車は車庫に大事に入れてある」

「前は何に乗ってたの?」

 京四郎と啓太が車のことで話しているときに、凛が気になって聞いた。

「1998年式のアルス7 タイプRSです。貰うために、やりたいことを見つけることが条件になってますけどね」

 啓太の説明に、凛も未夏も驚かずにいられなかった。

「未夏さんのフィラディアXといい勝負だな」

「駐車場にあった、あの赤いXは、お前の嫁の車なのか」

 啓太が感心しながら言うと、京四郎と未夏は顔を真っ赤にした。

「よ、嫁って、まだ結婚してないぞ!」

「でも、将来夫婦になる約束したんでしょ?それに一緒に住んでるなら、もう結婚したようなものじゃない」

 京四郎がわちゃわちゃしながら言うと、凛が追い打ちをかけるように言い、二人の頭からは勢いよく湯気が噴き出した。

「二人の結婚式、呼んでくれよ?盛大に祝ってやるからな」

「そうね。未夏は湯田君のことがあってから、「もう恋なんてしないー!」って学校の屋上で叫んだぐらいだし。本当に良かった」

 この後はゲームで盛り上がった。


 昼になり、食事はどうしようかという話になった。

 京四郎は中学の頃に、啓太によく連れてってもらったラーメン屋はどうかと言ったが・・・

「そのラーメン屋、建物は残ってるけど、半年ぐらい前に店主が引退して、営業してないんだ」

「あらら・・・結構美味かったのになぁ・・・スープの味に特にうるさいことで有名な店主は結構な年みたいだったし、顔色があんまりよくなかったから、まさかと思ってたけど…」

 京四郎は思いっきりガックリした。が・・・

「ラーメンなら、私が作るよ。未夏、手を貸して」

 そう言って凛はキッチンに向かい、未夏も手伝うために行った。


 しばらくして・・・。

「ん?…このスープの匂いは…まさか、あの店の…?」

 凛がラーメンを作っているときに、反応したのは啓太だった。

「鋭い嗅覚をしてるわね? 実はその店、私のお祖父ちゃんが店主だったの」

 これを聞いて3人は驚いた。

「体調を崩して引退して、2か月ほどしてあの世に行っちゃったけどね。作り方は教えてもらえなかったけど、よく食べてたし、作ってるところもよく見てたから」

 未夏は感心しながら材料を切っていた。

「高校で調理師免許を取ったのは、ラーメン屋をやるためにですか?」

「そうよ。本当はお父さんが継ぐはずだったらしいけど、店を繁盛させる自信がないのと、生活の安定を考えて会社勤めを選んだって聞いたわ。だから、お祖父ちゃんの後は私が継ぐことに決めて、今は店の経営のために必要なことを大学で学んでるの。店だった建物は、お父さんが維持してくれてるし、中の掃除はときどき私がやってるから、いつでも開くことができるの」

 啓太が聞き、凛は麺を茹でながら返事した。

「ちゃんとした目標を持ってますね。それに比べたら俺は…将来何をすればいいのやら…」

「啓ちゃんは、何か好きなものってある?」

「それが、特に何もないのです。車はあくまで趣味ですし、食材に少々詳しい程度で、それを活かした仕事なんてないでしょうし」

 凛の質問に、啓太は俯きながら言った。

「暗い話はここまでにして、できたから食べましょ」


 4人分のラーメンが出来上がり、みんなで食べた。

 味はなかなかだったが、凛は満足してなかった。

「お祖父ちゃんが作ったスープは、もっと深みのある味だった。それがどうしても出ないの」

「その原因は、昆布じゃないかと思います。他の出汁は十分にうまみを出してますけど、昆布が力不足というか…」

 凛が俯きながら言い、啓太が思い当たる部分を言った。

「やっぱりそう思う?お祖父ちゃんは何のために、中途半端な三角形に切った昆布を使ってたのか…」

 凛の返事に、啓太は食べながら「ん?」と思った。

「三角形に切った昆布?そんなものを使わなくても、出汁の取れ方は同じじゃない?」

 未夏は変に思って聞いた。が、啓太が言った。

「それ、根昆布じゃないですか?昆布の根の部分で、いい出汁が取れるところなのです」

 これを聞いて、みんなは驚いた。


 ラーメンを食べ終えて一息ついたときに凛が言った。

「啓ちゃん…私が店を開いたら、手伝ってくれない?」

「え?」

「食材の知識、私のところで活かさない?」

 啓太は驚き、次第にはっとなった。

「こいつ、出汁が取れる食材に興味があるみたいで、どこで取れる昆布や鰹節が一番いいか調べてたことがあります。しかも昆布や煮干しの一番いい出汁の取り方まで調べてたことがありました」

 京四郎が言い、凛と未夏は感心した。


 この後は適当に雑談を交わし、またレースゲームを始めた。

 啓太が運転席に座り、マグザのゼイナBを運転した。

 ルマン24時間耐久レースで、日本メーカーで初めて総合優勝を遂げたときに走った車である。

「お前いろいろ車変えすぎじゃないのか? ずっとガルベッタ一本にするとか言ってたのに、いつの間にかファレーディに変えて、それからまた気が付いたらダンベラギーナ。やっと落ち着いたかと思ったら、今はゼイナBだし」

 京四郎は啓太の車の変え方に呆れながら言った。

 ゲームの中でのことだから特に問題ないみたいだが、これを現実でやったら大変なことになるだろう。

「どの車もいまいち合わなかったんだ。ずっとスーパーカーばかり選んでたことに気づいて、ちょっと選び方を変えてみたら、こいつが結構ぴったりでな」

これを聞いて、本当の意味で落ち着いたか?と京四郎は思った。


「京四郎と木下さん、本当にいい組み合わせだな」

 啓太が運転しながら言い、京四郎と未夏と凛は頭に?を浮かべた。

「この前、買い物に出歩いてたら、二人を見たんだ。声をかけようかと思ったけど、デートの邪魔したら悪いと思ってやめたんだ。そこへ結城の姉が…」

 啓太がここまで言うと、京四郎と未夏はまさかと思った。


 ある休みの日、二人で手をつないで出かけていた。

 そんな二人に、晴香が声をかけたのである。

「あら、仲良くデート?」

 晴香は二人をからかうつもりで言ったが…。

「そうだけど、何か?」

 京四郎はあっさりと受け流すように答えた。

「つまんないわねぇ、普通は顔を赤くして黙るでしょ?」

「俺はその辺、よく知らないから」

 晴香の指摘に、京四郎は無表情で答えている。

 未夏は何も言わなかったが、ふと気になって聞いた。

「それより晴香、虫歯はもう大丈夫なの?」

「虫歯?」

「自分で言ってて忘れたの?京四郎さんに殴られてできた虫歯のこと」

「!!」

 晴香は思いっきり驚いた。

「どうしてそれを・・・!?」

「俺が自分から言ったんだ。それも未夏さんが帰ってきたときに」

 これを聞いて、晴香は驚いたまま固まった。

 殴られたことは、嫌われるのを防ぐために黙っているだろうと思ったからだ。

「そうなの…でも未夏、こんな凶暴な男で、本当にいいの?」

「京四郎さんからも聞かれたわ。本当にこんな自分でいいのか?って」

 二人のやり取りに、京四郎は入れなかった。

「で、何て言ってどんな返事したの?」

「何も言わずに、キスしたわ。それも、彼の唇にね」

 晴香はまた驚く。

「聞いたときは驚いたけど、すぐにでも結婚したいと思えるぐらい、京四郎さんのことを本気で愛してる自分の気持ちに、変わりがなかったから」

「み、未夏さん…そこまで言わなくても…」

 堂々と話す未夏に京四郎は慌て、晴香はいたたまれなくなって逃げるように去った。

「宣戦布告のお返しができました」

「お返し?」

 聞くところによると、未夏が英輔のことで実家に避難していたころに晴香に偶然会って、その時に京四郎を奪ってやると宣戦布告をしたそうだ。

 実は晴香は偶然を装って二人の前に出たが、返り討ちにあってしまったようだ。


「見事な成敗だったなぁ」

「そこまで強い絆で結ばれてるなら、夫婦になってもうまくやっていけそうね」

 京四郎と未夏は、また顔を真っ赤にした。

「本当に、俺も安心したぜ。木下さんと同じように、矢坂も有馬たちの一件で「誰かを好きになることはもう二度とない」って言ってたし」


 この後もたまに休憩を入れてはゲームをしたりして、いつの間にか夕方になって帰ることになった。

「また二人でおいでよ。待ってるから」

「凛もたまにはうちに来てよ。…あら?京四郎さんはどこに…?」

 凛と未夏のやり取りとよそに、啓太は京四郎をマンションから少し離れたところにある建物の間に連れだした。

「どうした?」

「有馬たちのことだけどな。今もお前を探してるんだ」

 異様な雰囲気を感じた京四郎は、啓太についていき、啓太は深刻な顔で言った。

 啓太は誠一とたまに連絡を取っており、京四郎から幼馴染みとしての縁を切られたことを聞いていた。

 誠一は啓太が京四郎と仲が良かったことを知っており、啓太に京四郎を説得してほしいと頼んだのだった。

「俺が家を出た後、母さんからも聞いた。会ってどうしろって言うんだ…」

「「無理なのは承知の上だけど、もう一度会って話し合いたい」って言ってる。どうする?」

「どうするも何も、絶縁を言い渡したのは俺だから、取り消しなんて効かないだろ」

「俺もそれを言ったんだけどなぁ。矢坂が“一度言ったことは、てこでも曲げない”って知ってるのに…」

 そんなやりとりをしているところに、一人の男が啓太に声をかけた。

「田辺?何やってるんだ?」

 誠一だった。しかし、誠一が立っているところから、京四郎の姿は見えてない。

「有馬か。特に何も」

 啓太は京四郎がここにいることを言おうとしたが、思いとどまって言わなかった。

「そうか。それより、京四郎のことはどうなった?」

「この前ちらっと見たけど、普通にしてたぞ」

「なに!?」

「けどさ、あいつに会ってどうする気だ?また、結城と付き合えって言うのか?」

「そんなことはない。千香は先月ぐらいに彼氏ができたから。それに晴香さんも、この前から妙に大人しくなったし。ただ俺は、縁を切られる前ほどじゃないにしても、また4人で会いたいんだ」

 京四郎が抜けてから、時々3人で会うものの、どこかぽっかりと穴が開いた気分で、どんなに楽しいことをしても、本気で盛り上がれずにいるらしい。

「最初は3人でもいいかと思ってたけど、やっぱり京四郎がいないとだめだ。あいつが抜けてしばらくした頃に、灯と千香を入れた何人かでキャンプに行ったけど、飯が真っ黒になって大騒ぎになったんだから」

「そうだなぁ。矢坂はどういうわけか、飯盒炊飯が上手だからなぁ。中学の時のキャンプは本当にビックリしたぜ。あんなに上手に炊く奴、他に見たことなかったし」

 誠一と啓太の会話の中で、京四郎はいろいろ思い出していた。

(あの頃は楽しかったな…あんなことがなかったら、きっと俺は今も…)

「田辺、近いうちに灯たちとキャンプをやることになってるけど、お前も来ないか?」

「いいけど、矢坂の代わりにはなれないぞ?」

「わかってる。だから京四郎に会ったら、上手な飯盒炊飯の方法を聞いてほしいんだ」

「そんなことをしなくても、飯盒炊飯の方法なら、中学のキャンプの時に、耳にタコができるぐらい教えただろ?」

 啓太の後ろから京四郎が姿を現し、誠一と啓太は驚いた。

「そ、そうだったけど、それをメモしてたし、その内容の通りにやったけど、それでもだめだったんだ」

 誠一は慌てながら説明し、それを聞いた京四郎は頭を掻きながら言った。

「そのキャンプ、俺も行くし、飯盒炊飯のやり方も叩き込んでやるから、今度こそ俺がいなくてもできるようになれよ?」

 誠一と啓太はまた驚いた。

「あれからしばらくして、時々だけど思うようになったんだ。「本当に、あれでよかったのか?」って…だけど、絶縁を言い渡したのは俺だし、今更取り消しも効かないから、どうしようもないし…」

「「人の気持ちは、時の流れとともに変わるもの」です。前に言ったこと、忘れましたか?」

 いつの間にか、未夏がいた。凛も一緒である。

「未夏姉さん!?どうして!?」

 誠一が驚きながら聞いた。

「未夏さん、俺の彼女だから…」

 京四郎の返事に、誠一はさらに驚き、未夏は頬を少し赤くした。

「楽しそうね。そのキャンプ、私たちも行っていいかな?」

 凛が目を輝かせて聞き、誠一は戸惑いながらもOKした。

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