第四話 ゲーセン仲間

(うむ。試験明けのビリヤードは実に楽しい)


 相変わらずの一人プレイではあるが、いつもより充実している感じだった。

 その後そのまま駅前のゲームセンターへと足を運び、いつものように対戦台でプレイしていた。

 平日の夕方前なので本来はあまり対戦は盛んではないが、今日はどうやらいい感じの相手に恵まれたようだった。互いに同じような実力だったし、負けたり勝ったりという感じである。

 そして光輝が三連勝した後、対戦していたと思われる相手が光輝に話しかけてきた。


「いや、やっぱり強いな青天目は」


「えっ?」と自分の名前を言われて光輝は思わず振り向いた。見たことがあるような、ないようなという感じだった。


「なんだよ、わからないのか? 森久保もりくぼだよ。同じクラスの」

「……」


 光輝はそう言われてもすぐにわからなかった。何せ、英莉香と伸一以外の人間とほとんどしゃべっていないのだから。けど、森久保と言われてわかった。


「森久保――じゅんか」


 ようやく思い出したように言った。ゲームが始まってしまうので光輝は慌ててゲームをプレイしながら言った。

 純は光輝や伸一と同じサッカー部に所属していた。そういえば今年同じクラスだったっけ、と光輝は今更ながらに思い出した。そして、〝元A組〟の生徒ではない。


「何度かここのゲーセンで見かけていたからな。ほら、それがあるから」


 純は脇に置いているキューケースを見ながら言った。


「ああ……近くにビリヤード場があるんだ」

「そうなのか。けど、マジで上手いな」

「学校に行っていなかったからな」


 光輝は自虐的に言った。


「お前だって結構やりこんでる感じじゃないか」

「そうだな。ただ、今年はもう受験だからあまり行けなくなるかもしれないから今日くらいは、って思って」


 ゲームを一旦終えると二人はゲームの話を中心に盛り上がった。

 光輝は伸一以外の人間とこんなに自然に話せることが不思議なくらいによくしゃべった。自分の好きなジャンルで好きに語り合えることがこんなに楽しいとは――


「学校行っていない間はずっとゲーセンとか行っていたのか?」

「まあ、さすがに金もそこまで続かないし、後は適当に。ビリヤードの方は料金が結構安いんだ」

「親には何か言われなかったのか?」

「いや、もちろん言われまくったよ。けど、そのうち諦めた」

「いいなあ。俺も気ままにやりたかったなあ。二年生のころなんて」


 しかし光輝は首を振りながら、


「それはない。まぁ俺が言える立場では全くないんだが……勉強なんかどん底だし、それに――今更クラスにはなじめないからな」

「けど、いつも新良木や青天目さん――妹と一緒に学校来てるじゃんか」

「アレはターニャが勝手に……」

「いいよなあ。羨ましいよお前が。勝ち組じゃねえかある種」

「はあ?」


 光輝は信じられないと言わんばかりに純を見て言った。


「俺が勝ち組? 逆だろ。だって、学校にすら来れなかったんだぜ?」

「青天目さんは兄妹だからともかく、新良木も人気があるし。みんな不思議がっているよ。お前と一緒に学校に来ているのが」

「まあ、不思議だな。ただ、小学校のときから一緒に学校に行っていたからその延長みたいなモンだ」


 本当にその通りだった。英莉香はあの頃と全く変わっていない。


「とにかく、俺はお前らと違って高校だって行けるかどうかわからない状態なんだ。これが負け組の現状だよ。クラスカーストで言えば底辺組だからな」

「二年生の時は全く学校に行っていなかったんだっけ?」

「最初の一週間くらいは行ったかな。そんなレベル」


 二人はその後もゲームをプレイして遊んで、夕方ごろに店を出た。


「また一緒にやろうぜ」


 純はそう言って光輝と別れた。


(……『また』、か)


 本当に久しぶりに友達と遊んだ気がした。独りで遊ぶより楽しいかもしれない――光輝は少し、そんな風に思った。



 ◇ ◇ ◇



 翌日は純の方から声をかけてきた。もっとも、光輝が自分からクラスメートに声をかけることなどないのだが。

 昨日のゲームの話の続きなどをしていた。光輝は学校に行っていなかったので自然とゲームばかりしていたし、純も結構なゲーマーだった。


「まあ、俺の本業はどちらかというとビリヤードの方なんだけどな。ゲームの方は家のゲーム機を没収されて以来はアーケードしかやってないし」

「ふーん、ビリヤードって一人でもできるの?」

「もちろん基本的には複数でやるゲームだよ。まあ、俺が通っているところは結構常連が多くて定期的に試合もやるし、もしくはたまにターニャとも打っていたし……」

「新良木もビリヤードやってんの?」


 純は少し驚いて言った。


「元々は小学生のころに俺がちょっと教えてやった程度だよ。まぁ今はそれなりにあいつも打てるけど」

「へえ、意外だ。初めて知ったよ。っていうか」


 純は改めて光輝を見て言った。


「本当、新良木と仲がいいんだな」

「小学校のころから仲は良かったからな」


 女子を含めて英莉香が光輝と学校に来ていることは前から不思議がっていたことだったが、光輝と同じ小学校に通っていた生徒も何人かはいた。


「まぁ、そもそもあいつが光砂と仲がいいというのがあるからな。多分そうじゃなかったら今みたいになっていないと思う」


 光輝は冷静にそう思っていた。元は光輝と英莉香が友達になったが、光砂とも友達になるのは必然だった。


「そういや、新良木ってどこの高校行くんだろうな。知ってる?」

「いや、まだ全く決めていないって言ってた」

「そうなのか。けど三者面談が期末の後にあるからそれまでには俺も決めないと……」

「え、さ、三者面談?」


 光輝は思わず言葉をひきつらせた。


「結果の如何によってはゲーム禁止条例を親に出されるかも……」

「うぐ」


 純の言葉に光輝は呻いた。


(俺なんか百パーセント禁止令が出るだろ……さすがにゲーセン中止とか……せめてビリヤードだけでも……)


 光輝は何とかして思考を張り巡らした。ゲーム機は光輝が不登校になった時点で没収されていた。けれどもゲームセンター通いは最悪塾の後にこっそり行ったりごまかしがきくと思った。

 ただ、ビリヤードの方は自分のキューを持っていく必要があるし、自分のキューでやりたいのもある。


(店の親父さんに預かってもらうとか、相談できないかな……)


 しかしまだそうと決まったわけでもないのでその時になったら考えようと思った。

 ただ、唯一の息抜きは奪わないでほしいと思った。昨日みたいに試験明けのゲームはとても楽しかったからだ。

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