第二章 勝負
第一話 吐き気がする自分という存在
勉強について半ば気楽に考えていた光輝だったが、五月に入ると新学期直後に行った模試による実力テストの結果が返ってきて現実を知ることとなった。
(……)
わかっていたが結果は
試験を受けた時はどうせわかるわけがないと開き直っていたが、こうして客観的に結果として現れるとさすがの光輝も凹んだ。
(これが現実逃避をしていた奴が現実を見る、ってやつか)
全ての教科で下から数えた方が早い順位であり、小学校のころは得意だった算数――中学は数学だが、最初の基礎の問題数問しか解けず二十点にも満たなかった。
最近は補習授業や塾にも通って少しずつおくれを取り戻し始めてきているはずだという自信も見事に打ち砕かれた。
それに、ご丁寧に全国だけでなく都道府県別、そして校内を対象にした順位までも載せてあった。
光砂の言う通り、本当に高校にすら行けないかもという悪夢が一瞬光輝の脳裏によぎる。
(……)
ターニャはどうだったんだろうか、と見てみると周辺の友達と結果を見せながらしゃべっている。
多分、良かったんだろうなと思いつつ英莉香が自分と同じ学校に行こうか、と冗談交じりに言ったことを思い出す。
(まさか。俺の志望校に合わせたらどん底どころじゃない。浪人だ)
そんなことを考えていると、光輝に追い打ちをかける出来事があった。
ホームルームが終わると担任の佐倉田が一枚の紙を壁に掲示した。休み時間にみんなが一斉に集まってそれを見ようとする。
光輝は嫌な予感が走って次の授業まで教室を出ていようと思った。
教室を出てトイレに行こうとすると、ふと廊下の掲示コーナーに目をやった。そこにもさっき佐倉田が掲示したものと思われる同じ貼り紙があった。
見なけりゃいいのに思わず見てしまった。学年一位によく知る名前が堂々と載っている。
(アイツ、マジかよ――)
貼り紙を見て、思わずそう心の中で呟いてしまった。光輝は早足でトイレに駆け込むと、個室に閉じこもった。
(何がトップ〝クラス〟だよ。〝ぶっちぎり〟じゃねえか)
校内総合順位一位は光砂だった。ただ、校内総合一位というだけでなく、校内二位の生徒になんと五十点以上もの差をつけての一位だった。全国順位ですら上から数えた方が圧倒的に早い。
(……アイツ、本当に俺と双子なのか? 同じ遺伝子なのに――)
実際のところ光輝と光砂は二卵性双生児なので遺伝子が全く同じわけではないが、今更ながら光砂に対して畏敬の念すら覚えようとしていた。
頭がいいことは知っているが、具体的にここまで良かったとは知らなかった。伸一が言うように、紹蓮女子にだって行けるんじゃないかとも思った。
だが、その抱きかけた畏敬の念はやがて自己に対する嫌悪感となった。
(それでいて部活では水泳部の副部長を務めて毎年学級委員、一年生の音楽祭ではピアノ伴奏でみんなから尊敬されて、慕われて……本当、吐き気がする――俺という存在に)
ついでに(自分ではそう思わないが)彼女はその容姿とスタイルの良さで、中一の時点で男子からはかなり人気があったのを覚えている。
この後教室に戻ればみんなから光砂のことを訊かれるか、自分のことを陰で嘲笑されるかの二択となる。
(いや、二択どころか両方か。マジで吐きそうだ)
このまま個室のトイレにこもっていようかと本気で考えていた。
しかし授業が始まってしまうのでそろそろ出なければ――そんなことを思ってドアを開きかけたところで誰かが入ってきたようだった。思わず光輝は出るのをやめた。
「あーマジやべえな。このままじゃ第一志望無理だわ」
「俺も。それにしても青天目さんはすげえよな。なんであんなに頭いいんだろ?」
「ハンパないよな。頭いいのに性格もいいし結構可愛いしマジでいいよな」
「そいや光輝はどうだったんだろうな。妹があんなにできすぎで恥ずかしくて表歩けないだろ」
「てか何で今更学校に来たんだろうな」
やがて男子生徒たちはそんなことを話しながら出ていった。
(…………)
光輝は出ていったのを確認してからゆっくりと個室から出てきた。
「……」
鏡に映る自分を見たくなかった。思い切り殴ってぶち壊したい気分だった。
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