お気に入りの空
山野エル
お気に入りの空
小さな青緑の
向こうでいつものように並ぶ六つの目が
「席つけ〜!」
慌てたように駆ける足音と椅子の脚が床を掻く耳障りの悪い喚き声。
教壇の上でこちらを見渡すその視線が、僕の手元で無惨に濡れそぼつ『百年の孤独』の文庫本に止まる。そしてすぐに興味のないウィンドウショッピングみたいな冷めた目で晴れた空を映す窓に逃げ場を求める。
「授業始めるぞ〜」
もううんざりだった。
こそこそと笑う声も、僕をこの息苦しい箱に押し込めようとする言葉も。
この世界に味方など誰もいないのだ。
僕には力がある。
全てを滅することができる。
どこかから現れた高次元の囁きが、僕を解放するために授けてくれた。
立ち上がる。
黒板の前の背中に手をかざすと、上半身が弾け飛んだ。教壇の目の前の席で悲鳴が上がる。騒ぎ出す声を全て
静寂だ。
深い緑色の黒板と、真っ赤な床、青い空。
相変わらず、僕を閉じ込める檻はここにある。それが許せなくて、両手を広げた。
天井も壁も粉々に吹き飛んで、視界が開けた。あちこちから騒がしい声がする。僕を縛るものがまだここにある。
力を込めると、見回す限りの諸々が音を立てて引き裂かれて
僕を縛っていた場所を見下ろす。今は形もない。
僕を救いもしなかった街が広がっている。
意識の届く限りを焼き尽くす。炭化した大地をひと息で荒野に変えた。
僕を生んだこの大地の上を、僕を嘲笑うように風が吹き抜けていく。その尻尾を掴んで大地を消し飛ばした。
暗い闇の向こう、無数の星の光が瞬く。僕を存在させた宇宙だ。星々に手を伸ばす。全て風船のように膨れ上がって、檻の中で血飛沫を上げた奴らのように弾けて消えた。
本当の闇がやってきた。
僕を内包する有。それすらも、もうここには必要がない。闇を集めて滅する。
無が広がる。
無こそが僕を生み出した元凶だ。引き裂いて、粉々に吹き飛ばす。
ここには、何もない。
何もないということすらない。
何もないということを言うことも、言わぬことすらもない。
全ての根源のさらに奥底に、僕がいるのが
心があるべきところにあるのを感じる。
これが
こここそが待ち望んでいた境地。
お気に入りの
「山野、これ答え分かるか?」
教師が黒板を指差していた。僕はそこに書かれた数式を目で追った。
「
お気に入りの空 山野エル @shunt13
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