取り上げられた揚げ鶏
ろくろわ
220円になります
雪がちらつく某日。
既に財布の中には茶色や穴の空いた硬貨しかなく、お札は先ほど10枚の硬貨へと変わった。
最後の100円を投入し、祈る気持ちでクレーンを動かすが、無情にもお目当てのぬいぐるみの顔を撫でるだけであった。
既に、3000円がぬいぐるみの肩に乗っている。
追加のお金がいる。
近くのATMは、ここから少し離れた7と11のお店だ。
私は焦る気持ちを落ち着かせながら、コンビニへと急いだ。ちらつく雪に足をとられないように、やや小刻みに動かす足は蒸気機関車の車輪のように一定のリズムを保っている。
機関車走行をしたお陰か、足をとられること無くコンビニに着くことが出来た。
生憎、タッチの差で女子高生がATMの使用権利を先に得たが、大丈夫。これからの事を頭の中でシュミレーションしておく。
簡単なことだ。
まずはお金をおろす。おろす金額は余裕を持って1万円にしよう。
次に再び、戦地に帰る。
よし完璧だ。
おっと、女子高生がお金をおろせたようだ。
次は私の番。
暗証番号と金額を最短のスピードで打ち込み、1万円を握った所でふと気づいた。
両替機に1万円が使えなかったら、100円が手に入らない。よし、ちょっと小腹もすいたし崩しておくか。
私は、おろした1万円を財布にしまう事もせず握りしめ、レジへと向かう。
既に店員さんとは目があっている。
「すみません。揚げ鶏をお願いします」
既に買うものを決めている私は実に無駄がない。
目があっている店員さんも中々に出来る人だ。
素早くレジを打ち込み、お会計を出してくれる。
「揚げ鶏1つで220円になります」
私はセルフレジに茶色の硬貨2枚と握りしめた1万円を素早く投入する。
余りの無駄の無い動きに、先程から店員さんも私を見ていてくれる気がする。
と言うか、見ている。
薄々おかしいなぁとは気が付いていたが、店員さんとずっと目があっている。
既に見つめ合う視線のレーザービームで、私は穴が空きそうなのだが。
お会計を終えた私は店員さんの動きを待った。
店員さんは、不思議そうな顔をしているがあえて伝えよう。
揚げ鶏を、取りに行ってはくれまいか。
何故、セルフレジでお会計をする姿を見守り、お釣りを取って立ち尽くす私を見ているのだ。
私はセルフレジにセルフでお金をいれ、セルフでお釣りを受けとる姿を見せに来たのではないのだが。
私はまだ、揚げ鶏をもらっていない。
私の視線のレーザービームを店員さんからそっと揚げ鶏へ向ける。
店員さんは、ようやく気がつきテキパキ動くと元気な声をあげた。
「お待たせしました。揚げ鶏です」
コンビニの店員さんは、中々に面白い。
取り上げられた揚げ鶏 ろくろわ @sakiyomiroku
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