第3話

「春樹くん、ありがとう……」

千尋は時間が経つと冷静さを取り戻した。

「でもやっぱり、私どうしよう……」

「俺も星2だから。2人で頑張ろう」

「でもここでの記憶は忘れちゃうんでしょ……私、春樹くんのこと忘れちゃうのかな……」

「神様も言ってただろ。稀にここでの記憶を持ったまま生まれる者もいるって。俺たちなら大丈夫だよ」

「そうかな」


すると神様が再び現れた。

「では、全員がガチャを引き終わったと言うことで、あちらへ移動してください」

神様はみんなの後ろを指さした。あちら、というのは床に二重円が描かれた場所のことだ。

「ガチャを引いた順番でまた並んでいただきます。そしてあの円の中心に立ってもらい、私が5秒のカウントダウンをします。そのあと、あなたたちは生まれることになります」

神様の話を聞いて実際にもう生まれるのか、ということを実感した。

「では、1人ずつ円の中心に来てください」

神様の話が終わると、1人ずつ円の中心に立ち、どんどんと俺たちの前から消えていった。


「不安も大きいし緊張もすごいね」

「もう生まれるんだもんな。みんなもかなり緊張してる気がする」

辺りを見回すとみんなかなり顔がこわばっているのがわかる。

でも、円の中心に立っている人たちにはある共通点があった。



やがて俺の番が回ってきた。

「千尋。絶対に生まれたあとまた会おうな」

「うん……。私、春樹くんがいないの不安だよ……」

俺はまたもう一度、千尋にハグをした。今度は千尋のため、というよりは俺自身のため。

「大好きだよ」

「……っ!?」

千尋はかなり驚いたようだった。でも俺は必ず伝えておきたいと思っていた。

「俺は千尋がいてくれてよかった」

「私の方こそ、春樹くんがいてくれなかったら……」

「じゃあ行ってくるよ」

「うん……」


俺は円の方向に歩き始めた。

円に足を踏み入れたところで千尋の大きな声が聞こえた。

「春樹くんならどんなことがあっても大丈夫!強い男の子だって私が1番知ってるよ!春樹くんが初めて私に声をかけてくれた日、すごくうれしかった。みんなと違うところにいる私に春樹くんが声をかけてくれたのが本当にうれしかった。あの時、初めて声かけられたんだ!しかも私なんかを幸せにするって言ってくれて。私、春樹くんに恩返しをしたい!だから絶対に春樹くんのお嫁さんになる!」

そう言うと千尋は俺のもとに走ってきてそのまま唇と唇が合わさった。まるで映画のワンシーンのようなキス。驚くほどの柔らかい唇の感触。


千尋は一歩下がり、照れながらささやくような声で言った。


「大好きだよ」


俺は恥ずかしいよ、と顔を真っ赤になった。

そして千尋がいる方に背中を向けて円の中心にまた歩き出した。千尋の力強い言葉に俺は一粒の涙を頬に流した。


「では、円の中心に立ってください」

俺は神様の言われた通りに動いた。

「では、始めます」

あぁ、これが最後か。

「……5……4……」

次に見るのは自分の親……。千尋は俺がいなくても大丈夫だろうか。

「……3……2……」

俺は泣き出しそうな目を強く閉じた。

「……1……」

千尋、絶対にまた会おう。また会えるその日まで、俺は千尋のことを絶対に忘れない。

俺は前にいる千尋に向かって微笑んだ。

「……0」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運命 橘 祐希 @yukitachi123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ