面白いゲーム

せらりきと

面白いゲーム

 青年は、仕事の帰りに、ゲームソフトの福袋を買った。千円で、袋の中には十本のゲームソフトが入っているのでお得である。お得ではあるのだが、当たりは一本あるかどうかだろう。それでも怖いもの見たさで購入し、家に帰ると、早速袋を開けてみた。

 —―やっぱりだ……。

 そのすべてが、いわゆるクソゲーと呼ばれるもので、青年はそのすべてをプレイ済みだったのである。

 ハズレか、とため息をつき、ゲームソフト専用の棚へ仕舞おうかと思っていると、パッケージに入っていないディスクが床の上に落ちた。タイトルは、黒のマジックで書いてあった。

『面白いゲーム』

 明らかにコピーしたソフトにしか見えなかった。

 いや、もしかすると、エッチなDVDではないかと考えた。クソゲーをまとめて買わせたせめてものお詫びにと、店員が気を利かせたのかもしれない。面白いゲームと書いたのは、偽装のためなのだろうか。そう勝手に解釈をし、青年はDVDを起動させた。

 ワクワクしながらテレビ画面を眺めていると、あの有名なSF映画のような文字が画面いっぱいに流れて来た。

 なんだ、映画か、と青年は前のめりになっていた体勢からだらんとした体勢に変えた。しかし、すぐに場面が切り替わり、武器の扱い方などの説明する、いわゆるチュートリアル画面が現れた。

 いきなりチュートリアル画面で青年は戸惑ったが、どのような説明があるかちゃんと読んでみようと再び前のめりの体勢に戻した。

 画面には、『全部頭に入れること』と、申し訳程度の大きさで、注意書きがされてあるのを見逃さなかった。青年は、通販のCMで、『個人の感想です』と、小さな文字で、書いてあることを思い出し、にやけてしまった。

 暗記するのは難しいため、とりあえずスマホを取り出し、画面を録画した。

 内容は、宇宙船に乗って、様々な惑星に派遣され、そこで人類の敵と戦う。ただそれだけだった。

 チュートリアルが終わると、再び文字が流れはじめ、最後に、『死んだら終わり』と書かれた文字が中央にデンと現れると、部屋の電気が消えた。画面も当然消えていて、停電か、と戸惑ったが、すぐに灯りが戻ってきた。

 ホッとし、画面を見ると、それはテレビの画面ではなく、映画館にあるような液晶画面が部屋全体に広がっていた。驚き立ち上がり周りを見渡してみると、上から下まで銀色のタイツのような服を着ている数人が、それぞれ自分の席につき、モニターの前で慌ただしくしていた。

「なにをしている新入り。ボーっとしてる場合ではないぞ。着陸するぞ。早く席に着くんだ」

 隣の席にいる髭の生えた中年の男から注意され、青年はなにがなんだかわからないまま席につき、自分の目の前にあるモニターを眺めていた。映像内では、赤い惑星や、白い惑星、他にも緑の惑星があり、青い惑星は一部欠けており、さらに煙のようなものが出ていた。

 映像が切り替わると、至るところで、宇宙船同士が、光線を出し合いながら戦いを繰り広げていた。大爆発を起こし、衝撃波が青年の乗っている宇宙船にまで到達し、大きく揺れるが、誰一人として動揺している者はいない。青年はというと、いきなりのことで動揺する余裕がなかった。

 青年の乗った宇宙船が黄色い惑星に着陸すると、髭の生えた中年の男が、武器を持って外へと出た。

「どうしたさっきから。君も行くんだろ?」

 今度は、青年と比較的年齢が変わらなさそうな細い男が武器を肩に乗せながら言った。青年は、細い男について行くように宇宙船から飛び出た。

『死んだら終わり』

 って書いてあったな。と、青年は思い出していた。いったいどうなるのやら、と震える体を宥めながら細い男について行った。

 おそらくここでは敵と撃ち合いがはじまるはずだ。

 なぜかポケットに入っていたスマホを取り出し、録画を再生し、武器の扱い方を真似る。

 そして試しに撃ってみると、ブゥンという音と共に、熱光線が発射されると、それが敵軍に直撃し、大きな爆発を起こした。

 これが合図だったかのように、両軍の激しい戦闘がはじまった。

「新入り、着いて来い」

 と、また別の仲間から促される。青年は、FPSで鍛えた腕を見事に発揮した。ただFPSでは死んでも生き返ることができるが、このゲームでは死ねないため、とにかく慎重に物陰に隠れながら撃ち合った。

 敵は人ではない異形生物。

 彼らは、破壊を楽しむ生物で、青年たちは異形生物から星々を守る精鋭部隊だった。

 仲間と連携し、次々に異形生物を倒して行く。そして、敵の指揮官が潜んでいるタワー型の建物内へ入り、至るところに爆弾を仕掛けてその場から立ち去った。

 仲間が全員いることを確認すると、青年がスイッチを押すようにと、この隊のリーダーから渡された。青年は仲間として認められた瞬間だった。

 青年がスイッチを押すと、大爆発を引き起こし、建物は崩れ落ちた。

 戦いに勝利し、母星へと帰還するため、宇宙船に乗り込んだ。互いに健闘をたたえ合い、あの髭の中年男も、青年と同じくらいの歳に見える細い男も無事で、水分を採っている様子が見えた。

 母星は、地球に似た青い星だった。地球よりも遥かに科学が発展しており、SF映画で見られるような光景が広がっていた。大きなビルが立ち並び、夜なのにどこもかしこも明るくて、空飛ぶ車ではなく、空飛ぶ人間がたくさんおり、地上よりも混雑していた。

 青年は自分の家へ帰ると、玄関の所に、二人の美女が立っていた。

 一人は金髪で、もう一人は銀髪。どちらも美人で、体格もほぼ同じでスタイルがとても良かった。

 ここで選択肢が現れる。

 青年は、金髪の美女を選んだ。昔プレイしたRPGのゲームで、嫁選びがあった。その時、幼馴染の金髪の女性ではなく、青い髪の女性を選んだことを、今でも悔いていたからでもある。

 銀髪の美女は、残念と言いながら去っていく。

 青年は、後に金髪美女と結ばれ、子宝にも恵まれた。

 しかし、平穏な日々を青年が送ることはない。その後も、戦闘の日々だったからだ。

 戦闘の中で、はじめてアクシデントが青年を襲う。いくらうまく立ち回っても、敵の攻撃を全く食らわないことなど不可能なのだ。

 紫の惑星で小型の異形種との戦いの時、あまりの素早さに、狙いが外れ、一瞬の隙を与えてしまい、敵の爪が腕と腹に食らってしまい、深手を負ってしまった。幸い、近くにいた仲間に助けてもらい、死なずに済んだが、ゲーム内だというのに、強烈な痛みが全身に走っていた。

 それでも青年の住む惑星の科学技術は素晴らしいもので、命さえ失わなければ、どんなケガでも病気でも一瞬で治せるポーションがあった。

 青年はポーションを飲みほし、すぐに戦列に復帰した。恐怖心はあったが、死ぬよりはましだ、と自分に言い聞かせ、奮い立たせていた。

 紫の惑星でも、青年は大活躍し、見事敵軍を陥落させた。

 青年は、腕前を買われ、一艦隊のリーダーへと昇進する。

 部下を率いて、赤い惑星を攻める任務をうけ、率先して先頭に立って戦う青年だったが、部下を大量に失ってしまう事件が起こる。敵の罠に引っかかり、地雷原へと踏み込んでしまったのだ。反重力装置で、空へ逃げようとするも、待ってたとばかりに狙い撃ちにされてしまった。

 青年は、自分の身を守ることに精一杯で、部下を守ることができずに命からがら宇宙船に戻った。

 部下の半数を失い、自分は生き残ってしまった青年は、辛い日々を過ごすことになる。犠牲者の中に、あの細い男も含まれていた。ただ、誰も青年を責めることはなかった。戦争とはこういうモノなのだと、皆が慰めてくれた。ところが、その事が余計に青年は辛かった。

 この一件で、青年は戦争に行きたくなくなってしまう。しかし、このままではダメだということはわかっていた。

 乗り越えるべく、青年は、精神修行を行なった。精神の成長なくして、誰が家族を、星を守れるのだ。

 初心に戻り、まずは森林でサバイバルをし、滝に打たれ、座禅を組んだ。家族からも少しの間距離を置き、そこで自分には何が必要だったのかを知る。そんな家族を失うわけにはいかない。

 青年はついに乗り越えることに成功し、戦列に復帰した。

 誰もが待っていたと言わんばかりに、青年を迎え入れた。そこには、髭の中年の男もいた。

 そして、部下を失う羽目になった赤い星で、見事にリベンジを果たしたのである。

 黒い惑星には、異形生物の王がいる。そこを落とせば、間違いなくこの戦争にも終わりが見えてくるはずだ。

 青年の艦隊は、母星から百光年ほど離れた所をパトロールしていた。部下がなにか黒いものを見つけた。ブラックホール? いや違う。星だ。ついに見つけた。あの黒い惑星こそが、異形生物の王の住む星だ。

 青年の部隊は、本部に連絡を入れ、応援を待った。

 前は先走り、部下を大量に失ったからだ。

 しばらく待っていると、応援がやって来た。

「おそらく、この戦争は今までの戦争とはわけが違う。無理だとわかれば、ひくことも肝心だ。できれば、全員で故郷へ帰ることが好ましいが、それは難しいかもしれない。だからこそ命を懸けることのできる者だけがついて来るんだ。いくぞー」

 青年の号令に、部下が答える。迷う者などいない。

 ついに最後の戦争がはじまった。

 青年たちの艦隊が先頭を走る。激しい撃ち合い、ブレードでの斬り合い、地雷原は、反重力装置で、ほんの少しだけ浮いていれば当たらないという単純なことに気がついてからは、全く影響を受けなくなっていた。

 見事な連携で、黒い惑星の異形の王のところまで到達した。漆黒王は、変身し、まるで岩山かと思わせるように巨大化していた。

 しかし、巨大化は、青年たちにとって有利に働いた。次から次へと激しい攻撃が漆黒王を襲った。

 ところが、漆黒王は反撃をしてこなかった。反撃するどころか、さらに巨大化している。 

 青年はまずいと呟く。漆黒王はもはや勝ち目がないと悟ったのか、大爆発を引き起こすつもりだったのだ。青年は機械に計算させると、爆発まで十分もない事がわかった。

 部下に撤退命令を出す青年。応援部隊も、慌てて艦隊に乗り込む。十分もあれば、黒い惑星から離れることができるだろう。

 それなのに、青年は艦隊に乗り込もうとはしなかった。例え、黒い惑星から離れることができたとしても、漆黒王が爆発すれば、黒い星そのものが爆発し、艦隊が巻き込まれる恐れがあった。

 青年は黒い星の巨大宇宙船に乗り込み、エンジンを起動させた。動力は、母星の技術と似たようなものだったので、簡単に行えた。通信で、母艦に連絡を入れ、自分はこれから漆黒王を太陽まで連れて行くからと伝えた。部下たちは、青年の名を叫んだが、青年はスピーカーを切っておいた。決心が揺らいでしまっては大変だからだ。

 青年の乗った宇宙船のアームが漆黒王を掴むと、艦隊とは逆方向へと進めた。あっという間に、太陽付近まで来ると、パンパンに膨れ上がった漆黒王が悔しそうな表情を浮かべながら大爆発を起こした。爆発による衝撃は、数光秒離れた青年の部下たちの乗った艦隊にまで届き、激しい揺れを引き起こした。艦内の電気が消えたり点いたり、機関室では熱暴走を起し、湯気や煙が発生したりしたが、なんとか制御することができた。もしあのまま黒い惑星で爆発を起こしていれば、きっとただでは済まなかったはずだった。

 青年は爆発の瞬間、妻と子どもの顔が真っ先に現れた。さらに、なぜか地球の両親ととても大切にしていたペットの犬まで現れていた。実家で愛犬と一緒に庭で遊んでいる光景から、小学校に入学、中学高校大学を経て、現在の会社に至るまでの映像が、走馬灯のように流れて来た。

 ああ、自分は死ぬのだと思い、すべてを受け入れると、テレビの電源が切れるようにプツンとなにかが切れた。

 パッと目を開けたら、そこは地球の自分の部屋だった。 

 青年は夢でも見ていたのだろうかと、目の前のテレビ画面を見てみると、THE ENDと書かれてあった。どうやらゲームをクリアすることができたようだ。

 しかし、とてもリアルだった、と余韻に浸っていると、窓を叩く音がした。

 そこには、可愛らしいネコがチョコンと座っていた。

 青年が立ち上がり窓を開け撫でてあげると、ネコが喋りはじめた。

「クリアおめでとう。このゲームどうだったかにゃ?」

 ネコが喋ったことに多少驚いたものの、青年は答えた。

「面白かったよ」

「実は僕が作ったんだにゃ」

「すごいね」

「でしょ。僕は宇宙人だからにゃ」

「宇宙人なんだ」

「そうだにゃ」

「すごいね。リアルだったよ」

「だって、実際に起きたことだからにゃ」

「どういうことだい?」

「あの青年は、君の前世だにゃ」

「えええええええええええ」

「そんなに驚くことじゃないにゃ。このゲームを起動すれば、起動した人の前世で起こったことの一部を体験できるんだにゃ。君の前世は、地球から数光年離れた宇宙に存在した人間だったにゃ」

「そうだったんだ……やけにリアルだなって思ってたよ。じゃあ妻と娘も存在しているってことなのかな?」

「そうだにゃ。正確には存在していた、って方が正しいにゃ」

「そうだよね。前世だって言うくらいだから。その後はどうなったのか教えてくれないかな。妻のことや娘の事、それからあの惑星の事とか」

「二人とも、君を失ったことを非常に悲しんでいたにゃ。だけど、戦死し、二階級昇進した君の遺族年金で、裕福な暮らしをしたにゃ」

 あんな高度な文明を誇る惑星でも、殉職すれば二階級昇進なんだと、青年は笑った。

「大人になった娘ちゃんは、お金持ちの青年と結婚して、君の遺伝子は、孫の孫からさらに孫の孫までといった感じで続いたにゃ。それから、君は英雄として称えられたにゃ。あの周辺の宙域は、君の名前が付くほどだったにゃ」

「なんだか大ごとになってたんだね」

「そうだにゃ」

「行ってみたいなー、あの惑星に」

「それは無理だにゃ。君の前世の惑星は、十万年前に銀河衝突と共に消滅したにゃ」

「そ、そんなー。じゃあ、人類も……」

「当然だにゃ。地球も、そう遠くない未来に滅びるにゃ。そういう風になっているにゃ」

 ネコは淡々と言った。

「そうそう。さっき言った銀河衝突で大きな爆発したって言ったよにゃ」

「うん言ってたね」

「実は、その影響が、今夜地球でも観測されるんだったにゃ。まさに運命だにゃ」

「な、なにが起きるって言うんだい?」

 青年は恐る恐る訊いた。とんでもないことを淡々と言うネコのことだ、地球にもたらす影響は、尋常ではないことかもしれない。そう遠くない未来が、今夜とも限らないのだ。

「不安そうな顔だにゃ。安心するにゃ。まだまだ地球は滅びないにゃ。あと数年は大丈夫だと保証するにゃ」

 数年なんだ、と苦笑いを浮かべる青年。

「じゃあ、一体なにが観測されるって言うんだい?」

 すると、ネコは空を見上げた。「都会は空が汚いは、万国共通だにゃ。付いて来るにゃ」

 青年は、ネコの手を借りると、エレベーターが動いた時よりも若干強めのフワッとした感覚になり、一瞬目を閉じてしまった。しかし、すぐに開くと、どうやら山奥まで飛んできたようだ。本来ならもっと驚くべきなんだろうが、ネコが喋っている時点でその考えは吹き飛んでいた。

「ここなら、綺麗なお星さまが見られるにゃ。さあ、君も空を見上げるにゃ。君の前世の星の欠片が、夜空を輝かせるにゃ」

 青年が空を見上げると、都会では見たことのないほどの星で覆われていた。さらに、虹色のオーロラが発生し、それを追い越すように、大量の流星群が流れて行った。



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