第24話 大樹がテンプレをするようだ

「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」


 我慢してたのだが血の臭いを長い時間嗅いでいたら胃に限界が来て吐く。あっちも限界が来たのかオゲェェェェェと吐いていた。大樹、お前もか。


 水で口をすすいで大穴のを覗き込む。下の方の一角兎は息絶えてたので折を見てストレージに仕舞っていったので始めに予想したよりも作業量は少ないがいい加減疲れてきた。それでもあと一息の所まで来てたので頑張って終わらせる。


「やっと終わったー」

「このモンスターは当分のあいだ見たくねえ」


 マット代わりのシールドを展開して倒れ込む。固かったが今はそれをいとう余裕は無かった。


 だらだらと寝っ転がったまま使わないシールドの解除や穴を戻す。30分くらい休憩したら川で血抜きしてた一角兎いっかくうさぎを回収して帰路に着く。


 時間は正午をとっくに過ぎてる感じか。というか太陽的な恒星が真上を過ぎてるがそもそも一日は何時間になるんだろうか。それもおいおい調べないとな。


 スライム探しと一角兎を探しはそれなりに時間が掛かっていたし、一角兎に止めを刺しての血抜きも加えてかなりの時間を消費したはずなので体感では朝6時に出たとして昼3時は回ってそうだ。お腹もめっちゃ減ってるしな。いやそれは吐いたからか。


 街に帰ろうとして気づいたが現在地は不明の迷子状態だった。探し回って追いかけ回されだったので当然と言えば当然ではある。だが問題ない。何度目かのシールド階段で木々よりもずっと高い位置まで登って街の方向を確認して歩き出した。






 街に戻ると日はかなり傾いていた。夕日にはなってはいないけど城壁近くの家は城壁の陰に入っている。日没まで時間はそんなにないかもな。


「あっそうだ、俺あれやってみたい。漫画でやってたやつ」


 内容を聞いたらくだらない事だったが今日は精神的に色々と疲れて止める気力もない。好きにしてくれ。


 冒険者ギルドに着いたら報告窓口に向かう。丁度前の人が終わって他に並んでる人もいなかったのですぐに報告する。


「一角兎ですか。単独行動してるのを見つけられたのは運が良いですね」

「良いんですかね? 追っていったら数えるのも馬鹿らしいほどの群れが居て追いかけ回されたんですが…」

「群れを発見して見つかったんですか!? 今は一角兎の繁殖期に入ったばかりだから普通は下位ランクの冒険者は近づきませんよ!?」


 これ遠回しに馬鹿って言われてる?


 対応してくれたのはマーガレットさんで報告内容を聞くと驚き半分呆れ半分の反応をされた。何でも繁殖期以外はほぼ単独で活動してる一角兎だが今は繁殖期に入ったばかりで集まって相手を探してつがいになって行動するのだとか。集団お見合いかよ!


 空間収納にたくさん入ってる事を伝えると解体所に案内してくれるみたいだ。その途中でスタッフらしき女の子に出会う。


「マーガレットさんお疲れ様です。わざわざこっちに来たのは何か用事ですか?」

「リノちゃんもお疲れ様。丁度良かった。新人さんたちに解体所の場所を案内してくれないかな?」


 マーガレットさんはリノという少女の持ってたビンの入ったケースを受け取ってその少女に案内を引き継いだ。リノは見たところ12か13歳だがお手伝いとかではなくここで働いているのだろう。日本でも義務教育が無かった頃は子どもも大事な働き手だったと聞いたことがある。だからしっかりしてるのだろう。あと5年もすればヒロインになれそうだ。


 未来のヒロインちゃんに案内されて着いた解体所はバスケットボールのコートよりも一回りくらい広かった。


「新人なんだってな、って獲物はそれだけかよ」


 門を通るときに怪しまれないように最初に血抜きした二匹だけ手に持っていたのを見て俺たちよりも少し上の年齢の男のスタッフがガッカリしたように言う。


「いえ、これは違いますしもっとたくさん有ります。そちらの机に乗せても?」


 大樹が中央の大きな机を指差し許可を貰うとそれに近づいていく。俺はそちらには向かわずに端っこで眺めることにする。


 「ストレージ」と大樹が唱え黒い空間の後に現れたのは今にも崩れそうな程に高く積まれた一角兎と一緒に出てきた大量の血だ。割れた水槽から水が流れ出るように血が机から落ちて解体所に広がっていく。


「俺、何かやっちゃいました?」


 それを言うなら『っちゃいました?』だろ。昔の洋画のホラーにありそうな凄惨な事件のあった洋館みたいになってんじゃねえか。知らんけど。


 一気に室内に広がる血の臭いが胃に来るが少し慣れたこともあって何とか耐える。


「ゲボロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」


 あーあ、未来のヒロインちゃんがゲロインにポジションチェンジしちまったじゃねえか。


 直後頭の天辺に痛みと衝撃が走った。


「~~~っ」


 片目だけ開けて涙目で前を見ると「何やってんだ!」と大樹の頭にも拳骨ゲンコツが落ちてた。なんで俺まで…。


「親方、新人たちがこれを…」

「これは一角兎か? 今は繁殖期に入ったばかりだろ! 獲りに行く馬鹿がいたのか!?」


 やっぱり普通はこの時期には狩られないモンスターらしい。


「それって俺たちの実力が弱いって意味ですよね?」

「頭が弱いって意味だよっ!」


 もう一度拳骨を喰らった大樹。親方さん、バカだと思うならもう頭に拳骨落とすのはやめたげてよ。


「床をこんな風にしちまいやがって。これ掃除する分は報酬から引いとくからな!!」


 血の臭いは大樹のストレージを使えば片付けれそうだったがそのままにした。報酬から引くって言ってたから片付けても迷惑料とか言われて戻って来ないかもしれなかったし。


 報酬を受け取りマーガレットさんにお薦めの宿屋を聞いてその日はそこに泊まることにした。報酬は俺たち二人が半月ほど泊まれる値段だったので少しの間は余裕がありそうだ。


 ちなみに宿屋の食事は思ってたほど悪い物ではなかった。

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