「蝶花嬉遊図」田辺聖子

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「 私は、レオがそうする、といえば、必らずそうすることを知っていた。


そして、食事はどこかで摂り、家で洗濯も掃除もし、平静な顔で、ちゃんと日常のくらしを破綻なくつづけていける男であることも知っていた。


私とおしゃべりすること、私といちゃつくこと、私と笑うこと、


それらを、あんなに喜んだ人が、それを全く失っても、堪えていける人であるのを知っていた。


いや、それだから、よけい、私といるとき、あんなに時間のすみずみまで、楽しみつくしたのかもしれない 」


出典:『 蝶花嬉遊図 』 田辺聖子 より

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 田辺聖子さんの本の中でも自分的ベスト3に入る作品です。


 まず田辺さんの恋愛小説の関西弁が、とてもいい。

 関西弁と恋愛小説?と一見思うけど、これが柔らかで温かく響く。 言葉や表現を吟味されているからだろうけれど、気取ってないけど決して下品になっていない。


 そして、どの作品もそうなのですが、この「蝶花嬉遊図」に出てくるものの伸びやかな美しさ。 丸太の食卓「ドデン」、濃い紫地の友禅の振袖を寝間着にしたり、カーテン代わりに籐の衝立にうちかけたり、日々を堪能する生活。

 食べ物描写が、また美味しそうなのです。 いためうどん、ようく煮込んだロールキャベツに、鮒のなれずしでつくるお茶漬けetc……。


 充実した愛の日々を送っている三十三歳の「モリ」と妻子ある五十男の「レオ」 そんな幸福な毎日にも少しずつ変化が見えてきて……。


 物語の最後の文章(引用文とは違いますけれど)が、ほろ苦く心に沁みます。

 

 これは、大人のお伽噺のような恋の物語なのです。

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