肩こり

せらりきと

肩こり

 斎藤という男は重度の肩こりに悩まされていた。子どもに肩を叩かせていると、子どもの手が腫れてしまい、病院へ連れて行く始末。打撲と診断され、しばらくお箸が持てなかった。

 あまりにも辛いため、マッサージ屋へ行き、さまざまなマッサージを受けた。しかし、マッサージ師の指が変形してしまうほどの固さで、逆に治療費を請求される羽目になってしまった。マッサージ器は壊れ、これまた弁償する羽目になり、はりやお灸でほぐそうとするも、鍼は刺さらず、お灸は火が付かず、良くなるどころか、むしろ悪化したではないか。

 どうにかならないものか、と斎藤は本屋へ赴き、一冊の本を見つける。

『肩こりの治し方』

 と、書かれてある本だ。

 内容は、まず走り、次に柔軟体操をするなど、ごく当たり前のことが書かれてある。しかし、確かに運動不足かもしれないと思い、斎藤はジョギングを開始し、本に載っているポーズを真似て見た。両手を上に挙げたり、横に伸ばしたり、ついでに下半身の体操も行った。

 ジョギングでビール腹はへこみ、柔軟体操で下半身はとても柔らかくなり、密かに抱えていた腰痛も改善し、健康診断でも良い結果が出て医者に褒められるなどいいことずくめではないか。肩こりを除けば……。そう、肩こりは良くなるどころか、まるで肩パッドをつけているかのように、肥大化してしまったのである。

 斎藤の妻が、「幽霊にでも憑りつかれているんじゃないかしら」と言って、知人から有名な霊媒師を紹介された。霊媒師は、斎藤の肩を見るなり、いるいると言うと、目を血走らせ、鼻息荒くしながら除霊を行った。おかしな棒で、えいっ、だの、やー、だの掛け声をかけながら、何度も何度も斎藤の肩を叩いたが、棒の方が粉々に砕けてしまった。

「十万円になります」

 霊媒師は息を切らせながら請求したが、斎藤の肩はさらに大きくなっており、疑問に感じながらも渋々支払った。

 斎藤が、この日も金づちで肩を叩きながら取引先へ向かっていた。どんなに肩がころうとも、家族を養うために仕事には行かねばならないのである。

 その道中、高層ビルの建設現場を通りかかったとき事件は起きた。高層ビルの屋上へ、クレーンが巨大な鉄板を運んでいると、突風が吹きクレーンが揺れて、固定していたワイヤーが外れ、鉄板がするすると抜け落ち、地上へと落下していった。真下には、母親と三歳くらいの子どもが手を繋ぎ歌を歌いながら歩いているところだった。異変に気がついた斎藤は、あぶないと叫びながら走って行き、親子に覆いかぶさった。そこへ、三十枚はあろうかという鉄板が降り注ぎ、激しい落下音が周辺に響いた。

 尋常ではない事態に、現場は騒然としており、誰もが最悪の事態を想像した。作業員たちが急いで鉄板をどかせようとするが、あまりの重さにビクともしなかった。

 すると、三人が埋まっているあたりが盛り上がり、鉄板の山の中から斎藤が立ち上がった。斎藤の腕には、小さな子どもが抱かれ、子どもの母親の手を取りゆっくりと立ち上がらせていた。そのとき、子どもは楽しそうに笑っていた。斎藤がおかしな顔をして、笑わせていたのだ。

 作業員たちが急いで三人に駆け寄った。

「お怪我はありませんか?」

「俺は大丈夫だが、念のため二人を病院へ」

 数分後、救急車が到着し親子は運ばれた。斎藤も一緒にと言われたが、先方との約束の時間に遅れると言って大急ぎで走り去って行った。

 片づけをしている作業員たちは、数枚の鉄板を見て驚愕していた。折れ曲ったもの、真っ二つに切断されたもの、粉々に粉砕されたものが混ざっていたからだ。その数枚は、斎藤と親子が出てきたところにあったものだった。

 この事故は大きなニュースとして伝えられた。これだけの事故にもかかわらず、負傷者は一名だけで済んだことと、その傷も斎藤が覆いかぶさった際、母親が膝を擦りむいただけの軽傷だったからでもある。

 白い髭を蓄えた老人が、一般ユーザーが撮影したであろう事故直後の映像を興味深そうに見ていた。映像の中には、親子を救急車に乗せ、足早に去っていく斎藤の姿があった。

 斎藤は、結局取引先へ時間通りに行けなかったため、先方に会えず終いだった。会社に戻り、理由を説明するも聞き入れてもらえず、上司にガミガミ言われ、さらに残業までさせられ、余計に肩がこった。

 二十一時も過ぎて、足取り重く帰宅していると、五人のガラの悪そうな大男が前から歩いて来ている姿が目に入った。斎藤はびくびくしながら横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。

「おっさん。お金貸してくんねー」

「ちょっとでいいからさー」

 斎藤は震える声で、そんなものはありませんと言って、振り払おうとするが、五人の大男たちはあきらめる気配がない。

「さっさと出しやがれ」

 一人の男が拳を振りあげる。斎藤は鞄で頭を守りながらしゃがんでいた。

「ぎゃああああ」

 悲鳴が住宅街に響いた。しかし、悲鳴の主は、拳を振り上げた大男のほうだった。どうやら拳が斎藤の肩に直撃したようだ。

「おい大丈夫か。てんめー、なにしやがった」

 ほかの大男たちも、次々と斎藤に襲いかかった。斎藤は、頭を必死で守りながらしゃがみつづけた。その恰好はまるでカメが首をひっこめたような状態だった。斎藤は大男たちの攻撃をしばらく食らっていたが、いつのまにか止まっていた。

 斎藤がゆっくりと顔を上げると、みな、腕や足が曲がってはいけない方向へと曲がった状態で倒れていた。

「だ、大丈夫ですかー?」

 しかし、大男たちは答えることができず、呻き声をあげているだけだった。

 騒ぎを聞きつけた近隣住人が外へ出てきたため、斎藤は慌てて逃げ出した。角を曲がったところで、白いリムジンが停まっており、そこから白い髭の男が降りてきた。

「さあ、この車に乗るんじゃ。ここなら安心じゃからの」

 斎藤は怪しむも、背に腹は代えられない。

「恩に着ます」

 車内ではお互い自己紹介をした。白い髭の男は、世界的に権威のある博士で、裏で政府を動かしている大物とささやかれている人物だった。

 博士は、斎藤に肩こりがひどいようじゃなと訊いた。

 斎藤が、なぜそれを!? と、驚いた表情をするが、博士はにやりと笑っただけで、それ以上なにも言わず車を走らせた。

 研究所に連れていかれた斎藤に博士が言った。

「肩こりを治すのを手伝ってやろう」

「治せるのですか?」

「わからない。だが、様々な実験をしてみる価値はあると思う」

「実験ですか……」

 博士が言うには、あの大男五人も博士が雇ったそうで、肩こりのひどさを確認するためのものだったそうだ。

 斎藤は、なにをされるかわからず、答えを渋っていた。

「もし、実験に付き合ってくれたら、一億円を報酬として出そう」

「い、一億!?」

「そうじゃ。ん、足らんか?」

「いえ。やります、やりますとも」

 あっさりと引き受けることになった。斎藤には新築で建てた家と新車のローンが残っていた。現在勤めている会社では、こき使われるわりに、給料は上がらず、肩がこるばかりだったからだ。一億もの報酬に加え、どんなに対処しても治らない肩こりが治るかもしれないのなら至れり尽くせりなのである。

 翌日には会社に辞表を出し、早速博士の実験に付き合った。まず、車の衝撃テストを行った。軽自動車はもちろんのこと、大型のトラックでも歯が立たず、真っ二つに切断してしまうほどの重度な肩こりに、博士も苦笑い。

 ある日は、自衛隊の演習所にて、密かに開発されていた兵器の強度テストを行った。普通の人間が食らえば、おそらく何も残らないような兵器で、斎藤もびくびくしていたが、その兵器の弾の方が粉々に砕け散ってしまった。火炎放射も、肩をほぐすことすらできず、ロケット砲も砲弾が真っ二つに切れたりと、斎藤の肩に敵う兵器は日本には存在していなかった。上空一万メートルから落下させればどうなるかと実験するも、地球に大穴をあけただけで何も解決には至らない。

 実験が休みで家族との団らんを楽しんでいたとき、いつものように子どもを肩に座らせ遊んでいると、背中のあまりの広さに妻が気がつき指摘された。斎藤は、Tシャツを脱ぐと、背中から尻にかけて、皮膚なのかなんなのかわからないものが垂れさがり、カブトムシが羽を広げていないで閉じているような状態に似た姿になっていた。

 翌日博士の所へ相談しに行った。

「空を飛べるんじゃないか?」

 博士も、もう何が何だかよくわかっておらず、このような答えになってしまった。でも、まさか、ということもある。飛べたら、これで金儲けができる。そう信じて、斎藤は肩甲骨に力を入れる訓練を行った。すると、垂れ下がったこりが分離し、完全に羽のようになっていた。羽ばたくかどうか、目いっぱい力を込めてみるが、分離したところの間からもう一つこりが、にゅるにゅると現れると、三つ葉のクローバーみたいな形に変化してしまった。そればかりか、腰から首にかけて激痛が走り、とうとう首が回らなくなり、ほんの少しだけ右側に傾いた状態で毎日を過ごす羽目になったのである。

 痛みに苦しんでいる斎藤に気晴らしにと、妻が無理やり外に連れ出した。そんな中、駅まえの交差点で信号待ちをしているとき、目の前にあるビルの大型ビジョンで、某国大統領の緊急会見が入って来たというニュースが流れていた。会見場に現れた大統領は、どういうわけか、ネクタイを頭に巻き、しゃっくりをしながら、会見を行っていた。どうやら酔っぱらっているようだ。話しているうちに、スーツを脱ぎ、ワイシャツを脱ぎ、上半身裸になり、終いにはズボンからトランクスまで脱ぎ捨て、原稿で前を隠しながら演説をしている。誰か側近は止めないのかと、カメラが回るが、そこには裸の側近たちがいて、みな変な踊りをしていた。信号待ちで立ち止まる人々は、思わず見入り、青になってもほとんどの人が渡るのを忘れて、大統領の演説を見守っていた。

「イッシュウガンゴー、チキュウニー、キョダイインセキガ、オチテクルマス。ミナサン、アリガトウ。ソシテ、サヨオナラ。プゥ」

 片言の通訳でオナラの音まで訳され、周囲は笑いに包まれるが、よくよく考えると笑えない内容だった。

 大統領の会見から六日が経ち、隕石が到達するまであと一日をきっていた。隕石は地球からも目視できるほどにまで大きくなり迫って来ていた。とてつもなく絶望的なニュースだというのに、世間は意外とパニックにはなっていなかった。いや、大統領の会見後は、少しばかりパニックが起こり、世界中のスーパーが襲われたというニュースがあったが、それはすぐに治まった。どうあがいてもダメだとわかると、人間というのは案外冷静になるのかもしれない。というより、あきらめているといった方がいいだろう。隕石の大きさは、直径四百キロメートル。本州を覆い隠すほどの大きさだ。これが落ちると、一日足らずで、地球上に生きるすべての生物が死滅するというシミュレーション結果が出ていたこともある。

 それでも、満員電車に乗って出社する者。公園で野球をする少年たち。女の子は、花を摘んで冠に。犬と散歩する人たち。川沿いをジョギングするランナーがいた。地球が最後だといっても、なるべくいつもと同じような生活を送りたいのではないだろうか。

 夜になると、残業で終電を逃す人たちは頭を抱えている一方で、酒瓶を抱きしめ、路上で眠っているおじさんの表情は、地球が終わることなど知らないのではないかと思えるほど、幸せそうに見えた。

 斎藤は、夜中に博士から呼び出され、向かっている途中だった。

 博士の研究所に着くとすぐにリムジンに乗せられ、博士が所有する山へと連れて行かれた。山奥に着くと、学校の運動場ほどの広さの平原があって、中央付近には、一機のロケットが立っていた。それをポンポンと叩きながら博士が口を開いた。

「わしはまだあきらめとらんが、君はどうだい?」

「僕だって、守れるものなら守りたいです」

「そうじゃ、君が守るんじゃ。家族を、地球をな。手伝ってくれるかい?」

「僕に手伝えることがあるのなら、なんでもしてやりますよ」

「その意気じゃ。では、これから最後の実験にとりかかる」

 博士が高らかに宣言した。

「君の重度の肩こりが治るかもしれん。いや、全てはこの時のために、その肩こりが生まれたんじゃ、とわしは思うんじゃ。地球を守るために」

 博士と助手は、斎藤をロケットの先端に、背中を上へ向ける形で装着した。一応、背中以外の所には、宇宙服を着せてある。

「成功するかどうかは君の肩にかかっている。頼んだぞ」

 博士は斎藤の肩を叩き励ましたが、博士の手首が反るような形で折れ曲がってしまった。痛みに呻く博士は、助手に支えられ、その場から退避した。

「準備はいいか?」

 イヤホンを通して、博士の代わりに助手が斎藤に訊ねる。

「心のですか、それとも覚悟ですか?」

「どちらもだ」

 助手がそう言うと、斎藤の返事を待つ間もなくロケットの発射ボタンを押した。斎藤を乗せたロケットは一路隕石へ向かって飛んで行った。

 斎藤は博士に呼ばれた時から覚悟を決めていた。例え実験に失敗したとしても、地球に残ったとしても、結果は同じ。ならば、なにもしないより挑戦する方を選んだ。

 あっという間に宇宙空間に到達すると、目の前にはとても美しい青き星が現れた。なんて綺麗だ、と斎藤は見惚れていたが、すぐに現実にもどされた。背後から迫りくる不気味で強烈な圧力を感じたからだ。肩こりのせいで首を動かすことができなくなり、隕石の全容を見ることはできないが、気配だけでも相当なものだとわかった。

 隕石到達まで、残り三十秒。

 イヤホンに、機械音が響く。

 十秒前。九、八、七、六、五、四、三、二、一。

 斎藤の肩から背中を覆うこりと、巨大隕石が衝突した。斎藤は今までにない衝撃を背中で受けていた。負けるものかと、肩甲骨に力を入れる。すると、さらに肩が広がった。広がりを見せた斎藤の肩こりの強さは、巨大隕石の力に迫った。家族を守るため、地球を守るため、斎藤は精一杯力を肩へ込めた。肩こりが酷くなるも、それはこりが隕石と同じくらいの大きさに成長したからでもあった。激しい頭痛とめまいが襲い掛かるが、必死に隕石を押し返す。全身の血管という血管が浮き出て、それら全てがこりへと集中し、こりが真っ赤な溶岩のように熱を発していた。それはやがて隕石にも通じ、表面を焼き尽くすほどの温度にまで上昇していき、とうとう二つの力が限界にまで達した。そのことによって、ありえもしないエネルギーが発生し、ほんの少しひずみができたかと思うと、音のしない大爆発が起こった。

 日に日に大きくなって行く隕石を見るために、上空を見上げている者も多かっただろう。ただ茫然と見上げていた者たち。落ちてくる隕石を手を繋いで眺めている恋人たち。両腕を空にかざし、呪文を唱えている者たち。空に向かって銃弾を撃ち続けている者たち。その人々の目を眩ませるほどの強烈な光が地球に降り注いだ。しかし、それは一瞬のことで、まばたき一つしている間に、何事もなかったかのように、あるはずのものと一緒に消失していた。誰もが目を疑った。もしや、すでにこの世はあの世なのかと、人々は顔を見合わせ、中には頬をつねる者もいた。驚くのも無理はない、あの不気味に迫って来ていた隕石が、欠片の一つも残さず、忽然と姿を消していたのだから。にわかに信じられず、ニュースもあいまいに伝えられていたため、喜んでいいのかわからず、人々はやきもきしていた。

 その頃、斎藤を乗せ役目を終えたロケットは、元の草原へと寸分の狂いもなく戻ってきていた。ロケットの先端には、背中が丸出しの斎藤の姿があった。斎藤は無事だったのである。

「いやあご苦労だったな。まさか、本当に隕石を破壊してしまうとは思わなんだ」

 博士は、斎藤を笑顔で迎えた。研究所から超望遠鏡で様子を眺めていたようだ。

 博士の助手に、斎藤はロケットから降ろしてもらった。

「僕も肩がとても軽くなった気がします。もしかして、治ったのでしょうか」

 斎藤は両肩と首を交互に回しながら言った。肩から背中を覆っていたこりの塊が、消え失せていた。

「どういう原理か考えてみたんじゃが……きっと、あの凄まじい衝突によって、反物質が生まれたんじゃ。その反物質は物質とぶつかり対消滅を起した。物質は隕石と君の肩のこりじゃ。君やロケットが消滅しなかったことはまさに奇跡じゃ。君は、奇跡を起こしたんじゃ」

 博士はとてもうれしそうに顔をくしゃくしゃにして笑い、斎藤も難しいことはわからないが、重度の肩こりが治まり、ついでに地球も無事だったことを博士の助手と手を取り踊りながら喜んだ。

 地球は救われた。一人の重度な肩こりによって。世界的権威である博士がそう伝えると、やきもきしていた人々は、飛び上がり喜んだ。

 斎藤はたちまちヒーローとなり、たくさんの取材を受けることになった。日本だけに留まらず、世界中から取材の依頼が殺到した。目まぐるしい日々を過ごし、休む暇もないほどだった。取材と称し、記者に紛れた者によって、暗殺事件も起きかけたが、博士が用意した用心棒たちによって、大事には至らなかった。彼らもまた、斎藤の肩こりによって鍛えられた者たちだった。暗殺者を送り出した犯人は、あの演説で醜態をさらした大統領ではないかと言われている。地球が終わると決めつけて、最後の最後にふざけたものの、斎藤によって救われてしまったからだろうと。大統領は否定したが、恥をかかされたための報復ではないかとのもっぱらの噂だ。他に狙う者がいるとすれば、この世界が終わることを望んでいた者たちくらいか。どちらにせよ、博士が斎藤の身の安全を保障すると約束してくれたため心強かった。

 斎藤は、その後も数か月は取材の毎日だった。テレビにも多数出演し、骨を休める間もなく毎日が慌ただしかった。おかげで、懐が非常に暖かくなり、晩酌の酒のつまみが二品から三品に増えていた。

「見てくださいこの指を。あの人の肩を揉みほぐしたときからこのように曲がったままですよ。恨んでいる? そんなわけないじゃないですか。この指を見にたくさんのお客さんが来てくれるんだから。治療費を返したいくらいですよ」

「あの方です。クレーン事故から私たち親子を救ってくれたのは。娘に至っては、彼に抱っこされたのよ」

 いつかのマッサージ師と、鉄板落下事故から守った親子が、うれしそうにインタビューに答えていた。

 そんな中、本当は隕石など存在していなかったのではないかと主張する集団が現れた。そう誘導することで、一儲けする算段らしい。その最先鋒にいたのが、斎藤から十万円を巻き上げた霊媒師だった。しかし、彼らは世間の大多数から白い目で見られ誰からも相手にされなかった。さらに霊媒師に至っては霊感など備わってなく、それらしいことを言っては除霊代と称して多くの人から多額の費用を請求していたことが判明した。警察も動き、霊媒師は詐欺容疑で逮捕された。

 斎藤は、世界各国から勲章が与えられ、さらにはノッペラ平和賞まで受賞し、大勢の前で演説を行った。受賞式会場から宿舎へと戻る車に乗る際、記者から「斎藤さん、この後のご予定は?」との質問にこう答えた。

「マッサージ屋にでも行きますよ。目まぐるしい日々のおかげで、肩がこりましたから」



 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肩こり せらりきと @sera_ricky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ