第二話 受験、そして……

 一月が終わり、二月となった。受験直前なので光輝も家にいる間はずっと勉強していた。

 光砂はトップクラスの紹蓮女子を受験するのでピリピリしているようだったが、併願する英莉香と同じ学校の施設や雰囲気が良いとも話していた。

 ただ、過去に中学受験の勉強をしていたのに結局受験をしなかったのでやっと紹蓮女子を受験ができるじゃないかと言ったら、勝手に人の進路決めつけるようなこと言うなと少し怒られてしまった。


(あいつ――紹蓮女子に行きたくないのかな)


 何となく光輝はそんな風に感じた。

 もちろん仲の良い英莉香と一緒に通えたらさぞかし楽しいだろうとは思っていたが、あくまでも併願は併願だった。紹蓮女子と比べれば偏差値はやや離れているのだ。


(ターニャはきっと……高校に入ってもみんなから好かれるんだろうな。理系か……)


 確かに理系コースのクラスは男子の比率が高いのは知っていた。そうなると必然的に学校内の女子は競争率が高くなる、とまでは言わないが、それに近い形になるんじゃないかと光輝は思った。

 最初はハーフということで珍しがられるだろうが、英莉香のなじみやすい性格がわかるとすぐに仲良くなるだろう。


(俺には縁のない世界だな……けど、高校でリスタートだ――)


 心の中でそう思いながらも矛盾を抱えていた。

 高校からは英莉香がいない。ターニャのいない学校は果たして楽しいのだろうか――


「……」


 何となくスマートフォンを取り出してこの間の大晦日の時の写真を開く。

 英莉香が除夜の鐘を撞く瞬間の他にも何枚か彼女が写っている写真がある。花火大会の時の写真もあった。浴衣姿の彼女は普段と違う印象で可愛かった。

 どれも笑顔で輝いている。見ているこちらまで何か力を与えてくれているような感じがした。そう、まるで周りに光を照らす天使のように――


(…………)


 光輝はそんなことを考えて少し恥ずかしくなった。けれども同時に、俺はいつの間にこんなにもあいつに惹かれていたのだろう――と。



 ◇ ◇ ◇



 受験当日。多くの私立高校の入試開始日となる今日は本命となる学校が多い。光輝はもちろん、光砂も本命の紹蓮女子の受験日だった。


(……ようやくここまで来たんだ)


 光輝は受験校の校門を通り抜けると、他の受験生たちと一緒に受験会場となる校舎内へと向かって行った。


(ターニャも今頃高校に着いたところかな)


 まだ受験の段階なのに、本当に英莉香とは別々の学校になってしまうんだなと思った。家は近所かもしれないが、会う機会は格段に減るだろう。


(もっとも、光砂がターニャと同じ学校になったら多少は会える機会もあるかもしれないけど)


 気が付けばずっとそんなことばかり考えていたので、いつの間にか受験会場の席に着いていた。周りはみんな参考書などを開いている。

 今からできることなんて限られている、と思いつつも光輝も参考書を取り出した。自分の苦手としている箇所の確認である。


(ここの高校はターニャの第一志望の高校とは全然別方向なんだよな。会うこともなさそうだ)


 光砂にもらった演習問題の解説のページを開く。


(あいつ、さすがに今日が徹夜明けってことはないよな?)


 特に重要と思った箇所は蛍光ペンでマークしてある。


(ビリヤードとかたまに誘ってみるかな……いや、でももし……)


 あまりしたくない想像だったが、いずれやってくるであろう英莉香に彼氏ができたとき、どうするか考えた。


(さすがにその時は、また独りで打ちに行くか……しかし、もしあいつに彼氏ができたらどんな風に言うのだろうか……)


 不意にチャイムが鳴った。光輝はハッとして我に返ったが、結局ほとんど頭に入らなかった。



 ◇ ◇ ◇



(あーあ、できたかなあ)


 光輝は初日の入学試験を終えて校門を出た。まだ受験校はあるものの、試験自体はすぐに終わってしまうので、これまで勉強してきた時間を考えるとあっけないものだった。


(ターニャのやつ、もう終わったかな)


 家に帰ると英莉香からメッセージが来た。英語はできたのかだの、ほとんど男子だっただのと色々だった。

 面接では緊張したと書かれていたので、お前でも緊張することもあるんだな、と送ったら怒られた。失礼ながら英莉香が真面目に面接をしている場面を想像すると、何となく光輝はおかしくなってしまった。



 ◇ ◇ ◇



 翌日も光輝は受験で高校に来ていた。昨日は英莉香のことを考えて今一つ集中力に欠けてしまったと思い、今日は試験のことだけを考えようと努めた。

 そのおかげかとりあえず今持てる力を出し切れたかな、と思った。

 そして同時に今日は昨日受験した合格発表の日でもあった。光輝の受験した高校は午前十時に学校のサイトにて合格発表が行われることになっていたのでもうすでに結果は出ている――


(ふう……いざ発表となると緊張するな……)


 受験した高校を出てから緊張した様子でスマートフォンを取り出す。光輝は呼吸を整えたつもりだったが、不合格だった場合も想定していた。

 切り替えて明日の受験に備える、と言えば聞こえはいいが、果たしてそんな上手くはいかないと思った。しかし、今日の第一志望のレベルよりかは下げてあるのでまだ見込みはあるはずだと自分で勇気付けるように心の中で思った。

 そして合格発表のサイトへアクセスする。自分の受験番号は――


(う――)


 心臓が跳ね上がる――光輝は合格していた。


(合格?)


 もう合否の結果を見返した。確かに「合格」と表示されている。


(いいのか? 本当に俺が合格でいいのか?)


 半信半疑になりながら何度も見返していた。


「くっ……!」


 進路が確定してしまった――喜びというより本当に自分が合格していいのだろうか、という感じだった。


(受かっちまった……本当に)


 決して誇れるレベルの学校ではなかったが、光輝はまだ実感のわかないままとりあえず親に連絡しておいた。

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