「野ばら」「夏至祭」長野まゆみ
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「 真昼の庭を漂う芍薬の香と、ひそかに降る夜合樹(ねむ)の綿毛が視界を白くする。野ばらはめまぐるしく散り、意識がふッと跡切れるように感じた。柘榴の果実は口の中で溶けて喉を湿らせ、落ちてゆく。月彦の体の底深くへ、ゆっくりと。」
出典:『 野ばら 』長野まゆみ より
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「 ひとりの少年は襟をピンでとめた白いシャツブラウスを着て、端正な額の下に細い鼻と少し眦(まなじり)のあがった睛(ひとみ)を持っていた。いまひとりの少年は月彦のところからは横顔しか見えなかったが、大きな黒い睛をした美しい少年だ。胸のところに薄水青の紗のリボンを結んだ白い襟の濃紺の服を着ている。」
出典:『 夏至祭 』長野まゆみ より
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長野まゆみ「少年アリス」に引き続き「野ばら」と「夏至祭」という初期の二作品を、ご紹介したいと思います。
この二作品には “月彦” “黒蜜糖” “銀色” という共通した名前の登場人物が出てきますが、「夏至祭」のあとがきで長野さんは“本文は『野ばら』の初期形であり”と書かれているし、同じ名前でも別人のようです。
それにしても長野さんの作品に登場する少年達の名前は幻想的で美しい。
長野ワールドの中だからこそ、その名前はしっくりと、これ以外考えられないほど馴染む気がします。
「野ばら」は白い野ばらの垣で囲まれた庭での幻想譚。
夢から覚めたと思うと、また夢の中、夢なのか現実なのか、その境目でゆらりゆらりと月彦は彷徨います。どこか仄昏い世界に囚われてしまうように。
柘榴の紅、野ばらの白、かたたた、かたたたというミシンの音。
そして「夏至祭」の無邪気な黒蜜糖、クールな銀色と違って「野ばら」の黒蜜糖と銀色は妖しくて昏い夢の匂いがします。
「野ばら」の初期形だという「夏至祭」、あなたはどちらがお好みでしょうか。 是非、二冊合わせてどうぞ。
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※長野まゆみさん、もう少し続きます。
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