「三日月少年漂流記」「天体議会(プラネット・ブルー)」長野まゆみ
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「 水蓮は三日月少年たちが何処へ行くのか知っているのか。」
彼は銅貨の持っている毛布で顔を拭った。
「 彼らは自分たちの棲み家へ帰って行ったのさ。」
「 棲み家って。」
「 決まっているさ、三日月だよ。」と水蓮は笑う。
出典:『 三日月少年漂流記 』長野まゆみ より
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「 後ろ髪をひかれるって、このことだな。」
銅貨は夜の靄(もや)の中へ紛れてゆく船を見つめて呟いた。 万華鏡(カレイド・スコープ)の中に、水蓮が淡碧(うすあお)い剥片を、銅貨が貝釦(ボタン)を砕いて入れたあのとき、少年たちの脳裏にはまだ覗きもしない万華鏡の模様が見えていた。
少年たちは別れの挨拶ひとつしなかったが、その必要もなかった。
客船は沖へ向かい、まるで水先案内(カノープス)に導かれて南へ行くように見えた。」
出典:『 天体議会(プラネット・ブルー) 』長野まゆみ より
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今日も「少年アリス」と「野ばら」「夏至祭」に続いて長野まゆみ作品から二冊ご紹介したいと思います。
「野ばら」「夏至祭」では“ 月彦 ” “ 黒蜜糖 ” “ 銀色 ”という共通した(同じ名前でも別人ですが)登場人物が出てきました。
今回の「三日月少年漂流記」 「天体議会」にも“ 銅貨 ” “ 水蓮 ”という共通した登場人物が出てきます。
(そして、こちらの二人も同じ名前だけれども別人のようです)
「夏至祭」が「野ばら」の初期形であったように、「三日月少年漂流記」は「天体議会」の為の習作として書いたものに手を加えたのだそうです。
******「三日月少年漂流記」 河出文庫版の解説でも触れられていますが、そう思えば、この作品は「天体議会」のパラレルワールド的な、もう一つの世界ともいえるかもしれません。
三日月少年とは充電式のニッカド電池で動く精巧な自動人形につけられた名前です。
この人形がある日、博物館から姿を消し、銅貨と水蓮は三日月少年を探すために始発電車に乗り込みます。
******「天体議会」 こちらは人口の激減に伴って連盟(ユニオン)が人口管理するようになった近未来が舞台です。
けれど、どこかノスタルジックである世界は長野作品らしい。
天体、美しい名前を持つ鉱石の数々、ペン先が針のように細く見るからに精巧な硝子質なペン、洋墨(インク)の表記と菫色から次々に色を変え、しまいに水晶柘榴のようになる変わり玉、万華鏡……。
紡がれていく夢のような物語の中に、このまま溺れていたいような……。 繊細でありながら硬質な世界観に惹かれます。
少年たちの友情と兄との確執、自動人形めいた不思議な少年との出逢い。“ 南 ”へ行くという意味。
是非、三日月少年や水蓮と銅貨に逢いに行ってみてください。
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