リーファ・マクスウェルに関して
マルクは、本間邸へと足を運んでいた。
そこに訪れるのは、約一カ月半ぶりだった。
以前は水澱ジェラスとリーファ・マクスウェルの関係を調べるために訪れたが、今回は違う。
彼は、一ノ宮王人の手に入れたエイデン・マクスウェルの手紙から、二人の少女の正体をおおよそ把握していた。
今回そこを訪れたのは、本間元春にリーファ・マクスウェルの話を伝えるためだった。
以前の時の様に、居間に案内されて話を始めた。
「まず初めに……リーファ・マクスウェルという名前は、彼女の名前の一つだったということがわかりました」
「……彼女は、私には名を名乗らなかった……もう一つの名前というのは一体……」
本間は以前と変わらず陰気な雰囲気を纏っていた。
「彼女のもう一つの名前は…………闇崎楼図」
「……闇……崎……?」
「紫龍園州議長の闇崎堂山と同じ苗字です」
「な……」
その名は、エイデン・マクスウェルの手紙に記されていた。
初めてそれを見た時は衝撃が走ったが、そこに記されていたことは、確かに信憑性があった。
その理由は、エイデン・マクスウェルの存在が、確かにリーファ・マクスウェルと関連していたからだ。
「その名が記されていたのは、エイデン・マクスウェル氏の手紙です。彼とリーファ・マクスウェルの関係は公的な記録には残されていませんが、病院などの記録を調査した結果、確かな筋で血縁関係があることを判明させました」
「……そこまで調べたとは……」
実際に調査したのは王人だった。
彼は何年も調査を続け、先日ようやくエイデン・マクスウェルに娘がいることと、その娘が『第二の事件』の死者であることを明らかにした。
「……しかし、事件当時、彼女は『非籍民』だった……。彼女の本当の父親がエイデン・マクスウェル氏であるならば、何故彼女は『非籍民』に? そして……州議長と同じ苗字を持つ理由は……?」
マルクは自分の眼鏡に触れる。
どこまでを本間に話すのか考えていたのだ。
全てを話すわけにはいかないが、出来るだけ彼女のことは伝えたい。
そう思った彼は情報を取捨選択する。
「彼女は……初めから『非籍民』だったんです。名前は……後から付けただけに過ぎない……」
「初めから……? 生まれた時からという意味ですか?」
「はい、そうです。彼女は、生まれてすぐに父親の下を離れた。そして、『闇崎楼図』という名前を名付けられた。そして死後、彼女の父親が『リーファ・マクスウェル』という名を警備隊に告げた……」
「……一体何故……そんなことを……」
「それは…………今はまだ話せません。しかし、彼女がこの街の暗部と関わっていたことには違いありません。……本間さんの下を訪れたのは……恐らく、暗部から逃げてきたのだと思います」
「そう……ですか……」
本当は全てを教えてしまいたかった。
しかし、まだ本間を危険に巻き込む可能性がある以上、制限を掛けざるを得ない。
「それと、もう一つだけ」
「? まだ……彼女には何か秘密があったのですか?」
「本間さんが見た『リーファ・マクスウェル』は、恐らく……二人いたのだと思います」
「え……ど、どういう意味ですか?」
「……今はもう、彼女の顔を判別する方法はありませんが……どうやら、彼女に瓜二つの双子がいたのです」
「な……え?」
「その人物の名前こそ……『水澱ジェラス』」
本間は愕然としていた。
あまりの突飛な真実に、動揺を隠すことなど不可能だった。
「ま、まさか……そんな……」
「全て手紙に記されていました。間違いありません。だから……彼女ら双子が同時期に亡くなったのには……必ず理由がある。僕はそう確信しています」
「…………」
あまりのことに、本間は言葉を失っていた。
しかし、これらが手紙に書かれていたというのは本当のことだった。
「……貴方は……それを解き明かしてどうするのですか?」
沈黙を生み出した本間は、自らもう一度口を開いた。
「僕はただ、紫龍園の闇を晴らすだけです」
マルクは淡々と大それたことを言い放った。
「……果たして……そんなことが可能なのでしょうか?」
「方法は考えています」
「え……どうするつもりですか?」
「……『議会法廷』を開きます」
マルクは口角を上げた。
その目には、自信が溢れていた。
「まさか……! しかし……それで上手くいくとは……」
「はい。でも……何もせずにはいられないんですよ」
マルクは苦笑いをしながらそう言った。
彼は、既に覚悟を決めていたのだ。
いや、彼だけではない。
彼には、共に『闇』と戦う仲間がいた。
そして、愛する人も。
事件の全ては……最後に、一つの道に向かおうとしていた――。
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