運命

橘 祐希

第1話

「それでは、今から今年の親ガチャを始めます」

無表情で前に立って司会をしているのは神様と呼ばれるこの中間生ちゅうかんせいを仕切っている人物だ。

俺たちはこれからガチャによって親が決まる。

生まれてからの何十年間の人生がもうすぐ決まるのだ。


春樹はるきくん、緊張するね」

彼女の名前は千尋ちひろ。出会ったのは数ヶ月前だが俺にとって妹のような存在だ。

「あぁ、これで決まると思うと手の震えが止まらない」

「私たち、これからどうなっちゃうのかな? 」

「これから神様の話を聞いてみるしかないな。いろんな噂が流れすぎてもう何もわからない」

千尋が心配するのも無理はない。俺もかなり不安だ。今までほとんど情報を与えられなかったため皆が各々推測だけで話をしている。だから本当にありそうなことから絶対にないだろということまで噂として広がってしまっている。


「これから1人ずつガチャを引いてもらい、出てきたカプセルの中に入っている紙を見てください。そこには家族の名前、年齢、あなたの出生順位、簡単なこれからの流れ、評価が書かれています。全員引き終わるのを確認した後、あちらにある円の中心に立ってもらいます。説明は以上です。何か質問がある者はいますか? 」


するとすぐに1人の男の子が手をあげた。


「さっきの話の中の評価ってなんですか? 」

たしかに評価というのは気になる。神様は全員に向かって言った。

「評価というのは、あなたたちそれぞれの新たな人生を星1から星5で表したものです。星5が最高評価、星1が最低評価となります」

神様がそう言うと、男の子は「じゃあ……」と続けた。

「星5を当てればいいのか」

「今、あなたは星5が簡単に当たると思っているが確率で言うと、星5はかなりレアです」

「えぇ〜、それじゃあ全然良くないじゃん」

「そういうことですね。実際、星5を引くのは毎年十数人だけです」



「星5はほとんど出ないってこと? 」

男の子と神様の話を聞いて、千尋は俺に小さな声で問いかけてきた。

「星5だからそんなにいないんじゃない?神様も言ってたようにかなり限られた人数だと思う」

誰もが星5を当てたいと思うだろう。でも実際は星3辺りが多くて星2とかも結構いると思う。


「ほかに質問のある者はいますか?」


すると次は前の方にいる女の子が手をあげた。


「生まれた後って神様に会えますか?あと、ここにいるみんなとも会えますか?」

これは噂の中の一つだ。俺たちはここで出会った千尋たちとこれからも仲良くしたいと思っている。でもこの噂を聞いてからもしかしたら本当はもう会えないんじゃないかという不安が皆にあった。







1週間前。

千尋と散歩している時に聞こえてきた話。


「俺たち絶対に生まれてからも友達でいような!」

「いやいや、生まれた後はお互い知らない同士だと思うよ。だって忘れちゃうって噂を聞いたことあるもん」

「えー、でもそんなわけないじゃん。俺たちこんなに仲良くなれたのに忘れちゃうなんてもったいないよ」

「そうは言ってもなー。でも会えたらいいなー」


俺と千尋は足を止めて目を合わせた。

「春樹くん、あれって本当かな?」

「どうだろう。でも忘れちゃうなんてよくわからない。俺はそんなことはないと思うけど」

「だよね!春樹くんを忘れちゃうのも忘れられちゃうのもいやだ・・・」

千尋にそう言われ、俺は顔が赤くなるのがわかった。

「いや、まぁ、でも噂だし……。ないと思いたい」






神様は女の子の質問に対して少し険しい表情で話し始めた。

「私はここに残ります。あなたたちが今年のガチャを引いて生まれるように、来年生まれる者もいるので。しかし、私からはあなたたちを見ることができるので安心してください。あと、ここでの記憶は生まれた後は無くなります。稀にここでの記憶を持ったまま生まれる者もいますが、そんなことはほぼないことなので無くなると思っていてください」

「え、無くなるんですか?」

「はい」

神様の冷たい一言でみんなは静まり返った。

俺もここでの記憶は持ったままだと思っていた。

噂なんてものは噂でしかない。実際はなんだかんだで何事もいい方向に行くものだと思っていた。なのに、あの噂が本当だったなんて・・・。



俺たちが困っているのを見て神様は話し始めた。

「そして最後に一つ。あなたたちはこれから新たな人生が始まります。ガチャの結果によって良い人生を送る者。不幸な人生を送る者。様々あるとは思います。ここでの記憶は忘れてしまいますが、これだけは胸に刻んで覚えておいてください。何があっても前を向いて笑顔でいてください。笑顔でいるだけで気持ちが楽になります。どんなに辛いことがあっても笑顔でいてください。最初は笑顔になることも辛いかもしれません。しかし、笑顔でいることを心掛けているだけでも効果が絶大です。私から言える言葉はそれだけです。それでは、あなたたちの健闘を祈ります」

俺たちは神様の顔を無言で見つめていた。

それは今まで必要最低限のこと以外はなにも話してこなかったからだ。それなのに神様は俺たちに助言をくれたのだ。

皆、虚をつかれ戸惑っている様子だった。


「では、引きたい者から順に並んでください」

神様はそういうと姿を消した。

俺たちは数秒間だれも動かなかった。

やがて1人、また1人とガチャを回し始めた。

そして次第に辺りはかなり騒がしくなった。


「千尋、俺たちもそろそろ並ぼうか」

「うん」


すると女の子の大きな声が響き渡った。

「うそだ、うそだ、うそだ……。こんな方法で私のこれからが決まるなんて!もう一度やり直しさせてよ!私は星5を引くんだ……」

そう言うと四つん這いになり下を向いてしまった。


「な、なにがあったのかな?」

「星5を……とか言ってたからガチャの結果が悪かったのかな……」


今の女の子を見てから千尋はかなり怖がってしまったようだ。こんな時、どうすればいいんだろう。

なんとかして千尋を安心させてあげたい。


俺は緊張で震える手を必死に抑えて千尋の手を握った。

「こうすれば少しは安心できる?」

「あ、ありがとう、春樹くん……」

「俺も緊張とか不安もあるからこうして千尋がいるだけで安心できる」

「私も。ありがとう……」


その後、みんなの人生が決まっていく瞬間を見ていた。

千尋は自分たちの番が近づくにつれ、繋いでいる手の力が強くなっている。跡が残りそうなほど強く。


そして、俺たちの番まであと1人。

「おぉ!やった!星5だ!俺の人生は最高だ!やっぱりこうなるんだよ俺は!よっしゃー!」


俺の前にいた男の子が幸か不幸か星5を当てたようだ。


「そうだよね……星5が当たればいいんだよね」

「そうだな。星5は毎年十数人いるって言っていたからな……」

「春樹くんは何が出ると思う?」

「俺は、んー、なんだろう。でも星3がいいかな。もちろん星5が当たったらすごい嬉しいけど」


俺は一つ気になったことがある。それは神様が言っていた、『簡単なこれからの流れ』というものだ。

おそらくこれからの人生のことで、それを星で表しているのだろう。

ということは星も大事だがその内容が大切ということだ。


どのような感じで書かれているのか気になった俺は勇気を出して聞いてみることにした。

「あ、あの、星5を当てた人。紙を少し見せてもらえませんか?」

「いいよ。でも見るだけだよ。絶対に」

「それはわかってますよ」



俺は紙を受け取り、千尋と見た。


名前 橋田浩介はしだ こうすけ(26歳)、橋田優花はしだ ゆうこ(23歳)

あなたは第1子として生まれます。

名前は橋田雄太はしだ ゆうた

父はサッカー選手、母は元アナウンサーです。あなたは幼少期からサッカーを始めて、あなたの名前はすぐに広まります。学業にも苦しむことなく卒なくこなすことでしょう。そして高校生になるとプロサッカー選手となりさらに知名度が上がります。

よって、星5です。



「こんな感じなんだね」

「思っていたより具体的なんだな」

「いいだろ!俺の人生はもう勝ち組だ!」

「私も星5がいいな……。すごいいい人生」

「羨ましいだろ。数少ない星5を当てたんだ!」

「いいな、俺も頑張って当てるよ」



俺たちは紙を返し、ようやくガチャの前にたった。


「どっちから先に引く?」

「私まだ心の準備が……」

「じゃあ……俺から引く」



俺は緊張のせいで腕の震えが止まらなかった。

精一杯震えを抑えてガチャに手を伸ばし、回した。すると大きなカプセルが出てきた。

俺はカプセルを開けて紙を開いた。


名前 大村健志おおむら けんし(30歳)、大村千里おおむら ちさと(29歳)

あなたは第1子として生まれます。

名前は大村春樹おおむら はるき

両親ともに教師であり、スパルタ教育を受けることになります。そのためあなたは友達はほとんどできません。あなたが子供の期間は常に勉強をし続けることになります。学生時代は成績が優秀でなんとか上手くいきますが、それ以降はコミュニケーション能力で悩むことになるでしょう。

よって、星2です。


黙って紙を見ている俺に千尋は声をかけてきた。

「春樹くんどうだった?」

俺は紙を見せた。

「星2だ。しかもスパルタ教育だってさ。結構つらい人生になりそうだ」

「そっか……。でも成績優秀って春樹くんっぽいね」

俺はよくわからず困惑してしまった。

「でも、春樹くんならどんな状況でも大丈夫、だと思う」

「そうかな?」

「うん。」

そういうと千尋の表情はどんどん曇っていった。

「もう私か……。私どうなるんだろう」

「これからのことはみんな不安だから一緒に頑張ろう」

「ありがとう……。」

そういうと千尋は前に歩き出した。

ふぅー、と大きく深呼吸をした。



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