1032年 12月4日 ②
州議会所 資料室
マルクは何を察知したのか、州議会所の西館の方にある資料室の方へ向かった。
フロアは中央館にあるが、距離はそう遠くはない。
しかし、何故そこへ向かったのかがわからなかった。
だが、どうやら付いていったのは間違いではなかったようだ。
「オジ……サマ……? オバ……サマ……?」
アンは、膝から崩れ落ちていた。
私は冷静に応援を呼んだ。
流石に、私一人には手に余ると考えたからだ。
この――――――――オーバーン夫妻の遺体の処理は。
*
資料室に辿り着くと、すぐに二人の遺体が目に入った。
弾丸は一発ずつ。
二人とも、頭を撃ち抜かれていた。
即死だろう。
しかし……一体何故……?
「万丈警部、少し現場に入ってもいいですか?」
マルクが私に問いかけてきた。
「何を言っている。駄目に決まっているだろう」
「少しだけです……何にも触れません」
一体何を考えている?
マルクはどうも私より冷静に見えた。
私は、いち早くこの資料室に向かった彼に何かしらの思惑があるのだと考え、『触れないこと』を条件に、私の責任の下現場に立ち入るのを許可した。
「……成程……」
マルクは、資料室の机に開かれた何かの本を眺め、そう呟いた。
「どうした?」
私が問いかけると、マルクはこちらに戻ってくる。
「……僕の予想していた通り、夫妻は『怪死事件』について調べていたようです。そこを誰かに狙われた……」
「何? どういうことだ? 何故夫妻が『怪死事件』について調べていたと予想を?」
「僕が、それを目的にしてここに来たからです。州議会所の資料室には、一般人が見られない州議会の議事録や、それに類する資料が見られる。僕は予め夫妻に協力をお願いしていた……アンには内緒で。彼女を危険にさらしたくない二人は、彼女に早く事件から足を洗ってほしかった。だから、僕に任せてもらうように頼んでいたんです。僕が一人で全てを調べてしまえば、アンが無茶をする必要はなくなりますから」
何ということだ。
では、初めからマルクはオーバーン夫妻に取り入っていたのか?
やはり……この青年は恐ろしい男だ。
「なら……一体誰が二人を……」
「それはわかりません……。ですが、『紫龍園連続怪死事件』を調べてほしくない人物がいる……と考えた方が良さそうですね……」
マルクは俯いていた。
だが、それ以上にアンは跪いたまま深く俯き続けていた。
「アン……」
マルクは、掛ける言葉もないといった様子だ。
私も応援を待つ以外出来ることは無かった。
夫妻は、一体何故殺されたのか。
『紫龍園連続怪死事件』とは……一体何なのか。
この街には、一体どんな闇があるのか。
ああ……考えるのも面倒だ。
そうだ、私は関係ない。
関係ないじゃないか。
全てどうでもいい。
どうでも……いいはずだ。
アンの嗚咽が漏れ始めると、私は傍観者気取りの自分自身の性格に、嫌気が差し始めていた。
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