第4話 食材

「こんなやり方で食べ物を手にいれるんですか?まさに生きる事は戦う事ですね。」

「もちろん、普通に農業、漁業、酪農もやってるよ。皆がんばって普通に働いてるさ。ただ珍しい物が欲しい場合や、不作の年などには、こうするしかないんだよね。それに、別の理由でも混沌ドゥーム迷宮ラビリンスには入らないといけない。放っておくと、ラビリンス・オブ・ドゥームはどんどん大きく広くなる。そしてモンスターを生み出し外に出してくる。町や村がモンスターに襲われるようになるんだよ。」


礼三が答えるが、さらにタムラも付け加える。憶えることが多い。


混沌ドゥームと付かない迷宮だってモンスターがわんさか湧かないだけさ。だいたいクリーチャーの棲みかだからな。クリーチャーの繁殖場所にはなるのさ。動ける者が動いてクリーチャーやモンスターを駆除しないといかん。探索者シーカーとは、だいたいラビリンス・オブ・ドゥームで活動する職業。冒険者アドベンチャーは、ラビリンスに限らず、広いフィールドで活動する。移動は長距離になるし厳しい自然環境でのサバイバルや大型のモンスターの討伐もこなすから、まず探索者シーカーとして評価を受けないと冒険者アドベンチャーにはなれん。どちらもそれなりのノウハウは必要だし、探索者シーカーはとくに副業としてやる人も多いから、管理協会ギルドも一応分かれてる。」


そうか。おそらく地下のはずで窓もないのに明かりがあって、平らな床に整然とした壁が並ぶだなんて、おかしな環境のダンジョン・オブ・ドゥームでは、生物クリーチャー魔物モンスターと戦って死ぬことはあっても、強風にあおられ崖から落ちたり吹雪で凍死したりはしないということだ。そして狭い通路では大きな魔物はいない、と。


 さらに礼三の説明。もう少し深く掘り下げる。


「ドゥームの迷宮の中のモンスターを駆除すれば、外に出てくるのを遅らせるし、最深部の『宝玉オーブ』を壊せば、ラビリンスそのものが無くなるんだよ。でも、無くなるとドロップ品も取れなくなるから、ちょっと危険を伴う資源として管理する。そのためにギルドがあり、国の役所や軍隊、土地の領主が抱える騎士団や自警団などが存在するわけだね。」


 迷宮ラビリンス」というものが、社会全体に大きな影響を持ち、また天恵と災厄の役割を果たしている。


「なるほど。だいたい分かってきました。では、目的の食材を採りに行きましょう。剣で戦う覚悟はできましたよ。」


目的の品は、赤い粘性怪物スライムがドロップする赤シソの葉だ。豚骨ラーメンの紅ショウガを作る材料。やはり、礼三やタムラが手に取ると手品のようの何処かへ消えていく。これは、どういうことか、あとで質問してみよう。白いスライムの緑豆モヤシなども獲得しながら、魔物と戦ってダンジョンを進んで行く。


「赤シソの量はもう十分なんだけど、クッキーの勉強も兼ねてるから、もう少し進もうか。」

「旦那、マナプールを2~3か所周ろうか?。」


マナプール。また新しい言葉が出てきた。魔法エネルギーであり魔物モンスターの素、マナの溜まり場だそうだ。ダンジョンでは泉のような水場になっていることが多い。そこはマナの影響で変わった植物が生える、新しい魔物モンスターが発生する、などイベントが起こる可能性が他よりも高い。


「ああ、それがいいね。クッキーはきもわってる。急いでも問題ないだろうから。」


 小鬼ゴブリン角ウサギアルミラージと、これまでより多少強そうな魔物がいたが、自分一人でもこなせそうな仕事だった。剣は馴れないが、一応有事に備える自衛隊員として平常心だけは心がけているつもりだ。


そして4つ目のマナプールでは、先客がいた。二十歳はたちくらいの女性が一人。飛んだり跳ねたりしながら、豚頭族オークの群れの攻撃をかわして翻弄ほんろうし、ナイフで止めを刺していく。遠目だが、華麗な動きに見とれてしまう。


「オーク!まずいな。助けに行こうや、旦那。」

「クッキー、あの魔物、女の子はヤバいぞ。すぐに助けるんだ。走れ!」


 見とれてる場合じゃないらしい。剣を正眼の構えに踏み込んだ。相手は身体が大きいうえに数もいるので、体当たりするつもりで突っ込む。勢いよく群れの真ん中に割り込むが、やはり肩や脇腹に何かがあたる感触。軽い痛み。いや、これくらい何の問題もない。


「あら、何処のどなたかしら? 加勢してくれるの? ありがとう。でも、あたしなら大丈夫だから。怪我しないうちに引っ込んだほうがいいわよぅ。」


 右手の剣を振るったものの盾で弾かれたが、お構いなしに左拳でオークの顔面に殴り掛かる。礼三は剣を持ち走りながら火の魔法攻撃で、タムラは弓で、それぞれオークの群れをなぎ倒していく。


 程なくしてオークの群れは、全て片付いたが、最後の1頭は彼女がナイフを投げつけ、眉間に刺さって絶命した。見事な腕前だった。驚いたことに彼女は何事もなかったように呼吸も乱していない。綺麗な立ち居振る舞いだ。


「引っ込んでいろなんて失礼なことを言ってしまいましたね。お詫びします。あなた方は、かなり手練れの冒険者だとお見受けしますが、この付近はダンジョンの中でも初級者も挑める低層域でしたので、早合点してしまいました。そして加勢していただき誠にありがとうございました。」


 話し方も落ち着いている。礼三が返す。


「いえいえ、こちらこそ失礼しました。お怪我はありませんよね?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」


 弓で応戦していたため、やや離れた場所にいたタムラが走り寄ってきた。彼女の顔を見て軽く驚いた表情をして話しかける。


「おい、ひょっとしてクララじゃねえか? 久しぶりだな。セント・アイブスに帰ってきてたのか。」

「あれえ? タムラさん? わっ、元気ぃ?」


 どうやら知り合いらしい。紹介してくれ。


「でもまあ、積る話はあとにしましょうよぅ。帰ってきたのには理由があって。ドロップ品はあげちゃうから、情報ください。この町の近辺のダンジョンのマナプールで金属の鉱石が採れるって聞いたの。私が所属してるパーティには必要なのよぅ。」


オークは煙になって消え、豚肉のブロックに替わった。店にとっては上等な食材なんじゃないか。しかも大量にある。

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