第5話 胡麻

 「探索者シーカーズギルドには寄って来たのよ。でも、そんな情報はないって。鉱石がないと私たちの機体ビークルの修繕にとんでもない手間が掛かるのぉ。」


 クララは必死のようだ。しかし、ビークルってなんだ?この世界に自動車があるのだろうか。馬車のことか。タムラがクララに答える。


「俺も聞いたことはないな。だが、ここでオークが出てきたのも初めてだ。つい最近のことなのかもしれないし、デマなのかもしれない。ダンジョンは生き物みたいなものだ。ときどき様子が変わる。うちの店に来ないか?冒険者どもの溜まり場だ。何か知ってる奴がいるかもしれん。」


 (お、タムラさん、ナイス。この綺麗な娘と話す機会ができそうだ。内心鼻の下が伸びそうだ。ポーカーフェイスしておく。)


「タムさん、食材は手に入ったことだし、店に戻ろうか。クッキーもいいかい? 初めてのダンジョンの様子見なら、こんなところで大丈夫だろう。また少しずつ説明して実際に経験しながら憶えてもらうよ。」


 タムラは大量の豚肉のブロックでご機嫌のようだ。ヒレもロースもいけそうだと言っている。



 そして、レストラン『取調室』のボックス席へ。6人掛けのテーブルと、少し離れて4人掛けのテーブルで半個室になっている。大きな店で、1階客室の半分がこのような個室で20室もある。なんでも冒険者、探索者のパーティは6名までの編成と決められているそうで、その6人、または仕事の依頼者や取引先などとのミーティングに使いやすいからだ。パーティが6人までとなっているのは、7人になると軍隊の戦力に匹敵するため。軍の最小単位、一個分隊が7人~11人での編成になる。戦争や災害、厄介なモンスターの討伐などで冒険者、探検者を臨時戦力として徴用する場合、6人のパーティに騎士などの指揮官を就けて一個分隊として運用する。冒険、探索でも困難な案件では、一時的にパーティや個人が集まって大人数となる『レイド』がギルドや行政に認められる、とのことだ。このあたりは自衛官である俺には、すぐに理解できた。


なるほど、この店の作りならば、冒険者たちが集まり管理組合ギルドとは、また違った情報が集まるのだろう。この半個室の6人掛けの席で、奥にタムラとクララが向かいあい、手前の通路側に礼三れいぞうと俺、朽木了くつぎりょうが向かって着席した。そして店のオーナーの礼三から。


「クララさんは、この町の出身だそうで、お帰りなさい。まずは乾杯して、うちのカツ丼と豚骨ラーメンを存分に味わってください。」


 魔法でキンキンに冷やされたビールジョッキを高々と挙げ、これまた甲高い音を鳴らせて合わせ一気に煽る。プハアーッ、うまい!それから、食う!丼料理なので、お上品に食す必要はないだろう。美味そうに食べているし、俺は今日は馴れないことをして空腹なので思い切りかきこむ。すする。と、女性の前でした。ちょっと後悔した。


「クッキーさんって、食べっぷり良いですね。男らしいですぅ。」


 なんていい娘なんだろう。社交辞令にしても。惚れちまうだろ。口の中に食べ物がつまっている俺より先に礼三が応える。


「クッキーは、僕たちと同じ転移者だ。昨日来たばっかりなんだけどね。元の世界では、こっちで言う騎士みたいなものだったんだよ。身体を鍛えてるから、食いっぷりいいね。」

「転移者が3人も揃っているなんて珍しいですね。まあ、うちのパーティにも一人いますけど。転移者は強い人ばかりなんですかねえ?」

「へえ、強い転移者か。会ってみたいな。」


そしてタムラからシェフらしい発言。料理についての質問だ。


「食いっぷりのいい若いの。お前さんには期待してるんだよ。本物のカツやラーメンの味を知ってるからな。忌憚きたんのない意見を聞かせてくれ。まだまだ改善の余地はあるし、メニューを増やしたいと思っているんだ。

「美味いです。塩加減が最高です。取り調べを受けて『確かにやったんだな!ここにサインしろ!』と言われたら何枚でもサインします。チャーシューの歯ごたえも紅ショウガもバッチリだし、文句なし。」

「いや、文句言えよ。ここで満足したら進歩が止まるからな。何かないのか。言っても怒らねえよ。」

「ああ、では。すみません、一言。豚骨ラーメンには、胡麻があると、なお良いかな、と。」


タムラと礼三がハッとして顔を見合わせる。言わなければ良かったか?


「「それだ!」」


二人の声がハモり、同時にテーブルを叩く。満面の笑顔だ。握手している。


「よしよし。昨晩モンスターが出ていないか見廻りの帰りに君を見つけたのは運命だったんだな。明日からのクッキーの仕事の目標も決まったよ。胡麻の調達ね。」

「でかしたぞ、若いの。なんで今まで胡麻が足りないと気づかなかったんだろうな。」


俺、ひょっとして余計な仕事作っちゃった?でも、やることないのも、それはそれで辛いしな。まあ、いいか。二人に笑いながらバシバシと肩を叩かれる。ちょっと痛いくらいに。そして礼三は続ける。


「明日はギルド管理組合の神殿に行って、必要なスキルの継続魔法エンチャントを全部つけてもらおう。こっちに来てから言葉が通じるようになったアレ、今朝やったのと同じようなヤツね。便利になるぞ。それから、何日か掛かるけど講習も全部受けてもらうよ。せっかくの上級職能クラスだからね。」


なんだかいろいろとやる事があるらしい。まあ、やってみるさ。魔法は使ってみたいし。


「昨日来たばかりなんですよね?上級クラスなんですか?やっぱり転移者は凄いんですね。」

「あ、うん。よく分からないけど、魔導士ウィザードだって。でも魔法の使い方を勉強しないといけないらしくて。」


 ウィザードと言った途端、クララの眼が輝いたように思えるのは、俺が単純な脳筋バカだからだろうか?やっぱり可愛いな、この娘は。


「頑張って講習受けてくださいね。魔法使いマジックユーザーは貴重なのよぅ。魔法が使える人のほとんどは宮廷騎士団に入るか、貴族にかかえられるか、そうでなければ冒険者、鍛冶師や錬金術師などの職業ジョブに就きます。エンチャンターならギルド神殿で働いたりもしますね。でも、冒険者でも魔法が使える人は半分もいないの。魔法がなければ成り立たない世の中なのに。」


 はい、頑張りますよ。言われなくても頑張るつもりだったけど、もっとやる気が出てきました。スイッチが入った感。


「ところでタムラさん。私のほうの本題に入っていい?私も冒険者パーティに属してるから、パーティのために役に立ちたいのよぅ。」

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