「森村桂の食いしんぼ旅行」 森村桂
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「 ああ盲腸のあとの生きるか死ぬかの時ですら、決しておいしくもないワラジだかゴムゾウリだかのようなビフテキを離さなかったのだから、私という人間は、あくまでもいやしい。
願わくば、死んでからは餓鬼道に落ち、十分おきくらいに、お腹がすいてたまらず、何でもいいから、手あたりしだい食べつづけていたいものだ。」
***「願わくば餓鬼道に生きつづけたい」 より抜粋
出典:『 森村桂の食いしんぼ旅行 』森村桂 より
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森村桂さんは「天国にいちばん近い島」を代表作とする作家です。 この旅行記はドラマや映画の原作にもなったので、ご存知の方も多いと思います。
わたしはこの作品も好きなのですが、これ以後に書かれた旅行記シリーズが大好き。
「森村桂アメリカへ行く」
「森村桂日本を行く」
「森村桂沖縄へ行く」
「森村桂パリへ行く」
「森村桂香港へ行く」
など、夢中で読みました。
そして、その後に出された「森村桂の食いしんぼ旅行」(1975)
これはニューカレドニアに始まってトンガ、フィジー、パリ、インド、アメリカ、香港、ネパール、オーストラリアとニュージーランド、西ドイツ、スイス、イギリス、スペインと世界中を、まさに“食いしんぼ”の森村さんが食べ歩いた旅行記です。
これらの旅行記はかなり昔の作品なので、国の情勢が変わっていたり、例えばガイドブック的なものとして読むには適していません。
でも食べることが大好きな人の食への飽くなき情熱が、ここにはあるのです。
わたしは食の描写が上手な作家さんに惹かれます。
そして森村桂さんも、そのお一人です。
とても残念なことに森村桂さんの本は絶版になっているものが多く、中古本でもなかなかみつかりません。
◆
「子豚の丸焼きは、まだあたたかかった。周りがテカテカと茶色く、皮はバリバリしておいしく、肉はやわらかかった」
***「子豚の丸焼きの味付けは」 より抜粋」
◆
この文章を読んで、その味を想像して生唾をのみ、同じく食いしんぼのわたしは、どれだけ子豚の丸焼きに憧れたことでしょう。
そうして
◆
「王様のパン……、私達はあまりにも何げなく“王様のパン”を、食べすぎてしまった。そして、私達は、本当の王様のパンを、見失ってしまったのではないだろうか。三角パンを食べながら、私はいたたまれない思いがした」
***「四百年前に渡って来た王様のパン」 より抜粋
◆
こういう感性を持ったひと。
実は森村桂さんの本、読み込みすぎてボロボロになり(でも捨てきれず)同じ本を探して再購入するほど愛読しています。
だから尚更、もっと皆さんに読んでいただけるといいのに……と思わずにはいられません。
森村桂さんという人は、とても繊細でありながら明るく好奇心の塊で時に童女のよう。
でもだからこそ孤独や苦しみの深さを抱え、その生涯に影を落としたようにも思えます。
そんなとても人間くさい桂さんの本が、わたしはずっと愛おしく好きなのです。
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