魔王先生
タヌキング
生徒の説得
私は田辺 知得留(たなべ ちえる)。高校に馴染めずに不登校になってしまった哀れな女子高生である。不登校になって3ヶ月、もう学校に行こうなんて気はサラサラ無い。
暗い部屋でゲームでもして過ごしてゆこう。何も考えずに、日々を不毛に過ごしてゆこう。
そう決意を新たにした私だったが、部屋の扉の外から母さんがこんなことを言ってきた。
「知得留ちゃん、先生が会いに来てくれたんだけど・・・。」
先生?担任の三浦先生かな?何回か家を訪ねてきたことはあったんだけど、最近は全く来てなかったのに、一体どういう風の吹き回しだろう?
「会いたくない・・・帰ってもらって」
「わ、分かったわ。知得留ちゃん。」
こんなことを私が言うのは何だけど、私の両親は私に甘い。私が学校に行かなくなっても、学校行くことを強要しなかった。そして毎日朝昼晩の三食のご飯を用意してくれるし、必要なものは買って来てくれる。・・・ありがたいとは思うけど、自分が少しずつ腐っていくのも感じている。
と、ここでドタバタと部屋の外が騒がしくなってきた。
「ちょっと先生困ります!!」
「いや、私に任せてください。知得留君入るよ!!」
男の人の声?・・・というか、無理矢理入ってきたの?
"ガチャガチャ"
「知得留君、鍵を開けたまえ。」
ひっ、怖い。絶対開けない。帰るまでこのままやり過ごさないと。
「なるほど、開ける気は無いと。ならばこうだ。」
"カチャリ"
まさかの事態、何故だが鍵が解錠、そして扉が開くと、そこには赤いジャージを着た若い男の先生が立っていた。線が細い優男って感じだけど、一つだけ異常な箇所が。何か頭に牛みたいな角が二本生えてるんだけど、これって作り物だよね?
「初めまして、知得留君。私の名前はノワールです。職業は先生です。」
「帰って下さい。私、コミュ症なんで、そんな頭に角付けたオシャレ上級者みたいな人と喋れるスキル持ってないんです。」
「ほほぅ、この頭の角をオシャレと見たか。君は中々センスあるよ。あっははは!!」
いや、笑ってないで帰れよ。マジで苦手なタイプの人だわ。
「お母さん、娘さんと二人っきりで話させてくれたせんか?」
「は、はい。」
いやお母さん!!私をこんな人と一緒にしないで!!
私の願いは届かずに、部屋の扉はパタンと閉められた。薄暗い部屋で男の人と二人・・・事案である。
「さぁ、立ち話も何だ。座って君の今後について話し合おう。」
ドスンと私の部屋の床に胡座をかいて座るノワールさん。ってか、ノワールも偽名だろ。モロ日本人なんだけど。
「ん?どうした?知得留君も座り給え。」
「あっ、はい、座りまーす。」
何で自分の部屋なのに、私が招かれたみたいになってるんだろう?とりあえず座ろう。
向かい合う私達。人と向かい合うのは久しぶりで、ストレスでゲボ吐きそうだ。
「うっ・・・。」
「おっ、気持ち悪いのか?吐いても大丈夫だぞ。」
「い、いや、ここ自分の部屋なんで、自分の部屋汚したくないです。」
「おっ、そうだったな。すまない、昔のクセでたまに偉そうになってしまうんだ。」
昔のクセ?何をしてたらそんなクセが付くんだろう?
「あの、私の高校の先生なんですよね?」
「そうだよ。この間、教育大学を出たばかりの新任の先生だよ。」
うーん、嘘を言っているようには見えないけど、新任の先生がどうして私の家に?
「そうか、これを言わないといけなかったな。三浦先生が産休で休んでいるから、この度私が君のクラスの担任になったんだ。宜しく。」
「あっ、そういうことですか。なるほどです。」
理由は分かったけど早く帰ってくれないかな?もう話すネタ無いんだけど。
「それで、君はなんで学校に来ないんだ?」
・・・直球のやつ来たな。まぁ、この先生は私が学校に来てないから、わざわざやって来たんだし、聞いてくるのが普通か。
「学校に居場所が無いんです。友達は居ないし、誰も私に話し掛けてくれないし、勉強も付いていけないし、学校に居ると辛いだけなんです。」
イジメとかそういうのは無かったけど、自分が透明になったかの様な虚無感が嫌い。まるで私なんか居なくても世界は一切滞りなく回り続けるんだと、まざまざと見せつけられてる気になって、心底泣きたくなるんだ。
「友達は先生も居なかったな。部下なら10万人ぐらい居たけど。」
「えっ?」
突然の先生のカミングアウトに言葉を失う私。そうしてひとしきり驚いたあと、メラメラと怒りが湧いてきた。私は真面目に話しているのに、こんなしょうもない嘘をついて、おちょくっているとしか思えない。
「先生、からかわないでください。」
「おっと、すまない。そんなつもりは毛頭なかった。ただ友達が居ないのは同じだったと言いたかったんだよ。」
ペコリと頭を下げるノワール先生。さっきまで少し偉そうだったのに、意外と物腰柔らかい。
「でも虚無感も分かるぞ。昔、先生も来るとも分からない人を待っててな。でも全然来なくて、このぐらいの薄暗さのただっ広い部屋で、肘置き付きの玉座に腰掛けて嘆息する日々だった。あれは本当につまらなかったぞ。」
どういう状況それ?玉座ってどこにあるの?
「でも部下の手前、そこで眉間にシワ寄せて待ってないといけないわけよ。代わり映えのない生活って本当に身も心も腐らせるよな。」
あっ、デジャヴ、というか私がさっきまで感じていたのと似ている。そして私は気づいた。学校に居ようが家に居ようが、自分が腐って行っていたことに・・・。
「でも俺は気づいたんだ。」
やめて、私も気づいちゃったけど考えないようにしてるのに。
「結局のところさ、自分が変わらなきゃ環境だって変わらないんだって。」
・・・サラッと言われた。胸に突き刺さる一言だ。ぐぅの音も出そうにない。
「だからさ、知得留君もこんな所に引き籠もってないで、少し頑張って自分変えてみないか?先生も全力でサポートするから。具体的に言うと寒い日は紅蓮の炎で温めてやるし、熱い日は極寒の吹雪で冷ましてやるよ。」
「ぷっ、何それ?」
思わず吹き出してしまった。こんな真面目にアホみたいなこと言うから、とんだ不意打ちである。
「ん?今は笑うところじゃないぞ。あー、熱い日は風魔法の方が良かったか?吹き荒ぶ風的な。」
「ぷっ、止めてください・・・ぷくく♪ツボ入っちゃった。」
ノワール先生は首をかしげてばかりだけど、その態度すら可笑しく感じられた。
「まぁ、とにかく。世界の半分とかはやれないけど、先生も第二形態になるぐらいは全力尽くすつもりだから、学校に来てくれないか?」
またまた冗談を交えたノワール先生の説得に、私は少し考えてから口を開いた。
「きゅ、急には無理そうで、時間は掛かるかもしれませんが・・・頑張ってみます。」
こんなプラス思考はいつぶりだろう?この天然ボケ(?)な先生に、私はいつの間にか懐柔されてしまっていた。本当に魔法でも使われたかな?
「おぉー♪そうか♪先生嬉しいぞ♪」
本当に嬉しそうにニッコリ笑うノワール先生。そんな顔されるとなんかコッチが照れてしまう。
「なんかご褒美あげよう♪何がいい?世界の半分とはいかなくても1/4ぐらいならあげようか?」
ご褒美か・・・ならずっと気になってるアレに触らせて貰おうかな?
「ノワール先生の頭に付けてる角に触らせてください。」
「えっ、そんなのでいいのか?なら、存分に触ってくれたまえ。」
快く私に頭を差し出すノワール先生。では遠慮なく。
ギュッと角を握ると意外と固くて、オマケに力を入れても微動だにしない。これどうやって頭に付けてるんだろう?
「先生、これってどうやって頭に付けてるんですか?」
「付けてるんじゃない、生えてるんだよ。だって俺、元魔王だし。」
魔王先生 タヌキング @kibamusi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます