第2話

ある日、僕はみんなとは離れた場所で座っている女の子を見つけた。

俺は女の子の横に座り、声をかけた。

「みんなみたいにワイワイするの苦手?」


……


女の子は俺の方も見ず、喋ろうとしなかった。

困った俺はとりあえず王道の質問をすることにした。

「名前は?」

「・・・ぃろ」

「えーっと・・・」

「千尋」

「千尋か、よろしく。俺は春樹」

「春樹くん・・・。私なんか、ほっといて」

「いや、俺も1人だし。横にいるくらいいいだろ」

「私は多分だめな子として生まれるんだと思う。私みたいな女の子よりほかの女の子の方がいいよ……」

千尋という女の子は、相当ネガティブなタイプだった。

それでも何となく自分と重なる部分が多いと感じた。

「私なんかはどうせみんなみたいに楽しむこともできない……」

「その気持ちわかるよ。俺も毎日同じことの繰り返しだからな。楽しそうにしているみんなが羨ましい」

俺たちは2人でワイワイお喋りをしている男の子たちを見た。

「もうすぐ神様の言っていたガチャって言うのがあるらしいからそれまでに楽しいと思えること探そうよ」

「・・・うん」


その後、2人で話しているうちに少しずつ打ち解けて仲良くなれた。

ちひろの不安を抱える顔はほとんど変わることがなかった。

「俺は千尋を幸せにする」

「え・・・。急にどうしたの。私は幸せになんかなれないよ」

「大丈夫。俺が幸せにするんだ」

「わ、私も春樹くんを幸せにする」

「約束だよ。生まれた後も」

「ありがとう」

「何があっても俺が幸せにする」

「それじゃあ、2人とも幸せになれるね」

千尋は小さく微笑んだ。

俺はその顔を今でも鮮明に覚えている。






千尋は覚悟を決めた表情でガチャを手で回し、カプセルから紙を取り出した。

でも、千尋は紙を眺めたまま動こうとしなかった。


俺が千尋の元に歩いて行こうとしたとき、

「……う、そ……」

千尋の小さな声が聞こえた。

そして千尋は手から紙を落として膝から崩れ落ち、放心状態となってしまった。

俺は千尋に近づき、励まそうと手を出すと振り払われた。

「私……わ、私……。もうダメかもしれない」

千尋は紙を指差した。俺は紙を拾い上げて、見た。



名前 西澤俊介にしざわ しゅんすけ(33歳)、西澤奈美にしざわ なみ(33歳)、

西澤明日香にしざわ あすか(2歳)

あなたは第2子として生まれます。

名前は西澤千尋にしざわ ちひろ

父はギャンブル依存症により借金を抱えています。そんな中であなたが次女として生まれます。父は借金を抱えたまま自殺してしまい、毎月ギリギリで生きながら借金を返済していきます。そしてあなたが高校生になると母は急病で亡くなり、姉とともに働きながら借金を返済します。

よって、星1です。



そこに書かれていたのは星1の文字。

千尋は星1を引いてしまったのだ。

「私、もう本当に……。……っ……!?」

千尋はもう一度紙を見つめて、響き渡るような大きな声で泣いた。


うっ……うっ……うわぁぁぁぁん!


俺は思わず千尋を抱きしめた。

「千尋……」

周りのみんなは俺たちに哀れな目で見ている。時に「星1でも出ちゃったのかな。かわいそうに」と声に出して言う人もいた。

でも今の俺には関係ない。

俺は約束したのだ。幸せにすると。こんなときこそ俺が千尋を支えてあげなきゃいけない。

「わ、私っ……、もうっ……もう……」

俺はまた強く抱きしめた。

「生まれたらここでのことは忘れちゃうけど俺は千尋に絶対に会いに行く!そして幸せにしてやるからな!約束したじゃないか!2人とも幸せになろうって!」

千尋はさらに大きな声で泣いた。

「で、もっ!っあ、っ……、ぅあ……!」



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