第三話

  「瓜子姫!」


 そう唱えると今度は鏡の中の自分が鏡の中に引き込まれる……。


 「本当にさ、君らさ『来るな』と言ったのに来るなんて」


 鬼はため息をついた。


 「君らこそ『天邪鬼』だよね」


 風景が全く違っていた。ここは学校!?


 「あ!? 市川」


 一人だけ男が居たのだ。

 

 「悪りい、来ちゃったぜ」


 工藤京子、市川和也、佐藤佳子、真田恵子に吉岡佐代子の五人。


 「ここは本物の学校じゃないよ。君たちの負の世界を現した学校風景」


 「「ああ……」」


 廊下の掲示板に貼ってあったのは各高校内申点基準に偏差値表、そして進学先らしき各高校の大学別合格者数!!


 「それだけじゃないぜ」


 「何……あれ?」


 京子が指を指す。


 「スライムだ」


 「はあ? あのゲームに出る雑魚キャラのスライム?」


 市川はザコだと思っているようだ。


 「君たちの負の心を具現化した存在だよ」


 そう言うと天邪鬼は呪文を唱え銀の光のような爆発でスライムを消した。


 「「おお~!!」」


 「間違いするなよ? これはゲームじゃない」


 人間は全員凍り付いた。


 「ここで死ねば、君たちはそうね……荒川の河川敷あたりに溺死体となって発見されるかな? それにスライムは強酸性だ。君たちの体を溶かす。ゲームのような雑魚だと思わないことだ」


 鬼は意地の悪そうな笑みを浮かべた。


 「君たちに見せたいものがある」


 「何だよ?」


 「こっちに来い」


 そしてたどり着いた先は進路指導室だった。ラロが呪文を唱えると鍵が開く。ラロはがらっと戸を開ける。


 「ここにある資料は二〇二〇年のもの。今からちょうど三〇年先の物だ」


 全員が仰天する。


 「日本という国はバブル崩壊以後、徐々に破滅する」


 「えっ!?」


 「君たちが大学を出る頃は名門私立大に行こうが文系なら就職率五割がいいとこだろう。半分は無職やバイトだ」


 「ぎゃははは」


 市川が笑う。


 「信じるも信じないも自由だ。でもバブルはもう崩壊しかけてしているだろ?」


 「……」


 「さて、ここは君たちの遊び場じゃない」


 そう言うと次々呪文を浴びせた。


 「何をするの!?」


 京子が抗議の声を上げる


 「鏡の向こうの世界に入れないよう封印呪文を浴びせた。さあ、帰るんだ!」


 進路指導室の横にある職員室の前にはあるはずのない巨大な鏡があった。


 「封印の効力は十年。十年後に覚えているのならまた来てね。もっとも来た奴なんていないがね」


 来てほしいけどと言わんばかりの皮肉そうな笑みを鬼は浮かべる。


 「天邪鬼!」


 天邪鬼が唱えると鏡が渦巻く。


 「じゃあな、お前ら」


 そう言うと天邪鬼は次々怪力で鏡の向こうに押し戻す。佳子が戻ったのはいつもの家の鏡の前だった。午前0時五分になっていた。


(十年後絶対もう一回鏡の世界に行ってやる!!)


◆◆◆◆


(さて、逃げ出した一匹を探すか)


 ラロは必死に探す。やがて悲鳴が聞こえる。


 「くそったれが!」


 そう言って階段を上って悲鳴があがった場所に行く。三階にある三年三組の教室だった。恵子を追い詰めているのは一つ目の人の形をした黒色のスライムだった。ラロはさっきよりも大きい銀の光のような爆発を起こす。爆発で散らばったスライムの破片を鎌で切ると断末魔とともに消える。机や椅子は滅茶苦茶だ。ラロは鎌を背中にしまう。


 地面にへたってる恵子をラロは平手打ちする。


 「死にたいのか!」


 「だって……だって私、今の世の中に居場所無い」


 泣き崩れる恵子。


 「だったら居場所作れや。徹底的に反抗してもがこうぜ?」


 「えっ?」


 「それが天邪鬼の魂さ」


 そう言ってラロは呪文を唱えると鎖が現れた。鎖が恵子を縛る。さらにラロは呪文を唱え封印呪文を恵子に浴びせた。


 「来い!!」


 嫌がる恵子の声と鎖の音が響く。


 「おとなしくしろ。死にたくなければな」


 そう言うと鎌を取り出す。ラロはようやく恵子を二階の鏡の前に戻ると鎖を解く。鎖はいつの間にか消えた。


 「さあ、帰るんだ」


 そう言うって渦巻く鏡に京子を押し戻した。


 「やれやれ」

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