勧誘

 Side 黒月 淳


【イージス・尋問室】


 この世界の変身ヒロイン達は基本イージスと呼ばれる組織に所属している。

 まあ中には斎条 エリカのような例外もいるが。

 そこで如月 明菜直々に取り調べを受けていた。 


「……」


「あの? どうしたんですか?」


 眼前にいる如月 明菜は顔を真っ赤にして此方から目を背けていた。


「いや、私達と同い年ぐらいで――その、戦うヒーロー? と言うのも珍しいから」 


(まあそう言う世界観だもんな)


 男のヒーローはいるらしいが、この世界では大体が端役である。

 淳みたいなのが異常なのだ。


「助けて貰った礼を述べたいけど色々と不審な点が多いし、アレだけの力を持っている存在を、はいそうですかと開放するワケにはいかないのよ。ここまではいい?」


「まあ常識的な判断でしょうね」


「で、司令は私達の監視下に居てくれるなら色々と便宜を図ってくれるって言ってるわ」


「ああ、そうなんですか――じゃあその話乗ります」

 

 正直言うと淳はネカフェ生活にも疲れていたのでこの提案を乗る事にした。


「素直なのね――」


「あ、そうだ。斎条さんは?」


「彼女は暫く拘束になるかしら。幾ら理由が理由とは言え、周辺に被害を与えてきたワケだから」


「あ~なら、彼女と定期的に面談セッティングできませんか?」


「え? か、彼女のこと気になるの?」


「このままだと後味悪いと言うか」


「そ、そう――」


「どうかした?」


「いえ、優しいのねって思っただけ」


「そうかな?」


「あれだけの事されたら普通は――」


「まあスーツの性能とかもありましたしね。それがあったからカッコつけただけですよ」


「そ、そう――」


 淳は嘘偽りなく答える。

 明菜はホッとしたような、そうでもないような、複雑そうな表情を浮かべた。



 黒月 淳と斎条 エリカは同じ部屋で対面する。

 エリカは病人が着るような衣装を着ていて、椅子に縛り付けられるように厳重に拘束されていた。

 淳は「暴れたんだろうな~」などと苦笑した。


 傍には念のため明菜がいる。


「で? 何の用だ? 私を勧誘するのなら~」


「そのまさかだよ? 一緒に協力して兄の仇を――ディスダガーを討たない?」


 ディスダガーと言うのは斎条 エリカの兄の命を奪った組織の名前だ。

 

「断る。一人でやる」


「だけど現状、ある程度条件を呑まないと復讐どころじゃなくなるよ?」


「黒月君の言う通りよ。ここである程度条件を呑んでもらわないと戦闘許可どころか、この施設から出せないわ」


 ここで明菜が補足するように言う。


「それに君の協力者の博士も前向きな返事を貰ってるし」


「なっ?」


 斎条 エリカには協力者がいる。

 君嶋 リツコ博士。

 元ディスダガーの科学者だが裏切って斎条 エリカに協力している。

 

「博士も目的は復讐みたいだけど、このイージスとコネを作って協力者を募ると言う選択肢もあると思うし――それに君、どう言い繕っても問題児だしこのままだと博士に見捨てられちゃうよ?」


「……あのスーツは」


「あのスーツはなに? 言っとくけどイージスにはディスダガーと戦える戦士は沢山いるんだし、それに君が使うスーツに拘らなくてもいいんだよ?」


 事実を淡々と突きつける淳。

 淳としてもこうしたくはなかったが強情な彼女を説得するにはこうするしか方法が思い浮かばなかった。


「私をどうあっても協力させたいみたいだな」


「うん。これは自己満足だから」


「そうやって私の体に目でも眩んだか?」


「ちょっとそんな言い方はないでしょ!?」


 と、明菜が言うがエリカは「どうだか……」とソッポを向く。


「だけど条件を呑んだとしても2、3日で解放ってワケにもいかないだろうし――僕が組織の信頼を得て監視付きでも行動できるようにするから待ってて」


「どうしてそこまでする?」


「自己満足」


 僕はそう言った。

 


【イージス・尋問室前の廊下】

 

 黒月 淳と如月 明菜の二人は部屋の外に出て向かい合う。

 

「あの子の事、そんなに気になるの?」


「うーんどうしてだろ? まあ本当にこのまま見捨てるのも気分が悪いからって言うのもあるんだけどね」


 と、アゴに人差し指を当てて考え込むように言う淳。


「変な人ね」


「それで実際問題、彼女を開放するにはどうすればいい?」


「難しいわね。今迄の行動が行動だったから。司令に掛け合っても難しいと思うわ――それに一つ言うけど君も監視対象だからね。私がいないと自由に行動できないから」


「そう」


「その、私みたいな女の子でも嬉しいの? 君は?」


「え? それは――その――」


 顔を真っ赤にしてどう言うべきか悩む淳。

 本当はとても嬉しいのだがそれを正直に伝えるのが恥ずかしかった。


「いや、忘れて――」

 

 と言う明菜。

 彼女も顔を赤らめている。


「ともかく彼女(斎条 エリカ)の協力者の君嶋 リツコ博士に会ってみましょう。それで何か突破口が開けるかもしれない」


「うん」

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