第3話 ダンジョン
『レストラン取調室』に一旦戻った。どうせ町の一番外側にあるから、町から出るには通るわけだ。
不思議な感覚だが、言葉が通じるようになったので、改めて店の従業員に挨拶する。結構繁盛してるようだ。十数名が皆テキパキと動いていたが、しばし手を止めてもらった。
「開店時間までに手が空いてる人いる? クッキーを連れて食材を少し仕入れに行くから、誰か来てくれないかな。」
「
シェフのタムラが一緒に行くことになった。冒険者としても腕っこきだそうだ。
(この人、名前からしても日本人っぽいけど。)
この世界の服装や武具を貸与され出発。歩きながら説明される。
「ギルドに登録する
「はい、基礎体力がないと任務はこなせませんね。」
「そういうことだね。話が早くて助かるよ。」
「え、
やはり驚いているようだ。そういえば上級クラスとか言ってたな。
「まあ、俺もこっちに来てからわりと短い時間で上級職になったんだが。初めから持ってるってのは珍しいかもな。だけど魔法を覚えるのは骨が折れるぞ。」
「こっちに来てからって、やっぱり日本人なんですか?」
「ああ、そうだ。それもあって気になって一緒に来たんだよ、若いの。」
「改めて宜しくお願いします。不安だらけですが安心材料が増えました。」
「いや、安心できないのが、この世界だ。気を抜いちゃいけねえよ。まあ、魔法も基本的な
(魔法を早く使ってみたいが、陸自だって、いきなり戦車には乗れない。その前にたくさんの講義を受けて憶えることがあり走り込みやら筋トレやら、いろいろツライことがあるのだ。戦車乗りとしてだけでなく並行してやることだってあるし。しかし、陸自の訓練よりもキツイんだろうか?)
昨日の俺の車が止まっている場所近くにきた。『ダンジョン』に行く途中だったか。明るくなって見ると、それほど車は傷んでいないようだ。まあ、あの時エアバッグも作動しなかった。車のことは手配したので心配は要らないとも言われた。
「さて、早速だが最初の課題だね。車の周りに4,5羽いる。タムさん、頼む。」
タムラが左手に弓を構え、右手には2本の矢。3本の指で1本の矢をつがえ、残りの薬指、小指でもう1本を保持している。すぐに2本目を撃てるようにだろう。キリキリと弓のしなる音が聞こえたかと思うと、1本、2本と放つ。矢継ぎ早って言葉は、こういう事を言うのかと、お手本のような素早い動作だった。
(車には当てないでほしいところだなぁ。)
薄茶色の動物らしきものがガサガサと草を揺らし逃げていく。その影3つ。近づいていくと、矢が刺さり絶命したウサギが2羽。
(上から目線っぽいけど、お見事。4,5羽とは鳥かと思ったがウサギだったか。)
「今日のまかない料理の食材は確保したな。若いの、見てな。」
タムラは、器用に矢を引き抜くとウサギの皮を剥ぎ、肉と皮を2つの袋に分けて入れ、その後魔法を使ったらしく、手品のようにウサギが何処かへ消えてしまった。礼三はその間にテキパキと矢じりを拭いて矢をタムラの腰のアローホルダーへ返す。
「ダンジョンに近いと
「俺たちゃ、こうして生活の糧を得るわけだが、猟銃なんてないし、モンスターって厄介なヤツらがいる。他にもだが。で、農業なんかも大変だ。魔法やらのノウハウが必要になる。探索だ、冒険だ、ギルドだのと元の世界ではなじみのない文化や風習、社会の仕組みがあるんだよ。」
そして
まず入口からして不自然だ。御影石にしては黒すぎる。光を反射しない。大きな石板のような物がポツンと低木の林の中の開けた場所に立っている。高さ4.5メートル、横幅2メートル、厚さ50センチ程。三辺の比が3の次乗 対 2の次乗 対 1の次乗。そう、『謎のモノリス』だ。触っても触感はない。手がすり抜けるように入り込んで行く。そのままモノリスに歩いて突っ込んで行くと、開きっ放しのドアのようにダンジョンに入るのだ。
(わけがわからないよ。まあ、魔法がある世界だ。今は考えても仕方がない。)
謎のモノリスを抜けると、整然としているが殺風景な建物の廊下のよう。窓もないのに何故か明るい。壁や天井が発光しているのだろうか。
入ってすぐ、通路の前方の辻、明かりが切れているのか薄暗い曲がり角から何か飛び出して来た。黒い翼が数匹。キイキイと甲高い声で鳴いている。コウモリだ。
「クッキー、狩るよ。渡した剣で応戦ね。無理しない程度に。」
不規則というのか、予測しづらい飛び方をするが、剣が当たりさえすれば簡単に翼の幕を斬って堕とせる。剣がなければ難儀だろうが、さほど苦労せず、怪我もなく済んだ。
「おう、良くやったな、若いの。これはヴァンパイアバットだ。外から入り込んで、ここを棲みかとしてるんだろう。噛みつかれると血を吸われる。まあ、傷口の血を舐めとられる、くらいか。こいつもウサギと同様クリーチャーだ。注意は必要だが、そんなに危険なわけじゃない。家畜がよく狙われる。残念ながら食用にはならない。」
「えー、骨折り損じゃないですか。」
「クッキー、止めておきなよ。毒があるからね。ずいぶん昔だけど、オズボーンって魔法使いが、酒の勢いで羽根をかじって死にかけたらしい。」
何処かで聞いたような話だが。まさか同一人物ではないだろう。
ダンジョンを進む。昨夜と同じような犬頭の二足歩行3匹と遭遇した。タムラの矢が1匹を捉え、片手剣を持った礼三があっという間に2匹を切り伏せた。たしか礼三は弱いと言っていた。しかし、様子がおかしい。倒れたコボルトの身体から白い煙があがる。煙は霧散して消え、そこに死体は残らなかった。死体の代わりに、おはじきのような黄色の平たく小さい小石のような物が3つあった。コインというには小さく、厚みもある。形は碁石に近い。
「クッキー、これがモンスターだよ。クリーチャー(Creature)とは、神が創造したもの。僕たち人間も含まれるが。身体は地水火風の
煙が完全に散った。コボルトが残した小石を拾いながら、タムラが続く。
「そして、これがそのマナの燃えカスみたいな物だな。トークンって呼ばれてる。強いモンスターほど、このトークンは大きくなり、数が増えることもある。それから、モンスターの身体がマナに還元された後、さらに4大元素に置き換わって肉や野菜みたいな食糧や別の素材として手に入ることもあるんだ。ドロップアイテムと言ってな。
今俺たちがダンジョンに潜ってるのは、そのドロップアイテム狙いだな。他では手に入りにくい物があるからさ。」
これは、完全に別世界だ。科学の代わりに魔法が発展するというのも納得できる。食材をこんな方法で仕入れるなら、農業だとかの第1次産業だけじゃなく、社会のいろんなことが違う方向に向かうだろう。
(俺が自衛隊員としてやってきた事が、なにか役に立つのだろうか?体力があるってだけか?これは馴れるまで大変そうだぞ。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます