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 須玖樹通すぐいつきどお




 須玖樹通りは、繁華街を抜けた先にある人通りの多い街路。

 その道を北に真っ直ぐに進むと、やがて紫龍園の観光スポットの一つである散屍山さんしかやまが見えてくる。

 王人とジョシュア、そして依頼人の男、バックス・ウィルソンは、その方向へと歩いて向かっていた。


「アルジ、どこへ向かうんですか?」


 ジョシュアはウキウキしながら王人に尋ねた。


「ああ……昔馴染みのところだ」


 バックスは疑問に感じていた。

 何故なら、今自分たちが向かっている場所は、記憶が確かならば、『紫龍園連続怪死事件』のうちの『第四の事件』の現場そのものだったからだ。

 王人がそこを、『昔馴染みのところ』といった意味がわからなかった。


「一ノ宮さん、貴方は一体……」

「ああ、別に事件の当事者ではないですよ? ただ、当事者と知り合いなだけで」

「当事者……今向かっているのは、鏑木かぶらぎ邸ですよね? 『第四の事件』の関係者……。しかし、何も知らないと警備隊には話したそうでしたが……」

「ああ、何も知らないでしょうよ。しかし、私にはあそこに向かう理由がある」

「それは一体……」


 王人は、人差し指を一本立てた。


「一つ、彼らは事件の関係者ではあるが、事件については何も知らない。二つ、しかし事件の真相を知りたい私は、彼らに聞かなければならないことがある。よって三つで締めくくる……つまり、私が彼らに聞きたいこととは、事件についてではなく、事件に関係させれば真相に近づくかもしれないことである……というわけです」


 独特な言い回しに一瞬唖然としたバックスであったが、すぐに自分を取り戻す。


「で、ですから、それを教えてほしいのですが……」


 王人は、勿体ぶって微笑んだ。


「そうですね……今話しても、ご理解いただけないと思いまして……」

「ど、どういうことですか……?」


 バックスはまるで王人の意図がわからない。

 それも当然、身内のジョシュアですらもわからずにいたのだから。


「アルジ、勿体ぶらないで言っちゃいましょうよ。さあ! 吐け!」


 ジョシュアはあざとく上目遣いで急き立てる。


「……仕方ないな……」


 王人は立ち止まった。

 隣のジョシュアも、後ろを歩いていたバックスも、それを見て立ち止った。



「……貴方は、催眠術師を信じますか?」


 王人は、真剣な眼差しでそう尋ねた。


「は……はい?」

「催眠術師ですよ。精神療法などのようなチャチなものではない、他人を自在に操ることが出来る術を使う存在ですよ」

「い、いや、何言っているんですか。そんなものいるわけが……」

「いいえ、います」


 王人は目を細めた。

 その瞳はまっさらで、嘘を吐いていたり、冗談を言う様には見えなかった。


「催眠術は、確かに存在しています。そして、この紫龍園には、確かに催眠術師が実在している……。それが、鏑木家です。私は、その催眠術師が『紫龍園連続怪死事件』に関係しているのではないかと考えています」


 バックスは、王人の言っていることがまるで理解出来なかった。


 ――催眠術師だと……?

 ――そんなもの、いるわけがない……いるわけが……。


 だが、それでも王人は、虚実を尽くさんとするかのような真剣な表情を見せるだけだった。

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