2
須玖樹通りは、繁華街を抜けた先にある人通りの多い街路。
その道を北に真っ直ぐに進むと、やがて紫龍園の観光スポットの一つである
王人とジョシュア、そして依頼人の男、バックス・ウィルソンは、その方向へと歩いて向かっていた。
「アルジ、どこへ向かうんですか?」
ジョシュアはウキウキしながら王人に尋ねた。
「ああ……昔馴染みのところだ」
バックスは疑問に感じていた。
何故なら、今自分たちが向かっている場所は、記憶が確かならば、『紫龍園連続怪死事件』のうちの『第四の事件』の現場そのものだったからだ。
王人がそこを、『昔馴染みのところ』といった意味がわからなかった。
「一ノ宮さん、貴方は一体……」
「ああ、別に事件の当事者ではないですよ? ただ、当事者と知り合いなだけで」
「当事者……今向かっているのは、
「ああ、何も知らないでしょうよ。しかし、私にはあそこに向かう理由がある」
「それは一体……」
王人は、人差し指を一本立てた。
「一つ、彼らは事件の関係者ではあるが、事件については何も知らない。二つ、しかし事件の真相を知りたい私は、彼らに聞かなければならないことがある。よって三つで締めくくる……つまり、私が彼らに聞きたいこととは、事件についてではなく、事件に関係させれば真相に近づくかもしれないことである……というわけです」
独特な言い回しに一瞬唖然としたバックスであったが、すぐに自分を取り戻す。
「で、ですから、それを教えてほしいのですが……」
王人は、勿体ぶって微笑んだ。
「そうですね……今話しても、ご理解いただけないと思いまして……」
「ど、どういうことですか……?」
バックスはまるで王人の意図がわからない。
それも当然、身内のジョシュアですらもわからずにいたのだから。
「アルジ、勿体ぶらないで言っちゃいましょうよ。さあ! 吐け!」
ジョシュアはあざとく上目遣いで急き立てる。
「……仕方ないな……」
王人は立ち止まった。
隣のジョシュアも、後ろを歩いていたバックスも、それを見て立ち止った。
「……貴方は、催眠術師を信じますか?」
王人は、真剣な眼差しでそう尋ねた。
「は……はい?」
「催眠術師ですよ。精神療法などのようなチャチなものではない、他人を自在に操ることが出来る術を使う存在ですよ」
「い、いや、何言っているんですか。そんなものいるわけが……」
「いいえ、います」
王人は目を細めた。
その瞳はまっさらで、嘘を吐いていたり、冗談を言う様には見えなかった。
「催眠術は、確かに存在しています。そして、この紫龍園には、確かに催眠術師が実在している……。それが、鏑木家です。私は、その催眠術師が『紫龍園連続怪死事件』に関係しているのではないかと考えています」
バックスは、王人の言っていることがまるで理解出来なかった。
――催眠術師だと……?
――そんなもの、いるわけがない……いるわけが……。
だが、それでも王人は、虚実を尽くさんとするかのような真剣な表情を見せるだけだった。
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