第二話 変わらない彼女

 結局その日は耐え忍ぶしかなかった。案の定、給食や昼休みの時間になると光砂のことを訊かれたりした。

 それよりも光輝にとって耐えがたかったのは、何となくクラスメートのみんなが自分を馬鹿にしているかのような視線を送っているような気がしたことだった。

 あくまでも光輝の一方的な思い込みだったが、とにかく時間が経つにつれて光輝の心は荒んでいった。

 帰りのホームルームが終わると光輝は真っ先に家に帰りたかった。幸い英莉香は部活だったので独りで帰れそうだった。


(こんな日はゲーセンにでも行ってさっさと忘れよう)


 光輝は一旦家に帰ると普段とは違う方の地下のゲームセンターに行った――こんな気分の時はスカッとするゲームが一番いい。

 家でゲーム機を没収されてからはゲームセンターが光輝の心の拠り所の一つとなっていた。

 ガンシューティングの筐体の前に立つと早速百円玉を投入した。ゲームを開始してひたすらに敵を撃ちまくる――今日は一クレじゃない。クリアするまでやってやる。

 一心不乱に架空の敵に対して撃ち続ける。やられてもすぐに百円玉の追加投入を続ける。

 結構な額を費やしてクリアすると、今度は対戦格闘ゲームの台に移動した。光輝の得意なジャンルでもある。今度は腰を落ち着けて対戦に興じる。

 ゲームに没頭して今朝のことを少し忘れかけたそのころ、対戦相手に負けて席を一旦立ち上がろうとしたら背中を何かでつつかれて光輝は振り返った。


「やっぱりここか。家にいなかったからな」


 制服姿の英莉香が立っていた。


「お前――なんでこんなところに。部活じゃないのか?」

「とっくに終わってる時間だ」


 英莉香は腕時計を見せて言った。もう午後五時半を過ぎていた。


「とにかく――」


 光輝は英莉香を連れて店の外に出た。


「あの場所じゃ目立つだろうが」


 通常、女の子が立ち入らないようなコーナーな上に、制服姿で金髪というのがかなり目立っていた。


「楽しそうだったじゃないか。一軒一軒まわって潰していこうと思っていたからな。まぁここが最後だったが」

「あの店は俺にとってのサンクチュアリだ」

「今度連れてってくれよな」

「くれよな、じゃねえ。一体なんだよ」

「実力テストの結果はどうだった?」


 英莉香の言葉で現実に引き戻された気がした。


「か――関係ないだろ」


 自分でも滑稽と思うくらい気まずそうに視線をそらしながら言った。


「アハハ。やっぱり光砂の言う通りだな」

「なんだって?」


 すると英莉香は両腕を組み、光砂の口ぶりを真似しながらしゃべり始めた。


「光輝? ああ、あいつはせいぜい五科目で百五十点くらいでしょうね。え? 当然よ。だってあいつ、勉強習っていないんだもの。できるわけがないじゃない。大方むしゃくしゃしてまたゲーセンにでも行ってるのよ」


 似ているのか似ていないのかわからないような物まねだったが、光輝はどうして誰にも見せていないのに光砂が自分の点数を知っているのだろうと思った。


「全くイヤな妹だ。そういうお前はどうだったんだ?」

「私? なんだ、そんなに気になるのか私の成績が」


 そんなことを言いながら英莉香はゴソゴソとカバンの中から実力テストの結果の用紙を取り出した。

 見てみるとやっぱり成績は良かったが、思わず光輝はフッと笑ってしまった。


「あ、いま馬鹿にしただろ」

「いや、ホントお前、一年のときと変わらないな」


 英莉香の国語・数学・社会・理科の四科目はみんな良い成績だった。が、英語だけどん底のように悪かった。他四科目が良い点数なので余計に目立っている。


「この見た目で詐欺だよな、まったく」

「う、うるさいな。私はルーマニア出身なんだから英語ができるとは限らないだろ。だったらお前は中国語が話せんのか?」


 英莉香は顔を赤くしながら言った。


「いーや」


 ――やっぱりこいつはずっと前から何も変わっていない。

 光輝は思わず笑うと、なんだか今朝のことはどうでもよくなってきた気がした。


「サンキューな」


 自分より頭一つ分以上に小さい英莉香の頭の上にポン、と手をのせる。


「やっぱり馬鹿にしているな!」

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