第14話
お互いの昔話を終えて、明日の逃走に備えて両者とも眠りについた。
……そう思わせて、微かな常夜灯だけが照らす暗がりで、私はベッドから静かに起き上がった。
床に敷いた布団で眠る、同年齢くらいの青年の寝顔に目を落とす。
偶然居合わせた殺戮兵器に命を狙われて、私達の組織に加入して、魂の閲覧やら魂の同期をその日のうちに会得して――その能力で、私の命を救ってくれた。
数時間の間に彼の身に起きた濃密な出来事を思い返して、長々と雑談に付き合わせてしまったことを少し申し訳なく思った。と言っても本当に少しだけだ。楽しそうに喋っていた彼のほうにも責任があるだろうから。
青年は、隣で爆睡する少女と兄妹であるかのように、間抜けに口を大きく開いて豪快に眠っていた。
「こんなにぐっすり寝ちゃって。ヘカテのことをどうとか言う前に、自分の寝てる姿を録画して確かめるべきなんじゃないの?」
誰にも聞かれないはずなのに、誰にも聞かれないよう声を潜めて呟く。
「……勝手な人だよね、君は」
眠気を感じることができなかった。ずっと心が落ち着かず、脳内物質が過剰に分泌されていた。今日まで感じたことのなかった様々な初めての感情に、私の中身は掻き乱されて、今もまだ混乱している。
私が大変な状態であることに気づかず、そうなった原因も知らず、大人びた青年は無邪気な少年の姿に戻って深い睡眠に身を委ねていた。
彼がこれから何をするのか、確かなことはわからない。私が魂の閲覧で目の当たりにした〝希望〟は、本当に彼なのか。真偽は未だに不明なままだ。
それでも、私は未来を確信しつつある。
私が望む未来をもたらしてくれるかもしれない青年に、私はやっぱり、誰にも届かないほど小さな声で、
「私は、こんなにも意識してるっていうのにさ」
今夜眠れない理由を、呟いた。
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