第3話 「止まない雨」

 京四郎は住所を変えたことを職場に報告した。すぐに未夏と同じだとバレたが、不思議なことに二人を冷やかすものはいなかった。


 それから数日後の休日、京四郎は未夏の部屋で留守番をしていた。

 しばらくして未夏が買い物から帰ってきたが、何か考えているみたいだった。

「おかえり。何かあったのですか?」

「えぇ…京四郎さん、有馬ありま 誠一せいいちという人を知ってますか?」

 この質問に京四郎は硬直した。未夏はそれを見て聞いた。

「その反応から知ってるみたいですけど、何かあったのですか?」

「まさか…俺を探してたとか?」

「はい。その人と何かあったのですか?」

 しばらくは黙ったままだったが、細々と口を開いた。

「…幼馴染の一人です。中学を出る少し前から、ずっと会ってません」

「なら、会えばいいんじゃないですか?」

「俺はもう会わないことにしてるのです。だから、あいつらとは二度と会いません」

「何かあったのですね?」

 京四郎は俯いて何も言わなかった。

「私では、力になれませんか?」

「こればかりは俺たちの問題ですから…それに、未夏さんを無関係なことに巻き込みたくありません」

 これを聞いて、未夏はつぶやくように言った。

「有馬誠一…月島つきしま あかり結城ゆうき 千香ちか

 京四郎は驚いて未夏を見た。

「!…なぜ他の二人を!?しかも名前まで!?」

「千香ちゃんは友達の妹だからです。その千香ちゃんの紹介で、灯ちゃんや誠一君にも会いました」

 これを聞いて京四郎は「そういうことか」と納得する。

「小さい頃の俺は、妹の世話をしてたから、なかなか外に出られなかったのです。未夏さんが入社してくるまで一度も会わなかったのも無理ないかもしれません」

「それだけではないと思います。当時の私は病弱だったのが原因で、環境を変えるために、小学2年のときに空気が綺麗なところに引っ越しました。その間も、友達と手紙でやり取りしてましたし、向こうで会ったりもしてました。そして中学を卒業と同時に、それまでのことが嘘だったかと思うぐらい元気になって戻ってきたのです」

 このときになって未夏は、京四郎の顔に見覚えがあることを思い出し、同時に納得した。

 千香の姉に見せてもらった写真である。その写真には、幼い頃の誠一、京四郎、灯、千香と姉が写っていたのだった。

「未夏さんも、幼馴染みだったのですか…」

「私は無関係ではありません。だから、聞く権利があると思います」

 京四郎は力が抜けたようにその場に座った。それを見た未夏は後ろから包み込むように抱きしめた。

「…誰も巻き込みたくなかった…関係あったとしても、俺たち4人の問題に…」

 京四郎は目を閉じて細々と語りだした。


 みんなで何度か遊ぼうと誘われたことがあったが、たまにしか乗らなかった。

 誠一たちよりも逸子のそばにいたかったのが理由だ。

「逸子を放って遊ぶことなんて、俺にはできなかった…だから、未夏さんとは一度も会わなかったのかもしれません…」

「…」

「そんなある日、千香が俺をデートに誘ってきたのです。でも、俺は乗り気になれなくて断りました」

 だが、翌日に灯が家に乗り込み、千香に会いに行くように仕向けられた。

「だけど、俺は灯を追い返した。そのときほど、灯から千香のことを聞きたくないと思ったことはありませんでした。そして、灯のことを残酷だと思ったことも…」

 そして今度は誠一が乗り込んだ。当然ながら京四郎は追い返した。

「その翌日から、俺はあいつら3人をから距離を置くようになりました。千香も俺たち3人から距離を置いてたみたいでした」

 しばらくして、千香は灯たちに説得されて、距離を戻したみたいだったが、京四郎はどんなに説得されても戻らなかった。

「あいつらが元の関係に修復しようとしているのと同じぐらいかそれ以上に、俺は遠ざかろうとしていたのです。他人になれないなら、たとえそれ以上でも幼馴染み未満になれたら…」

 無理やり誘われても、隙をついて逃げたりしたが、誠一たちは諦めなかった。

 学校にいても、家にいても、何も…特に3人のことを考えたくなかったから、参考書とノートを広げるしか他に手がなかった。

 それも高校受験のためではなく、就職試験のために…。

 正月に、3人から毎年来ていた年賀状が来なくなり、家族たちは疑問を持ったが、すぐにそれはなくなった。


 そして、中学を卒業する1か月ほど前のこと。

 京四郎がいつもどおりに学校から帰ろうとしたときだった。

「京四郎…お前、俺たちの知らないところで就職希望して、行き先も決まってたんだってな?」

 誠一が後ろから引き止めて聞いた。

「まぁな…」

 京四郎は後ろを向くことなく無表情で答えた。

「でも京、就職なら高校卒業してからでもいいじゃない。高校別々になったとしても、たまに会うことだってできたじゃない」

 誠一の横にいた灯が聞いた。二人はいつからか付き合い始めたらしい。

「京ちゃん、どうして進学希望しなかったの?」

 千香が聞いた。しかし、

「…お前らには、関係ないだろ」

 そう言い残し、京四郎は去っていった。



「それが、あいつらとの最後の会話でした。3人ともそれっきり俺に声をかけてくることはありませんでした」


 京四郎が就職希望した理由は、学校そのものが嫌になったのもそうだが、誠一たちに会いたくなかったからだ。

 3人とも同じ高校に進み、京四郎が違う学校を希望したとしても、そのうちに嫌でも会うことになるのはわかっていた。

 就職しても同じだったかもしれないが、学校帰りに偶然会ったりすることを考えたら、マシな方かもしれない。

「あの頃の俺は多少ですが、灯に気があったのです。でも灯は俺のことは見てない。しかも千香と付き合うことを本気で望んでいると知ってショックでした」

 今では、京四郎の心には、雨が止むことなく降り続いている。

「俺の心の雨は、もう上がることはない…そう思いながら、今日まで過ごしてきたのです」

 ここまで聞いて、未夏は京四郎を抱きしめる腕に少し力を入れた。

「止まない雨はありません。でも、京四郎さんがそんな気持ちを持ち続ける限り、雨は止みません。だから、私が京四郎さんの側にいるのはだめですか?」

「…え?」

「数日前のこと、あれは私の本心です。それに京四郎さんとなら、どんな苦労でも乗り越えていけそうな気がしたから…私はこれからも、京四郎さんのことだけを見てますから…(今やっと、京四郎さんがどんな人か、分かった気がする)」

「未夏さん…(どこまで一途なんだ、この人は…でも、俺は…)」

 京四郎は未夏の腕にそっと触れて呟いた。


 しばらく二人は何も言わずにそのままだった。

 やがて、未夏は体を離し、膝立ちで京四郎の前に回り、足を伸ばさせ、頭を保護するように押さえながらゆっくりと押し倒し、その上に自分の体を重ねた。

 二人とも服を着ているとはいえ、事情を知らない人が見たらかなりヤバい状況だろう。

 このとき、京四郎は全く抵抗しなかった。むしろ、抵抗する気力もなかったみたいだった。

「どこまで逃げても、相手は探して追いかけてきます。そうさせないために、誠一君たちに会うべきです」

「俺は…会っても話すことはないし…もう会わないって決めてますから…」

 京四郎は呟くように言った。

 未夏は京四郎の額に手をそっと当てて下に動かし、目を閉じさせると、唇をそっと塞いだ。

 京四郎は少しも動かず、それどころか未夏の気持ちに身を委ねていた。

 ―――逃げたままではいけないことはわかってる。でも、今だけは…。

 二人はしばらくこのままだった。


 しばらくして唇は離れた。そして、京四郎はある決意をした。

「このままの状態じゃぁ、あいつらは俺を探し続ける。それをやめさせなければいけない」

「そうです。誠一君たちは、京四郎さんが見つかるまで探すのをやめないでしょう。何年過ぎても…」

「わかりました。今度、あいつらに会おうと思います」

 京四郎は決意がこもった表情で言うと、未夏は微笑んだ。

「もしかしたら、あいつらまだ近くにいるかもしれない。俺、会ってきます」

 未夏はこれを聞いて京四郎から離れ、京四郎は立ち上がって外に行った。

「京四郎さん…どんな答えを出しても…必ず私のところに帰ってきてください(彼は、口から出る言葉は弱気でも、その内には強いものを秘めた人)」

 未夏は京四郎の後ろ姿を見送りながら呟いた。


 外に出た京四郎はマンションから離れ、適当に周辺を歩いていた。

(さて、あいつらが俺をどうやって見つけるか…)

 だが、誠一が京四郎の後姿を見つけ、恐る恐る声をかける。

「そこにいるのは、京四郎か?京四郎だな!?」

「…誠一か…」

 誠一は嬉しそうな表情だったが、京四郎は振り向いても無表情だった。

「ずっとお前を探してたんだ。実家に行ったら家を出たって聞いたし、この辺で見たって情報があったから」

「…そうか(…無駄なことを…)」

 京四郎はほとんど喋らなかった。素っ気ない態度でいれば、あのときと変わってないとわからせるためである。

「灯と千香もお前のことを探してる。一緒に来てくれ」

 誠一はそう言って携帯を取り出す。

「俺だ。京四郎が見つかったぞ。じゃぁ近くの公園で会おう」

 そう言って誠一は電話を切った。

「一応行くけど、期待はするな(…俺はもう…)」

 京四郎はそう言って誠一についていった。


 公園に着き、そこには灯と千香がいた。

「京…」

「京ちゃん…」

 二人は呟いたが、京四郎は無表情で俯いたままだった。

「で、俺を探してた理由は何だ?」

「久しぶりに4人揃ったってのにその態度か!?」

 横にいた誠一が京四郎の胸倉を掴んで睨みつけた。

「どんな態度でいようが、俺の勝手だろうが」

 京四郎はそう言って睨み返す。

 灯と千香は動揺していた。関係がバラバラになる前よりも、京四郎の態度が冷たくなったことである。

「でも京、これだけは教えて。あの時、どうして千香ちゃんのところに行かなかったの?」

 灯が聞く少し前に、誠一は京四郎の胸倉から手を放していた。

「…あのときの俺…灯に気があったんだ」

 京四郎が答えると、誠一たちは驚いた。

「でも、そのときはもう灯ちゃんは誠ちゃんと付き合い始めてたよ?」

「!…あのとき、もう既に…」

 千香が言うと、今度は京四郎が驚いた。二人が付き合っているのは知っていたが、あの一件の後だと思っていたのだ。

「なるほど、灯に振られたような気持になってショックだったと…」

「…そんなところだ…」

「京…」

「京ちゃん…」

 灯と千香が呟いた。

「だけど、それも今となってはどうでもいいことだ。もうこうして4人で会うこともないから」

 誠一たちは驚いた。

「俺のことはもう探すな」

 そう言って京四郎はその場から去ろうとしたが、誠一が止めた。

「お前、それ本気で言ってるのか!?」

「幼馴染が一人減ったところで、特に困るようなことはないだろ?」

 そう言って歩き出す。そして、少し離れたところで立ち止まり、顔だけ向けて言った。

「…もう幼馴染として会うことはない。今度会うときは、本当に他人同士だ」

 それだけを言ってその場から去った。

 誠一たちはその場に立ったまま、一言も喋らなかった。


「あれで、本当にいいのですか?」

 公園の出入り口で待っていたのは…。

「未夏さん…どうしてここに?」

「悪いとは思いながらも、後をつけたのです」

「そうですか…俺にはあれしか思いつきませんでした。でも俺があんなことをしたからといって、未夏さんにも同じことをしろなんてことは言いません」

「京四郎さん…」

「(もう、未夏さんのところには帰れないな。でも、俺はまた一人に戻るだけだ)…?」

 京四郎が俯くと、未夏は京四郎の右手に左手の指を絡ませた。京四郎は自分の右手を見てから顔を上げる。その視線の先で、未夏は優しく微笑んでいた。

「行きましょう。私のところに、帰ってきてください」

 京四郎は何も言わずに頷き、二人で歩き出した。

(未夏さん…優しすぎだ…)


 二人は何も語らずにマンションに着き、未夏の部屋に入った。手は繋いでいたが、ずっと眼を合わせてない。そんな状態で未夏が言った。

「京四郎さん。誠一さんたちに会う前にも言いましたが、私は京四郎さんのことだけを見てます。その代わり…」

「その代わり…何ですか?」

 聞きながら未夏を見る。

「すぐにとは言いませんが…京四郎さんも、私だけを愛してください」

「どちらか片方だけというのは不公平だと知ってます。ですけど、俺は未夏さんの想いに応えられる自信がありません…」

 これを聞いて未夏は京四郎を抱き寄せる。京四郎は未夏から感じる暖かさに身を任せて静かに目を閉じた。

「不安に思うことはありません。私の想いに応えたいという気持ちが少しでもあれば、いつかできるようになります」

(未夏さん…温かい…)

 未夏は言いながら京四郎の髪を優しく撫で、京四郎は未夏の背中に腕を回した。

「今の俺は…あいつらから見たら、卑怯者かもしれません」

「どうしてですか?」

「あの一件から、「もう誰も好きにならない」って自分に言い聞かせて過ごしてきました。けど、今は…(もう一度、恋をしてもいいかもしれないと思う自分がいる。だけど…)」

「確かに卑怯かもしれません。でも、人の気持ちは時と共に変わるものです。一生を一人で生きていくことを強く決意しても、結局は身を固めた人もいるぐらいですから」

「…(俺の中の雨は、まだ止んでない…)」


 こんなことがあってから数日後。

 京四郎と未夏は普通に毎日を過ごしていた。

 職場のみんなは、京四郎と未夏が近いうちに夫婦になるのでは?と噂されていた。

 未夏は噂されている通りになれるときが来るかもと思っていたが、京四郎は…。


 昼休み。京四郎と未夏はいつものように二人で食事をしていた。だが、京四郎は少し表情に陰りがあった。

「何かあったのですか?」

 二人とも食べ終えて未夏が聞いた。

「え?」

「数日前から表情に陰りがありますよ?ずっと気になってましたけど、聞き辛くて言えなかったのですが…」

「やはり、見抜いてましたか…」

「誠一君たちのことのほかに、まだ何かあるのですね?」

 京四郎は何も言わずに頷いた。

「何でも話してください!それとも、私のことが信じられないのですか!?」

 未夏は我慢が出来なかったのか、少し強めの口調で聞いた。

「そうではありません。話す前に聞きますけど、どんな忌まわしい内容でも、受け入れる覚悟がありますか?」

 京四郎は多少驚いたものの、それが顔に出ることはなかった。そして、真剣な表情で未夏を見ながら聞いた。

「え…」

「俺の全てを知りたいなら、それなりの覚悟がいると思います。姉貴たちは、それを知って俺から逃げるように家を出ましたから」

 未夏はこれを聞いて固まった。

「姉貴たちでさえ受け入れられなかった俺の過去を、未夏さんは受け入れることが出来ますか?」

「…」

「…話すことじゃない…身近にいる人だからこそ…俺から離れていくのは、姉貴たちだけでたくさんだ」

 京四郎はそう呟いて未夏の前から逃げるように去っていった。

「…全てを知りたい…でも、何が彼をあんなに苦しめるの?身近にいる人だからこそ言えない事って…」

 一人残った未夏は呟いた後、歩いて戻った。


 定時になり、みんなは帰ったが、京四郎だけ残っていた。タイムカードは既に押してある。

(俺はどうすればいい…未夏さんに全てを話していいのか?…以前の俺だったら、こんな気持ちにはならなかったのに…)

「また、無意味に残業ですか?」

 京四郎が事務室の椅子に座り込んで、考え事をしていたところに、明るい声で聞いたのは…。

「未夏さん…」

 声を聞いて京四郎は顔を上げて振り向いた。未夏の表情は明るかった。

「京四郎さんが帰らないと、私も帰れません」

「そうでしたね…うっ」

 一言呟いて立ち上がり、椅子を押し込んで未夏に振り向くと、未夏が平手で京四郎の頬を引っ叩いた。

 引っ叩くときの力は加減していたのだが、京四郎は力が抜けたかのようにそのまま床に倒れた。

 ―――当然の報いだ…いっそのこと、思いっきり引っ叩いてくれたほうがマシだったかも。

「これが、何を意味するかわかりますか?」

 倒れたまま、力が抜けて動かない京四郎の腕を引っ張って、起こしながら聞いた。

「今まで黙ってたことに対する怒り…ですか?」

「それもありますけど、人を好きになるのって、それなりに覚悟がいるのではないのですか?」

「え?」

「相手のいいところはもちろん、悪いところも受け入れてこその恋愛だと思うのです。私は、京四郎さんがただ優しい人だから、好きになったわけではありません」

「それって…」

「いつからか見るようになった表情の陰りから、暗い過去があると感づいてました。だから、その過去から解き放ってあげたいと思ったのも理由の一つです」

「俺を…過去から解き放つ…?」

「そうです。でもそれは、京四郎さんが話してくれないことにはできません。だから話してください!研修期間を終えても、何も出来なかった私を助けてくれた京四郎さんを、今度は私が助ける番です!」

 未夏の表情は真剣だった。京四郎の腕は引っ張られたままだ。

「…昼間にも聞きましたけど、全てを受け入れる覚悟がありますか?」

 これを聞かれた未夏は何も言わなかった。

「…俺の全てを知りたいのはわかります。けど、俺は知られたくない。身近にいる人なら尚更…」

 そう言いながら、京四郎は右手を回して未夏の腕にそっと触れた。

「でも、少しなら…細かい部分は省きますけど、いいですか?」

 未夏はこれを聞いて微笑み、小さく頷いた。

 京四郎は中学のときのことを大まかに話した。


 誠一たちのことがあってからしばらくした頃、一人の女子生徒が京四郎の気を引こうとして動き出し、告白させようとしたが、京四郎が振ったことで失敗に終わらせたこと。

 その次の日から、一人の教師と激しい対立をしたこと。その教師は、京四郎が振った女子生徒の父親だったのだ。

「その当時は恋愛拒絶状態だったのが助かりました。しかもその女子生徒のことを知ってたので…それに教師との対立もあっという間に学校全体に響き渡りました」

 それに加えて、教師は高校受験を妨害しようとしたみたいだが、京四郎が進学する気が全くなかったことに地団太踏むしかなかったみたいだった。


「本当は、少し怖いのです。いつ俺の前に現れて、しかも俺に彼女がいたら、その彼女に何をするかと思うと…あ」

 京四郎が俯いて言い終わると、未夏が掴んでいた腕を引っ張って抱き寄せた。

「そのときは、私が京四郎さんのことを守ります」

「…俺を…守る…?」

「そうです。京四郎さん、あなたを守って見せます」

 京四郎は未夏の真剣な表情に見とれていた。

 そして、未夏なら本当に守ってくれそうな気がした。

「とにかく、帰りましょう。明日に備えて」

「わかりました」

 こうして二人は帰っていった。


 ある日の平日。京四郎と未夏は上司の命令で休みを取って出かけていた。未夏がゆっくりしたい気持ちはわかるが、引きこもっていては、気が滅入るだけだと言って連れ出したのだ。

 だが、あちこち見ながら歩いていると、京四郎はあるものを目撃した。

「ん?…あれは…」

「どうしたのですか?京四郎さん」

「夏海姉ぇ…どうして…」

 京四郎が見たのは、スーツ姿で歩いている夏海だった。

 夏海は大学に編入して2年目で、就職活動するのは当たり前だが、京四郎は何か引っかかるものを感じていた。

 京四郎は確かめたいことがあって未夏に頼み、未夏は京四郎と一緒にある場所へ向かった。

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