其の十二
どこに行ったのか分からないけど、朝から優斗君の姿が見えない。 まさかボールペンを持つのに力を使い果たして、消えてしまったんじゃ…… と心配になって、縁側で他の幽霊さんと話していたおばあちゃんに聞いてみる。
「お? もしかして美月ちゃんかい? 綺麗になったねぇ! 」
ボヤっと半透明の塊しか見えないけど、多分近所の田村おじいちゃんだ。 まだ成仏してなかったんだ……
「おはようおじいちゃん。 ねぇおばあちゃん、優斗君の姿が見えないんだけど…… 」
「あぁ、あの子なら近所を散歩してくるって出ていったよ。 お前を起こさないよう言ってたかの 」
(まったく…… そんな気遣いいらないのに )
「んんん? 美月ちゃんの彼氏か? こりゃ大変だ! 」
「違うわよおじいちゃん! 」
どいつもこいつも彼氏彼氏って、私が男連れてるだけでなんなのよ! しかも彼幽霊だし。
「そっか、ありがとうおばあちゃん。 おじいちゃんもまたね 」
私は二人に手を振って居間に戻り、ダイニングテーブルの上にショルダーバッグの中身を広げた。 優斗君が戻るまで、私は私の出来ることをしよう…… そう心に決めて持ってきたタブレットの電源を入れた。
手がかりは彼の通ってた星藍高校。 とはいえ、この高校に通っていた私の友達はいない…… でも、友達の友達なら誰かいるかもしれない。
ー 星蘭高校に通ってた知り合いいませんか? ー
数少ない友達に片っ端からLINEを送ってみる。 すぐに返信もあったが、『知らない』という回答ばかりであまり期待は出来なさそう。
― なに? 彼氏? ―
そんな書き込みもあったが、全力否定で返してやった。
星藍高校に卒業生のフリをして、卒業生名簿を見せてもらえないかと電話をかけてもみたが、結果は惨敗。 同窓会をやりたいからと言ってみたが、『個人情報は教えられない』の一点張りだった。
「どうしようかな…… 」
優斗君のお母さんや妹なら、橘さんを知ってるだろうか。 いや、優斗君はあの家に住む前に離婚してると言っていたから可能性は薄い。 とりあえず、まだ既読になっていない友達の返信を待ってみるか。
(橘さんってどんな人なんだろう…… )
優斗君が命懸けで守りたかった人。 きっと凄い可愛くて、優しくて…… なんか橘さんがどんな人なのか興味が沸いてきた。
「何か悩み事ですか? 」
「んひゃあ! 」
びっくり…… 私も驚いたが、彼は跳び跳ねてびっくりしていた。 気付かないうちに私の横に立っていたのだ。
「お…… お帰りなさい。 散歩どうだった? 」
「のどかでいいところですね。 裏の林の幽霊さん達と少しお話をしてきましたが、みんな穏やかな顔してました 」
「きっとおばあちゃんがいるからだと思うよ。 元々この地を鎮める為に、ひいおじいちゃんがここに家を建てたみたいだからね 」
「偉大ですね、春子さん 」
「それが嫌で家を出たんだけどね。 まあその話は置いといて…… 」
『ハイ』と答えた優斗君は私の隣の椅子に腰を下ろす。
「橘さんとは付き合ってどのくらいなの? 」
目を丸くしてびっくりした彼は、クスッと笑って首を横に振る。
「あれ? だって彼女って…… 」
「お付き合いはしてませんよ。 僕が一方的に好きだっただけです 」
「…… そうなの? 」
としか言えなかった。 てっきり彼女と付き合ってるものだと思ってたから、そんな答えは予想してなかった。
「彼女からは正直、あまり好かれてはいなかったと思います。 たまたま一緒に学校から帰る機会があっただけなんです。 その時に通り魔に襲われて…… 」
返す言葉が見つからない。
「ち、ちょっと待って! 」
じゃあ嫌われてるかもしれない女の子を庇って自分が死んじゃったってことなの?
「ハハ…… カッコ悪いですよね。 友達がせっかく彼女と近づけるチャンスを作ってくれたのに、そんな時に彼女の目の前で殺されるなんて 」
「か…… カッコ悪いも何もないでしょ? 君はその通り魔から彼女を守ったんだから! 」
「守れたのかどうかも僕には分からないんです。 そこから記憶がプッツリとありませんから 」
ちょっとイライラしてきた。 優斗君、きっと自分に自信が持てないんだ。
「大丈夫! きっと君は橘さんの命を救ってる! 私が絶対見つけてあげる! 」
「美月さん…… 」
「君が橘さんからどう思われてたのかは私には分からない。 けど、友達がわざわざ一緒に帰る機会を作ってくれたのは良い方に取るべきよ。 通り魔は偶然! きっと橘さんは君に感謝してる! 」
黙って私を見つめる優斗君はとても穏やかな笑顔をしていた。
トクン……
また胸の奥で鼓動が跳ねる。 私、この笑顔を見ていたい…… この笑顔を守りたい。
「優斗君、その友達の事教えて。 その友達なら橘さんの行き先知ってるかもしれない 」
「…… ありがとうございます 」
優斗君は私の向かいに座り、メモ帳をゆっくりと手繰り寄せてボールペンを持つ。 凄い…… もうマスターしてる。
「頑張って…… 」
プルプル震えながら真剣にボールペンを動かす彼を、私は緊張しながら真っ正面から見つめていた。
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