最終章 青天目兄妹

第一話 楽しくなりそうな予感

 冬期講習、冬休みが終わって今日から三学期が始まった。


「光輝とは久しぶり、光砂とはあけましておめでとう、だな」


 朝、光輝の家の前で英莉香は久しぶりに会った青天目兄妹に言った。


「まぁ俺も実質的にあけましておめでとう、だけどな」


 光輝は約一週間ぶりに英莉香と会えたことが嬉しかった。やはり彼女と一緒にいると楽しい気分になるし、自分でも意識し始めていることはわかっていた。

 ターニャと一緒に学校に行けるのもあと少しだけか――光輝はそんなことを考えながら学校に向かった。


「あーあ、とうとう始まっちまったか。学校」


 教室に入ると、伸一が光輝の席にやってきて言った。


「だな」

「英語はどうよ? 順調か?」

「今は長文問題対策やってるよ。光砂にもらった演習問題も一通り解いてわからないところを補強してるけど、長文はじっくりやらないとできないからな。大変だよ」


 受験する高校も決めたし、後は本番までやるのみだった。ビリヤードやゲームセンターにも、もうだいぶ行っていなかった。



 ◇ ◇ ◇



 始業式が終わるとホームルームでは新学期定番の席替えイベントが発生した。


(ま、色々あったけど、窓側の席って結構良かったな)


 最初は地獄かと思われていたが、恵と和解してからは授業にも集中しやすかった。

 くじ引きは前回と同様、男女別にくじを引く。


(五番……廊下側確定じゃねえか)


 それでも端の席は恵まれている方か。後は伸一や純あたりが近くになればなあと思っていた。

 くじ引きを終えて席を移動することとなった。


「なんだ、光輝と同じ班じゃないか」


 英莉香がやってきて言った。


「そうなのか――ってお前、また一番後ろ?」

「そうみたいだ。私の前は光輝か。よろしくな」


 まさか英莉香が自分のすぐ後ろの席になるとは思ってもなかったので光輝は驚いた。


「今回も障害物が多くて大変そうだな。ちゃんと見えるかな?」


 光輝が少しからかうように言うと英莉香は少しむっとして、


「目はいい方なんだ。それに、斜め後ろからなら黒板だってちゃんと見える」

「なるほど」


 それでも光輝が少し小ばかにしながら言うと英莉香はペンで光輝の背中をつついた。


「光輝が授業中眠らないように常に見張ってやるからな?」


 いたずらっ子のような笑みで英莉香が言う――中学校生活最後の三学期はとても楽しくなりそうだ。



 ◇ ◇ ◇



 光輝は英莉香と席が前後になってからは当然に彼女としゃべる機会が多くなったし、本当に楽しかった。また、休み時間は彼女のところに女子も集まるので、光輝も自然に話ができるようになっていた。

 そんな自分に少し驚きながらも、改めて英莉香がみんなから好かれているのがわかった。

 英莉香の周りには自然と人が集まってくる。人を惹きつける何かを持っている。それは持ち前の明るさとその笑顔――改めてそんな彼女と友達でいられたことは奇蹟なんじゃないかとすら思えた。


(友達――光砂とターニャは親友なんだろうけど、俺はどうだろう?)


 ふと、そんなことを光輝は考え始めた。小学校の時、恐らく英莉香と最初に友達になったのは自分だと思った。

 英莉香が光輝のいる小学校に転入してきたのは小学三年生の時だった。

 外国人のハーフで金髪に琥珀色の瞳、ヨーロッパ風の顔立ちをした英莉香はとても好奇な視線を受けた。それは必ずしも相手を傷付ける物ではなかったが、ただただみんなは珍しがっていた。


(確かあの後たまたまビリヤードの店に連れて行って……)


 不思議と初めて友達となった時の記憶が曖昧になっていた。気が付けば仲良くなっていて、思った以上に日本人っぽい印象を受けたのが面白かったのを覚えていた。

 それで他の友達にも英莉香と遊んでとても楽しいと――


「おい、どうしたんだ? 次実験だぞ。行かないのか?」


 思い出しかけていたところで背中をつつかれていた。気が付いたら英莉香が隣に立っていた。


「ああ、えっと、そうか」


 光輝は少し急いで教科書の準備をして席を立った。


「まったく、世話が焼けるな光輝は」


 思えばこんな男っぽい口調も自分のせいだっけ、と思った。

 英莉香と仲が良くなり始めたころに、彼女をもっと親しみやすくしてみようと自分の口調を真似させるゲームみたいなのをやっていたら、いつの間にかそれが定着してしまった。

 英莉香が元々あか抜けた性格だったのでみんなすっかりこの口調に慣れて違和感はなかったが、見た目は小さなヨーロッパ風少女という感じなので、他人にとっては彼女の話し言葉を聞くとちょっと戸惑うかもしれない、と思った。


(けど、それがターニャらしくてそれはそれでいいか)


 と光輝は思いながら英莉香の後についていった。

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