憧れの彼女と――

 Side 黒月 淳


 =イージス施設内・人気のない廊下=


「ただの高校生でゲームをしていたらこの世界にね……」


「嘘みたいな話ですが本当なんです」


「嘘をつくにしても、もっとマシなのなかった?」


「ははは……」


 乾いた笑い声を出す淳。

 正直嫌われる覚悟で話したが思った通りの反応だった。

 分かってはいたがちょっとショックを受けた淳だった。

 

 一方で明奈は淳の話した会話を頭の中で整理していた。

 監視カメラの向こう側でも会話は録音されていて、それを基に捜査の手が入るだろうが――明奈は何故だか本当のように感じられた。


 確かに内容は信じがたい。

 だが嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつくだろう。

 それに話の統合性はある程度取れているから余計にだ。


 だが真実だと言う確証もない。

 一先ず、その話題は置いといて他の話題を振る事にしたが――


「あの、その――私の事どうして好きなの?」


「え、ああ、その――」


(何聞いてのよ私!? もっと違う話題でもよかったでしょ!?)


 これだ。

 如月 明奈。

 黒月 淳と同じぐらいの年頃の少女だが、同世代の少女が何をどう言う会話をするのか分からず、勢い任せにこんな事を聞いていた。


「その、綺麗で憧れで――自分の理想的な女の人だったから――とかじゃダメですか?」


「ま、ま、まるで私、アイドルか何かみたいね――」


 などと返ってきた。

 明奈は突き放すようにいったつもりだ。

 正直言うと悪い気分はしなかった。

 顔を赤くしながら明奈は――


(私のファンなのよね? 私って人気あるのかしら? いや、まあ人気がどうとか気にしないけど……ちょっと気になるわね)


 などと考えていた。

 一方で淳はと言うと―― 


(一番の推しキャラと会話出来てる。本当に夢みたいだ……)


 などと考えていた。


「私のこと、怖くないの?」


「え? どうして?」


「どうしてって……私サイボーグなの知ってるわよね?」


「ああ、はい」


「その気になれば普通に人を殺せるし、化け物同然なのよ?」


「でも、如月さんなら大丈夫かなって—―」


「私ならってどう言う理屈よ――まあ、あれだけ強いのなら怖くないのかもしれないけど」

 

 黒月 淳の圧倒的な戦闘力を思い出しながら言う。

 あっと言う間に怪人を撃破し、各地の悪の組織の基地を襲撃して回り、エクスレイドと手加減しながらほぼ無傷で戦いを終わらせる戦闘能力。


 強者だからこその余裕。


 如月 明奈は自分を怖くない理由をそう思った。


「……気持ちは嬉しいけど、私を好きになるのはやめときなさい。もっと相応しい女がいる筈よ」


「え? どうしてですか?」


「私、そんな綺麗な女じゃないから――」


 そう言って逃げるように立ち去る如月 明奈。



 Side 如月 明奈


 =イージス施設・屋上=


 どうしてあんな事言ってしまったんだろうと思う。

 恋愛に興味がないワケじゃない。

 だけど自分には恋愛は相応しくないし、黒月 淳にはもっといい相手が見つかる。

 それに自分の過去を知ればどんな男も幻滅する。


 そうなるぐらいいっそ、仲良くならない方がいい。

 そう思ったからだ。


「で? どうしてアナタも付いてくるわけ?」


「ついてくるって――そりゃ監視されてる身ですから」

 

「律儀な男なのね」


「は、はあ?」


「アナタの監視役は他の人間に任せるわ」


「え?」


「えって……」


 そんな意外そうな顔をされてもと明奈は困る。


「なんか自分悪い事しました? 気持ち悪かったですか?」


「さっきも言ったでしょ。私は怖いの――恋愛とかそう言うの――」


「改造人間だからですか?」


「うんうん――私は――と言うか正義の女のヒーローって、人には言えない過去があるの」


「人には言えない過去――」


「そうよ。処女じゃないの。むりやり奪われたの。だから――」


「あの、その、正直どう言えば良いのか分かんないですけど、自分その事も知ってました」


「え?」


 突然その場に土下座する淳に困惑する明奈。


「過去の事も知ってます。もちろん斎条 エリカさんの過去とかも知ってます。と言うか基礎知識として知ってます」


「えと、その、よく分かんないけど、とにかくそれを分ったうえで好きとか憧れてるとか言ってるワケ?」


「はい」


 明奈の顔が真っ赤になる。

 思考がグラグラした。

 

(男の人ってこうなの?)


 明奈には分からなかった。

 淳は土下座している。

 

「立ちなさい」


 明奈は言った。

 淳はゆっうりと立つ。

 そして明奈は平手打ちをした。


「これで許したワケじゃないから。よく分かんないけど私の過去を知ってるって事ででいいのよね?」


「はい」


「言いふらしたらどうなるか分かるわね?」


「分かってます」


「――何か調子狂うわね。引っぱたいた私が悪いみたいじゃない」


「それは仕方ないかと」


「そ、そう――ともかく、引き続き監視は続行するから。いいわね」


「はい」


「お近づきになれてラッキーだとか思ったら間違いなんだからね? いい? あくまで私とは監視と監視されてる側? よーく肝に命じなさい」


「分かりました」


(本当に分かってんのかしら?)


 などと思いながら司令にどう報告するか悩んだ。

 同時にただ知っていると言うだけで悪い人ではないのかも――などと思ったりもした。

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