其の二十六
三善がバイトに戻っていったのに合わせて、私達もテーマパークを後にした。 優斗君と並んで歩くが、恥ずかしくて優斗君の顔がまともに見れない。
「凄い人ですね、三善さんって。 あそこまでハッキリ言える人なんて滅多にいませんよ 」
「そうだけど…… 」
(三善のバカ…… この耐え難い雰囲気、どうしてくれるのよ! )
アイツが私を好きだなんて全然想定外。 思い返せば、そうじゃないかなと思える節はいくつかないこともないけど、当時はそんなこと考えもしなかった。
「そういえば、三善さんは美月さんを陰陽師って呼ぶんですね 」
「安倍晴明の末裔だから陰陽師。 昔他のクラスの子に変人扱いされて苛められたことがあったんだけどね、三善が陰陽師ってカッコいいじゃないか! って騒いで、うやむやにしてくれたのよ。 それからずっとそう呼ばれてるの 」
(そういえば、アイツに名前で呼ばれた事なんてなかったな…… )
呼ばれた途端ドキッとした。 なんでドキッとしたんだろう…… もう分かんない!
「もうアイツの話はいいじゃない。 それより陽菜ちゃんだけど、君はどうしたい? 」
「会いたいです。 でも声は掛けません、あの子の今の生活を乱したくはないですから 」
『うん』と一つ頷いて優斗君に微笑む。 それが彼の望みだから。
「優斗君、引っ越す前の住所って覚えてる? 」
陽菜ちゃんの手掛かりは優斗君の記憶の中にしかない。
「はい。 覚えてますけど、新幹線か飛行機を使わないと遠いですよ? 」
そっか…… 2、3日休みを取らないと無理っぽい。
「美月さん、僕が一人で行ってこようと思います 」
え……
「大丈夫です。 僕ならどこでもフリーパスですし、時間もたくさんありますし。 僕は美月さんの生活も壊したくないんです 」
そう言われて気付いた。 私の目的は彼を成仏させること…… この世の未練を断ち切ることだ。 それが成されたとしても、私自身は普段のこの生活が待っている。
「そう…… だよね 」
少しの間だけど、四六時中一緒に行動してきた彼について行けないのは正直寂しい。 でも彼の意思を考えると、ここで彼が帰ってくるのを待つことも必要なんだと思う。
「二週間以内には戻ります。 一か月経っても戻らな…… 」
「戻らない、なんて言わせない。 必ず戻ってくること! 」
優斗君が向こうで未練が断ち切れたとしても、出て行ったっきりさよならなんて私は嫌だ。 それは私のワガママだって分かるけど…… 分かってるけど……
「分かりました。 どんなに遅くなっても戻ってきます。 約束です 」
優斗君はこのまま電車で新幹線の走っている街まで向かうと言う。 帰りの電車と新幹線の駅のある街への電車のホームは反対方向。 だから優斗君とはここで
「それじゃ、行ってきます 」
「行ってらっしゃい 」
連絡通路で分かれて向かい側のホームに出ると、既に私の方の電車は到着していた。 こんな時くらい優斗君の出発を見送ってやりたいが、こういう時ほどタイミングは悪いものだ。 私は電車に乗り、ドア付近に立って優斗君に手を振る。 別れに浸っている余裕もなく電車は出発してしまった。
「頑張ってね…… 」
私はドアに向かって小声で呟く。 私を乗せた電車は、帰りはあまり混むこともなく住んでいる街のホームに滑り込んでいった。
マンションのエレベーターを降り、玄関ドアの鍵を開けて中に入る。 後ろを振り返って優斗君が挟まらないよう道を作るが、今日はその必要もない。
「こんなに広かったっけ…… 」
部屋の中を見渡して、なんとなく違和感を覚える。 朝に出て行ったままの室内なんだけど、優斗君がいないと思うととても広く感じた。
「別にもう帰ってこないわけじゃないし、たった二週間くらいだもの 」
とりあえずバッグを置いてベランダに出てみる。 よく優斗君がここに立って外を眺めていたけど、特に目新しいものは見当たらない。 毎日彼は、ここから何を見ていたんだろう……
「まぁしばらくは気兼ねなく歩き回れるし、お風呂覗かれないし、下着干す場所考えなくていいし! 」
シーンと静まり返った部屋でワザと声に出す。 声に出す意味は全くないが、そうしてないと落ち着かなかった。
「…… 掃除でもしようかな 」
優斗君がウチに来てからロクに掃除もしてない。 テレビの上を指でなぞると、うっすらと埃が積もっていた。 ハンディ掃除機を持ってきてあちこち掃除をし、お腹がすいて一階のコンビニにお弁当を買いに行く。 特に見る番組もないテレビの電源を入れて、お弁当を食べながら流し見る。
「………… 」
テレビの音が気になって電源を切った。 お弁当もいつもより美味しくない。
(一人ってこんなに寂しかったっけ…… )
「6年って長すぎるよ…… 」
優斗君が過ごしたひとりぼっちの6年間。 ある程度経てば慣れるんだろうけど、今は考えるだけで切なくなる。
「ダメダメ! 寝ちゃおう! 」
私は食べかけのお弁当に蓋をし、冷蔵庫に残っていた発泡酒を一気にお腹に流し込んでベッドに潜り込んだ。
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