第五話 英語勝負の結果

 続々と中間テストの答案用紙が返ってきた。光輝が興味あるのは英語だけだ。完全に捨てた理科は当然惨憺たる結果だった。


(これしきのこと、痛くもかゆくもないわ)


 光輝は変な自信を持って心の中で言った。


「光輝、いよいよだな」


 英語の授業の前、英莉香がやってきた。


「そうだな。俺は初めてテスト結果が返ってくるのが楽しみだと感じているよ」


 そして出席番号順に答案用紙が返却される。最初に英莉香が返却された。答案を受け取る彼女の表情を見るが、答案用紙を見つめたまま数秒立ち止まって、ようやく自分の席に戻っていた。良かったのか悪かったのかよくわからない。

 やがて光輝の番になった。ものすごく緊張したまま答案を取りに行く。


(ぐっ……!)


 光輝も英莉香と同じようにその場で数秒立ちすくんだ後、自分の席に戻った。五十九点だった。


(もう少しできたと思ったのに)


 思ったよりも×が多い答案用紙を見つめる。どこをどう間違えたのか。確かにそれなりに難しかったが、全部の解答欄を埋めたことで妙な自信が生まれていたのかもしれない。


(これがおごりってやつか……)


 現実を見せられた気分だった。全員に答案用紙が戻ってきてから問題の解答と解説が始まった。自分の間違えたところの解説のところで「クソ!」とか「なんでここ間違えたんだ」とか心の中で毒づいていた。

 ただ、最後に英語の教師が今回の平均点が六十二点だと告げたことで、光輝は気を取り直した。


(あれ? ひょっとしてこれってかなりいいんじゃね?)


 すると授業の終わりのチャイムが鳴った。光輝はハッとして英莉香の方を見る。英莉香はまだ解答用紙をじっと見つめたままだ。

 今回は光輝の方から英莉香の席に行った。


「ターニャ、勝負だったな」

「そうだな」


 英莉香はパッと答案用紙を伏せた。


「フッ……フフ。覚悟はできているみたいだな」


 英莉香は不敵な笑みを浮かべた。――こいつ、やっぱり点数良かったのか?

 光輝は一瞬ひるんだものの、答案用紙を英莉香の机の上に叩きつけて言った。


「俺は、五十九点だ」


 英莉香は驚いて光輝の点数を見た。


「光輝が……五十点超え?」

「何点だったんだ?」


 すると英莉香は視線をそらしながらボソボソと、


「チ――Cincizeci şi cinci」

「あ? チンチン?」

「違っ――ご……ごじゅうごてん……」


 英莉香は顔を赤くして言った。


「五十五――勝ったッ!」


 光輝はガッツポーズをした。


「ターニャに勝った!」

「うぐぐ……絶対に勝てたと思ったのに……」


 英莉香は机の上に崩れるように悔しがった。


「四点差だが、今回は俺の勝ちだな」

「仕方ない……負けを認めてやる」


 今日の学校の帰りは光砂も一緒だった。


「ターニャに英語で勝ったんだぜ」

「ふうん」


 光砂の反応は薄かった。


「おい、もっと驚けよ。それともこんなレベルの低い点数争いは成績優秀な光砂先生には関心がないってか?」

「あのねえ、アンタは英語一点集中だったかもしれないけど、ターニャはそういうわけじゃないのよ? ターニャ、理科は何点だったの?」

「九十三点だ」

「は、はあー? きゅ、九十三?!」


 光輝は驚いて英莉香の方を向いた。ちなみに光輝の理科の点数は二十六点だった。


「つまりそういうことよ。ターニャは理系だし、一番大不得意な英語でむしろ平均点近くまでとったことの方が驚異的だわ」

「さすが。わかっているな、光砂」

「むう……」


 形勢が逆転した気分だった――試合に勝って、勝負に敗けるとはこのことか。


(いや、実際光砂の言う通りだ。俺には九十点も取れる教科なんて存在しない)


「まあでも、光輝も光輝なりに頑張ったじゃない」

「……すっげー上から目線だな。いや、実際そうなんだけどさ」

「光砂は英語何点だったんだ?」

「一問、ミスしたわ」

「……」


 英莉香との英語の勝負はともかくとして、光輝は自分でも少し驚いていた。

 平均点に迫る点数を取れたことよりも、間違えた箇所がどうして間違えたのか、もっとできたのではないかと、悔しいという感情が生まれたこと――次回は期末試験だが、少し頑張れそうな気がした。

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